「 色喰夜会 」 第 十三 話 | |
学祭3日目の今日も、茶店は繁盛しとった。 昨日一昨日とカウンター傍のテーブルを占領しとって、今日のオレのシフトもしつこいくらいに訊ねてきたオンナ共が居らんのが気になったが、昨夜府警の顔見知りの刑事に殺されたオンナの情報と一緒にアイツらん事も電話で言うておいたから、今頃はきっと聴取でもされとるんやろう。 カウンター代わりの長机に戻ってオーダー票を渡すと、マスター役の横山が『サービスや』とオレにコーヒーを差し出した。 「オマエのおかげできっちり利益出そうやわ。シフト譲った谷川に感謝やな」 「譲られたんやのうて押し付けられたんやし、文句も言わんと引き受けたったオレに感謝とちゃうんかい!帰りが遅うなるモンやから、嫁ハンがご機嫌ナナメやねんぞ?」 「ああ、そら奥さんには悪い事したなぁ。後で感謝込めて挨拶に行かんと」 「ウチは来客お断りや」 「そらアカンで、服部。友達の友達は皆友達てどこぞの誰かも言うとったし、ツレのオマエの奥さんなら俺にとってもツレやん」 マスター役として3日間茶店に張り付いとった横山が、不機嫌なオレのセリフを涼しい顔でさらりと流した。 放浪癖のある横山は、この茶店で利益が上がったらまたふらりと旅に出るつもりらしい。 この茶店を出す時に、赤字が出たら皆で折半、利益が出たら責任者としてマスター役でずっと店に張り付く横山が半分取って残りを皆で分けると決めてあるから、売上が伸びるのは望むところなワケや。 「まあ、学祭も今日で終わりやし、これも人気者の務めや思て頑張れや」 横山に盆を押し付けられて、オレは仕方なくホールに戻った。 煩いオンナ共の相手は面倒やったが、それも今日で終わりや。 初日に和葉連れて来た事とそん時のオレの態度、それから何故か頻繁にオレに和葉の話題を振ってくる横山のおかげでどうやら目的も達成出来たようやし、後は時間が過ぎるのを待つだけやった。 「服部君……」 テーブルを回っとったオレに遠慮がちに声を掛けて来たんは、谷川のオンナやった。 「今日はどうしたんや?谷川、また夕方まで来れんらしいで?」 「そうなんや……」 「そうなんやて、昨日会うとるんやろ?」 「会っとらんよ。昨日服部君の携帯で保と話した後にな、また電話があってこのまま実家帰る言うて切られてもうたん。それから全然携帯繋がらんし、今日はココに出とるかなと思て来てみたんやけど……」 そう言ってため息をついた谷川のオンナは、すまなさそうにオレを見上げて来た。 「私、これから教授のお供で学祭回らなアカンから、保が来たらまた電話して欲しいんやけど、ええかな?」 「ああ、ええで」 「ありがとう。お邪魔してゴメンな」 教授を待たせとるんか、谷川のオンナは礼だけ言うて店を出て行った。 谷川が来たんは、それから3時間くらい経ってからやった。 「2日間、ホンマすまんかった!」 息を弾ませて店に走りこんで来た谷川は、拝むように片手を上げてそう言うと、まだ新しい紺のコートを乱雑にカウンター奥に放り投げた。 谷川は、一昨日はこの冬毎日着てたグレーのコートやったんに、昨日は黒のコートを、そして今日は紺のコートを着とる。 どっちも新品らしいが、一冬にコート3枚も買うなんあんまり服装に拘らん谷川にしてはおかしな話や。 付き合い始めてもう1年以上経つ言うとったからあの漣ゆうオンナの影響とも思えんし、自分のオンナからの電話も繋がらんてあたりから浮気やら何やらいくらでも疑えるが、実家に帰っとったて話やから母親にでも買い与えられたんやろう。 そんな事を考えながら、約束通り谷川のオンナに電話する。 昨日と同じように谷川に携帯を渡すと、またあのボディーソープの匂いがした。 「ほんならな」 コートとボディーソープと、どこか引っ掛かる事はあったが、それ以上に留守番させとる和葉が気掛かりやったから、谷川から携帯を取り返して足早に大学を後にした。 餌はあるモン適当でええやろとマンションに帰ると、和葉はエレベーターの前で気に入りのクッションの上で猫みたいに丸まって寝とった。 前にもこんな事はあったが、いくら吹きっさらしやない閉ざされた場所や言うても冬のこの時期にこんなトコで眠っとったら確実に風邪を引く。 どんだけここに居ったんか、起こそうと和葉の剥き出しの肩に触れると冷たなっとった。 「和葉!」 「……ん…」 「和葉!起きろや!」 「ん……」 「こんなトコに居ったら風邪引くやろが!」 「へいじぃ…寒い……」 「当たり前やろ!何で篭に居らんのや?」 「やって……早う平次に会いたかったんやもん」 オレの首に抱きついた和葉から、昨日と同じようにボディーソープの匂いがした。 「また風呂入ったんか?」 「うん」 「篭で遊んどったんやろな?」 「うん。篭ん中で遊んどったよ。遊んで汗かいたから、お風呂入ったん」 「湯冷めして余計風邪引くやろ」 甘える和葉を抱き上げて、クッションの房を指に引っ掛ける。 「下りるか鍵開けるか、どっちがええ?」 「鍵開ける」 和葉抱いとるだけやったらオレにも電子ロックを開けられるが、クッションまでぶら下げとる今は認証パネルまで手が届かへん。 それはわかっとるんか、和葉は手探りで認証パネルを探して左の掌を押し付けた。 昨日とは違って散らかっとらんリビングに適当にクッションを落として、和葉をソファに連れて行く。 肌触りのええカバーを掛けたソファの上に、オレが和葉のために作らせたアクセサリーが放り出されとった。 「和葉」 「なに?」 「オマエがねだるからくれたったアクセサリー、使うたんか?」 「うん」 「そんなに気に入ったんか?」 「うん」 オレの問いに、和葉は素直に頷いた。 一昨日、ええ子にしとった褒美として使ったったプラチナと銀のチェーンをあしらったクリップを、和葉はえらく気に入って欲しがった。 今まで幾つも買うたった玩具やアクセサリーは、オカンの指示で週に一度入れとる清掃業者や時々様子を見に来る親たちの目に付かんようにと欲しがる和葉を宥めてオレが管理しとるが、これくらいなら隠すのも簡単やからちゃんとしまっとくように言い聞かせて渡してやった。 金属の冷たさが好きなんか、和葉はそれを自分の冷蔵庫にしまってたハズや。 「ちゃんとしまっとけ言うたやろ?」 「やって……」 ソファに下ろそうとすると、和葉はぎゅっとオレにしがみ付いた。 「なあ、平次。寒い」 「あんなトコで寝とるからや。風呂張ったるから、ちょお待っとり」 「平次があっためて」 「餌は?ハラ減っとらんのか?」 「そんなん、後でええやん。なあ、あっためて?」 「ほんなら、腕緩めろや」 ソファの代わりにダイニングテーブルに腰掛けさせると、和葉はオレの顎を小さな舌でチロっと舐めてからしがみ付いとった腕を緩める。 離れていく舌を追いかけて噛み付いて、前開きのワンピースのファスナーを下ろしながらブラのフロントホックを外した。 臍のあたりまであるファスナーを下ろし切って開くと、豊かな胸が痛みと快楽を待ちわびるように揺れる。 「ん……んふっ…あっ」 舌を解放して、代わりに軽く鎖骨に噛み付く。 そのまま滑らかな肌を味わいながら乳首を含んで、舌先に違和感を覚えた。 「あん……へいじぃ…やめんといて……」 愛撫をねだって胸を押し付けてくる和葉を押えて乳首をじっくりと確認すると、微かに血が滲んだ跡があった。 もう片方には、うっすらと擦れたような小さな傷がある。 「和葉、あのアクセサリー使うて遊んでもええけど、カラダに傷は付けんなて言うたやんな?」 「やって、気持ちええから……」 「アレは、オマエを飾って悦ばせるためのモンなんやで?オマエのカラダを傷付けるためのモンやない」 「せやけど、引っ張られたら気持ち良うて……」 「ええ子にしとれんのやったら、もう褒美はやれんな」 「あっふっ……」 そうっと擽るような愛撫だけでは和葉は満足せえへんが、それ以上は触れてはやらない。 「あ…へいじ……平次!ごめんなさっ…あんっ!もうせえへんからっ……んっ…許して!」 「アカン。この傷が治るまで、褒美はやらん」 「あんんっ…へいじぃ……もっと」 「言う事聞けへんかったんやから、挿れるんもナシやな」 太股を撫で、股へと指を滑らせる。 薄いショーツの上から蕾に触れると、もどかしげに和葉の腰が揺れた。 「んっ……ふっ…へいじぃ…ああんっ」 和葉の蜜がオレのモノをねだるようにショーツを濡らし、ワンピースに染みを作る。 それでも布越しに蕾だけを擽り、繰り返し乳首を柔らかく舐め上げた。 「あっあっ……ああんっ!!」 和葉にとってはじれったくて物足りない愛撫やろうから、軽くイくだけですぐにもっと深い快楽をねだって来るやろう。 そう思っとったんに、びくんとカラダを跳ね上げた和葉はそのままテーブルに崩れ落ちた。 「和葉?」 「……ん…」 名前を呼んでみても眠そうな返事をするだけで、動こうともしない。 そういえば、昨夜もオレのモンを咥えただけで満足したように眠ってもうた。 昨日はリビングが散らかっとったから癇癪起こして疲れたんやろうと思ったが、今日はそんなに激しく動いた様子もない。 和葉はただ篭ん中で遊んどったとしか言わへんが、どんな遊びを覚えたんや? くたりとカラダを投げ出しとる和葉に、昂ぶりかけとったモンが何故かすうっと落ち着いていく。 眠っとる和葉を叩き起こして問い詰めても今はロクな返事がないやろうから、カラダを拭って着替えさせてやって、ベッドに横たえた。 携帯が鳴ったのは、リビングに戻って何か軽く喰おうと冷蔵庫を開けた時やった。 「はい、服部」 京都府警の顔見知りの刑事からの電話は、オレへの協力依頼やった。 昨夜オレから殺されたオンナには2人のツレが居ったと情報提供を受けてそいつらの行方を追っとった府警が、その2人の遺体を見つけたらしい。 それも、昨夜のオンナは左手首を、今日見つかった2人のうち1人は右足首を、もう1人は首を切り取られ持ち去られとった事から猟奇連続殺人と断定したゆう事やった。 また和葉を独りで留守番させたなかったが、今まで通りの自分を演じるためには警察からの依頼は断れへん。 仕方なく、和葉のための冷蔵庫の隣に置いてある卵型のボイスメモに『府警からの依頼で出かけて来る。ええ子にしとり』と伝言を残して、府警の車の待つエントランスへと下りた。 |