「 色喰夜会 」 第 十六 話 | |
「イヤ!イヤ!イヤ!イヤ!イヤ!」 瞼を強く押さえ付けて、床の上を転がり回る。 「なんで……」 壁や何か分からないモノにぶつかって、あちこちに痛みが走るけど構わない。 「へ〜じ!へ〜じ!へ〜じ!」 止めて欲しくて痛む喉から声を絞り出したけど、平次には届かへん。 水面の中で、平次はそのオンナを抱き続けてる。 なんで… なんで… なんで…なん… 「イヤァ〜〜〜〜!!アアアアァァァ!!」 視たない… もうこれ以上視たない! 「キャァァァァァァァァ!!」 声を振絞っても、どんなに頭を振っても、消えない。 視せ付けられる。 平次が… アタシの平次が他のオンナを抱く姿を… 瞼を押さえ付けてる手は、何度も床に叩き付けたが為に摺れたトコロから血の匂いをさせている。 舌で舐めると確かに血の味がしたけど、それは噛み締めた唇から流れ出したモノかもしれへん。 どうやても消えてくれない映像に、アタシは壊れて捨てられた人形のように動けなくなっていた。 いつまで視せ付けられる行為は、狂ってしまう前の平次みたいに優しく優しく壊れモノみたいにオンナに触れている仕草。 聞こえない囁きもきっと優しいモノに違いない。 けど、アタシを一番傷付けたのは。 なんで…そんな顔するん… いつもアタシにだけ向けられてた優しい笑顔。 それが今はアタシやない違うオンナに向けられている。 オンナは平次のソノ笑顔を間近で見せられて、うっとりとした表情を浮かべてる。 アタシのモノやったのに… 平次のそんな表情はアタシだけのモノやったのに… 自分を抱き締めていた腕に知らずに力が篭る。 両手の爪は腕に食込み、新たな血の匂いをさせ始めた。 アタシがどんなに望んでももう決して見ることの出来無い平次を、あのオンナは近くで見ている。 憎い… アタシだけを抱き締めてくれる腕に、抱かれているあのオンナ。 あのオンナが憎い… 平次のすべてはアタシだけのモノやのに、それを奪ったオンナ。 許さない… 「アァアアアアァァ!!」 力任せに引き下ろした腕は、爪を肌に食込ませた指をそのまま引き摺り下ろした。 濃密な血の香りが広がっていく。 ああぁ… この香りはアタシを狂わせる… 痛みと香りがアタシを壊れた世界へと連れてイク… 闇の中の映像は、未だ途切れることなく流れている。 セックスが終わった後もオンナは甘える仕草で、平次に凭れ掛かってる。 そして携帯を開き、平次に何かを見せている。 そこに写っていたのは、そのオンナとどこかで視たことのあるオトコ。 「あ…」 あのオトコは平次の友達の1人。 平次の姿を視ていた時に、よく一緒にいたオトコの1人。 さっき開いてたノートの文字、そしてこの写真。 間違いない、このオトコはタニガワ、アタシのお人形さんや。 やったらこのオンナは、あのオトコのオンナ。 アタシに優しくしてくれた、あの時の女の人。 アタシに「小森漣」と名乗ったあの女の人。 嬉しかったのに… 知らない女の人に優しくされて嬉しかったのに… なんでアタシをウラギルン… あのオンナは平次とアタシが結婚してるコトを知っている。 それなのに、アタシの平次に手ぇ出した。 絶対ニユルサナイ… そんなアタシを煽るみたいに、インターフォンの音が鳴り響いた。 ソウヤ… 体の痛み、悦び、苦痛、快楽、重さ、そんなモノ今のアタシには関係ない。 アタシは無理矢理立ち上がると、煩く鳴り響く音の元へ駆け寄った。 「ダレ?」 四角いソレに触れた指がヌルヌルと滑る。 肌の上を暖かいモノが流れていく。 「俺…」 「ここまで来て」 オトコの声を遮ってそう言うとロックを解除し、いつもの用に管理人さんに電話した。 すぐに上がって来たオトコをドアの外で捕まえると、そのまま篭に引き入れる。 オトコはアタシノオニンギョウ… ドアのすぐ近くにオトコを押し倒し、その上に跨った。 「なぁ、アタシ欲しいモンがあるんやけど」 手でオトコの顔を捕まえて、真上から覗き込むようにして甘えた声を出す。 「な…なに…そ…それより…その傷…」 言い掛けたオトコの口に指を入れて、 「キレイにして」 と囁くとオトコは夢中でしゃぶり始めた。 両手の指すべてを舐めつくしたら、次は腕を舐め始めた。 両腕も満遍なく舐めさせて上げてから、 「ええ子やね」 とソノ口を今度はアタシが舐めてあげる。 「アタシにプレゼントくれる?」 唇を啄みながら甘い声。 「あ…ああ…」 「嬉しい…」 耳をしゃぶりそのまま唇と舌で、オトコの喉もしゃぶってあげた。 「あ…あぁ…か…かず…」 「ええ子やからご褒美あげる」 着ているコートとセーターを脱がし、再びオトコを押し倒す。 「っ…んん…」 オトコの乳首を捜し出し左は指で右は舌でまぁるくソノ周りを辿っていくと、オトコの呼吸が波打ち始めた。 「気持ちええやろ?オトコの人も胸や乳首は感じるんよ」 やって…平次はココ好きやから… 周りからゆっくりゆっくり中心に向って舐めて行くと、オトコがじれったそうに身震いした。 それに答えるように左の乳首は強く摘み、右の乳首は甘噛みする。 「ああああぁぁぁ!」 オトコの体がアタシを乗せたまま跳ね上がる。 それでもアタシは愛撫を止めずに、今度は左の乳首に噛み付いた。 「あっ!あぅ!んんん…」 波打つ体を押さえ付け、執拗に胸だけを甚振ってあげる。 指で擦り爪で引っ掻いては、また舐め回してしゃぶる。 「ん…ん…ぁ…ぁぁ」 オトコの淫らな鳴声を聞きながら、ソノ胸に自分の胸を押し付けて体ごと摺り上げるとオトコは両手でアタシを抱き締めようとした。 「あかん」 「そ…そんな…」 「こっからはプレゼントくれてからやで」 もう一度オトコの唇を舐めてから、アタシはゆっくり体を離した。 「あ…」 オトコがモノ欲しそうな声を漏らし、アタシの体を追うように起き上がったのが分かる。 やから、ソノ顔を捕まえてオトコの耳元で囁いてあげる。 「アタシの欲しいモノは…」 アタシの言葉にオトコは躊躇うことなく頷いた。 「必ずプレゼントしたるから、やから…」 「続きやろ?」 「あ…ああ」 「ええよ。また遊ぼな」 「ほな、すぐ持ってくる!」 オトコはそう叫ぶとドアから飛び出して行ってしもた。 コレデアノオンナモ… 「ふふふふふ…あはははは…」 アタシノヘイジニテェダシタバツヤ… 「エエキミヤ…フフ…」 込み上げて来る笑いが抑えられなくて、暫らくそのまま笑い続けた。 すると今迄忘れてた痛みからの悦びがアタシに返って来た。 「あ…ああぁ…」 体中から来る小さな痛みと、両腕から来る大きな痛み。 腕に触れると血はすでに固まり掛けてて、思わずまた引っ掻いた。 「あああああ…」 こんな痛みは久しぶり。 平次はアタシが自分の体を傷付けるコトを酷く嫌うから。 「また…ぁ…約束……破って…ぁぁ……しもた……」 そう思ってもこの気持ち良さには変えられなくて、アタシはフラフラと立ち上がった。 「このままやと……また…止まってまう……」 血の流れ出して行く感覚がスキ… アタシは壁を伝ってお風呂に行くと、浴槽に入りお湯を出し始めた。 暖かいお湯が広がっていくにつれて、アタシの腕から流れ出す血の匂いが濃くなっていく。 「ああぁ…」 体が浮かび上がるような感覚と眠気に襲われ、アタシの意識は薄れていった。 闇の中の映像が消えているこにも気付かずに… |