「 狂気の宴 」 妖の宴 |
「 楽しそうでございますな、お嬢 」 「 カワエロ、そなた良い土産を持たせたな。 おかげで、暫く退屈せずにすみそうじゃ 」 『お嬢』と呼ばれた白い妖の女は、手にした鈍く光を弾く古い手鏡を見えない紅い瞳で覗き込む。 そこに映っているのは、先日この館に迷い込んだ若い男女。 「 もったいない使い方をなさる 」 鏡の妖力を理解出来ずに戸惑い持て余している女と、抗う事無く受け入れ自ら囚われた男。 閉ざされた狭い空間で繰り広げられるいつ終わるともしれない狂宴に、カワエロはため息を零し、白い女は楽しげに嗤った。 「 無理難題を言いつけて男が破滅していく様を楽しむもよし、 権力者を操って面白おかしく暮らすもよし、 男どもを競わせて戦を起こさせるもよし、 あの鏡の使い方次第で傾国となるもたやすいというに、 男1人操る事も出来ずに返って振り回されるなど、ほんにつまらぬ娘よの 」 「 まさに、宝の持ち腐れでございますな。 価値のわからぬ者に持たせておくのも業腹ですし、取り戻して参りましょうか? 代わりの礼ならば、他にいくらでもございますゆえ 」 「 そう急がずともよい。 男どもの狂気で磨かれた鏡なれど、時には女の狂う様を見るのも一興じゃ。 女の狂気で鏡が曇るようなら、その時に取り上げればよかろう? 」 細かな細工が施された手鏡の縁を細い指先でなぞりながら、白い女がその紅い瞳をカワエロに向けた。 「 人間とは、面白い生き物よの 」 「 左様でございますな 」 手鏡に映る、果てのない狂気の宴。 見えない紅い瞳を手鏡に戻した白い女は、また楽しげな嗤い声を上げた。 |