「 色 」  第 二十九 話
昨日睡眠薬で強制的に眠らせてから丸一日、薬の効果なんとっくに切れとるやろに飲まず喰わずで殆ど寝て過ごしとったらしい和葉は、オレが大学から帰った時には満足に動けへんくらいに弱っとった。
前にも何度かこんな事はあったし、いつもなら胃に負担がかからんように粥か雑炊でも作ってやる所やったが、今はそんな手間掛けてやる気ぃになれんから口移しで水と餌を与えてやる。
勿論、甘やかす気ぃもないから、きっちりと自分から求めさせて。

和葉は素直にオレの命令に従い、動かんカラダを引き摺りながらただただオレを求めて来る。
せやけど、そんな事でオレを裏切った罪を許してはやれん。
この篭に閉じ込めてから毎日のようにヤっとったのに、昨日は玩具を与えたっただけやし今日もまだ触れてやる事すらしとらんかったから餓えとるやろう下の口に、指を突っ込んでやって快楽の芽を引き出してやる。
力の入らへんカラダを震わせながら鳴き声を上げ始めたんを確認してから、そのままベッドに放置して書斎に籠った。

快楽を覚え込んだカラダはそう簡単には静まらんから、オレが言うた通りに自分の細っこい指でも突っ込んでオナっとるやろうが、その程度で和葉が満足出来るワケもあらへんから余計に飢餓感が増すやろう。
それでええ、まだまだ餓えさせたればええんや。
もう二度と『人形』なん欲しがらんように灸を据えたるためには、とことん餓えとった方がええ。
もっともっと、オレの事以外何も考えられへんくらいに、オレだけを狂ったように求めてくるようになるまで餓えさせとけばええ。
あと2日か3日か、それくらいで和葉の限界が来るハズやから。

閉じ篭った書斎でメールをチェックすると、監視カメラの取り付けを頼んだ知り合いから金曜には取り掛かれるて連絡が来とった。
リフォーム業者が入るんも、丁度金曜からや。
工事の間は和葉を寝屋川の実家にでも連れて行ってオレだけが篭に残って管理するつもりやったけど、この知り合いは建築関係の資格も色々持っとるし留守を預けられるくらいには信用出来る人物やから、代わりに工事の監督を依頼するのもええかもしれへん。
追加の依頼料を提示して打診すると、すぐに了承の返事が来た。

これで、餓えとる和葉をオカンに預けるなん危ない橋を渡らなくても済む。
そんなら、少々予定を変更して、この週末の間にきっちりカタをつけた方がええ。
どうせ横山も土曜日には始末するんやし。
金曜日やと多分まだ和葉の餓え方は足らんやろうが、そんなら灸を据える方法を少し変えたればええ。
例えば、オレが『人形』と遊ぶ時間と場所、その時の和葉の状態を。

一通りの手配を済ませてシャワーを浴びると、一人でゆっくり休むために、親たちへの手前客間として用意してある部屋で寝る事にした。

朝、いつもの時間に起きて適当にハラに詰め込んでから寝室に向かう。
いつもならオレが起こしてもぐずっとるクセに今日は珍しく起きとったらしい和葉が、ドアの開く音に気付いたんかゆっくりとカラダを起こした。

「へい…じ……」
「何や、動けるようになったんか」
「へいじぃ……」
「まずは餌を喰え」

だるそうに、それでも手を伸ばしてくる和葉の背中を支えて、口移しで水と餌を流し込んでやる。
素直に飲み込む和葉に充分に餌を与えてやってから、サイドテーブルに昼の分の餌と水を並べた。

「今日も抜けられへん講義があるから大学行って来るけどな、オレが居らんでもきっちり餌喰うてまともに動けるようになっとれ。出来ひんのやったら、病院に突っ込むで?」
「イヤ……ちゃんと…食べる……」
「オマエの言葉なん信用出来ひんけどな、もう一度だけ騙されたるわ」

餓え切っとらん和葉に効果的に灸を据えたるためにはちゃんと回復させとかなアカンが、弱っとる理由の大半は空腹と渇きやから充分に餌と水を摂らせて休ませとけばええ。
ついこの間一晩入院させられたばかりの和葉にとって『病院』は今一番聞きたくない言葉やろうから、こう言うておけば間違いなくオレの命令に従うハズや。

「ホンマに、ちゃんと……」
「それは帰って来た時に確認する」

オレのシャツを掴む昨夜よりも力の戻った指を振り解いて、篭を出る。
確かに大学には行くが、今日のオレの目的は講義やない。
大学周辺はまだまだ煩かったが昨日の様子から大体の取材ポイントは把握しといたから、隙を縫うようにして構内に入って、教室のある棟の横を通り過ぎて東側の駐車場に向かった。

幾つかある駐車場の内この東側の駐車場は学生にも割り振られとって、昨日オレがリストアップした『人形』候補の1人がここを使っとるハズやった。
昨日、谷川の件で噂話に余念のないオンナたちからさり気なく聞き出した予定によると、この『人形』候補が乗っとるのは赤のスポーツタイプの外車で、いつも講義の5分前にならんと来ないらしい。
それらしい車がないかざっと見渡しとった所に、低いエンジン音を轟かせて『人形』候補の乗った車が滑り込んで来た。
降りて来たんは、車に負けへんくらいに派手なオンナ。
何気ないフリをして視線を合わせてやると、自分では色気があると思っとるらしいわざとらい仕草で脱色した髪をかき上げながらオレに歩み寄って来た。

「おはよう、服部くん」
「おはよう」
「こっちにいるなんて珍しいじゃない。誰か待ってんの?」

出身は静岡だとか言っとったか、コッチの言葉に染まらない殆ど標準語のままのイントネーションが耳につくこのオンナは自分の頭と容姿に自信を持っとって、相手のオトコに恋人がいようがいまいがお構いなしに次々に誘惑して付き合うて散々貢がせた挙句に、自分には相応しくないと捨てとるらしい。
それだけにオンナたちからは反感買うとるようやったが、実家が特に資産家でもないらしいんに派手な生活しとるあたり、オトコをとっかえひっかえ乗り換えては貢がせとるとか、どこぞの金持ちオヤジの愛人やっとるとかの噂話の殆どは事実なんやろう。

勉強面での頭はええが賢くはない、表面にばかり拘る考えの足りない浅はかなオンナ。
このオンナの目には、恐らくオレは最高のターゲットとして映っとるハズや。
容姿の面でも、頭脳の面でも、財力の面でも。

和泉董子(いずみ とうこ)。
自惚れが強くて女王様気質で尻軽な、オレにとってこれ以上ないくらい都合のええオンナ。

「アンタを待ってたんやで、董子」

昨日のうちに女房と酷いケンカしたと噂を流しておいたから、このオンナにも流れとるやろう。
常に次の獲物狙っとるようなオンナなら、間違いなく喰い付いてくるハズや。
オンナの視界を奪うように屈み込んで、声にたっぷりと含みを持たせてデカいピアスを下げた耳元に吹き込んでやる。
至近距離で絡めた視線を駐車場脇の用具倉庫へと誘導してやると、勝ち誇ったような笑みを浮かべてオレを追って来た。

「私を待ってた?」
「せや」
「こんな朝から、わざわざ普段使わない駐車場まで来て?」
「せや」

駐車場からも大学構内からも死角になっとる用具倉庫の影に回ると、オンナは髪をかき上げながらチラリとオレを見上げる。
媚びを含んだ探るような視線を受け止めながら、肩までの髪を擦り抜けた手を捉えてそのゴテゴテと飾り立てた爪にキスを落としてやった。

「この大学一の才女で美女やて評判のアンタを待ってたんや」
「あら、何の用かしら?」
「……わかっとるやろ?」

視線は外さないまま、捉えた掌を擽るように舐める。
オンナがピクリと肩を揺らした。

「こんな所でこんな事してていいの?服部君は奥さんに夢中だって聞いてるわよ?」
「ああ、確かに今までは女房に夢中やったで?せやけど、永遠にそうとは限らんやろ?」
「結婚って、永遠を誓うんじゃなかったかしら?」
「他に自分に相応しいオンナが居ったら?」

何やかや言いながらも手を振り解こうとしないオンナは、オレゆう獲物を逃すまいとするかのようにもう片方の手をオレの腕に絡めた。
自分が獲物としてオレのターゲットにされとるとも知らずに。

「女房とケンカしてからな、改めて回りを見回してみたんや。もしかしたら、もっとええオンナが居ったんやないかて」
「それが私?」
「せや。女房はあんなやから大学も出とらんし、飛び抜けた美人でもない。その点、董子は完璧や」
「ふふふ……」

自尊心を満たされて満足そうに笑うオンナの手を解放して、指を絡ませる。
さも当然とばかりにつんと顎を上げたオンナにキスをしながら、足の間に膝を割り込ませた。

「ん……」

慣れた仕草で舌を絡めながら、オンナが腕を捉えていた手をオレの首に回して引き寄せる。
空いた腕で腰を抱いてやると、伸び上がるようにしながらオレの足に股を擦り付けて来た。

「知性も美貌も、女房は董子にはかなわん。せやけど、もう1つ大事な事があるやろ?」
「もう1つ?」

深いキスの合間に時々唇を甘噛みして、快感を誘ってやる。
絡めたままの指先でストールを引き下ろすと、オレに見せ付けるように突き出して来た胸の先をオンナのゴテゴテした飾りをつけた親指の爪で服の上から擦った。

「カラダの相性や」
「んっ……」

オンナの腰に回した腕を尻に下ろして、股をぐいっとオレの足に押し付ける。
ずり上がったミニスカートの裾に指を引っ掛けて更に捲り上げながら、ストッキングの上からショーツの縁を辿るように軽く爪を滑らせた。

「たとえどんな美女やろうと、見とるだけやったらすぐ飽きる。ヴァージンなら色々仕込むのも面白いかもしれへんけど、そんな美人やったら今までにオトコの1人や2人は居ったハズやし、オトコの味知っとるクセにテクもないマグロはつまらんから御免や」
「あ……」

スカートの下に手を差し入れて柔らかく尻を撫で、ストッキングの上から谷間をなぞるように指を滑り込ませる。
オレの指を誘い込むように尻を突き出したオンナの、布地越しにも薄っすらと湿り始めた事がわかる入り口あたりを、爪でコリコリと引っ掻いた。

「オレを満足させてくれへんオンナやったら遊び止まりや。本気にはなれへん」
「それなら、試してみる?……これから」

情欲に染まった瞳でオレを見上げながら、牝の匂いを振り撒くように挑発的に笑うオンナ。
オトコなら誰でも自分に夢中になると信じて疑わないその自信に思わず嘲笑が零れそうになって、それを誤魔化すためにオンナの髪に顔を埋めた。

「この辺で一緒に居ってヘタに誰かに見られたら、不倫やて騒がれるやろ?」
「あら、私は構わないわ」
「オレの家はそれなりに名前の通った家柄やで?世間体が大事やて董子ならわかるやろ?せやから……」

オンナの耳元に唇を寄せる。
このオンナがオレをターゲットにする大きな理由やろう『家柄』と『財産』をちらつかせて、オレの言う通りに動くのが得策やと低く呪文のように吹き込んだ。

「誰にも気付かれへんようにな」
「わかったわ」

オレの罠にかかって身動き出来へんようになっとる事にも気付かんと、オンナは勝気そうに笑って見せた。

これでオレの『人形』は確保した。
後は、和葉に灸を据えるだけや。

まだまだ和葉は餓え切っとらん。
せやけど、餓え切ってオレを求め狂うのと同じくらい、いやそれ以上の狂気を与えたる。
そのためには、これからの仕込みが重要や。

オンナにもう一度口止めして、横山の様子を確認するためだけに3限目まで講義に出ると、夕方前には篭に戻った。

和葉は、裸のまんまいつものソファで丸まっとった。

「ええ子にしとったか?」
「うん。ちゃんと餌も食べたよ」

よっぽど病院がイヤやったんか、和葉はオレが今朝用意したった餌と水、それといつも冷蔵庫に常備してあるゼリードリンクを幾つか平らげたらしい。
そのせいか、まだ幾らかだるそうやったが今朝よりもずっと顔色もええし、まともに動けとった。

「ほんならええ。包帯も替えなアカンし、まずは風呂に入るか」

風呂に湯を張ってソファの上で小さくなっとる和葉を抱き上げると、おずおずとオレの首に腕を回して抱きついてきた。

「平次ぃ……」
「何や?」
「ごめんなさい。アタシ、ちゃんとええ子にするから、嫌いにならんといて」
「また口だけやないんか?」
「ちゃんとええ子にする。平次の言う事ちゃんと聞くから……」
「まあ、ええわ。ホンマかどうか、これからわかるやろ」

和葉を風呂場の椅子に座らせて手早く服を脱ぐと、血が滲んで固まった包帯の上から人肌くらいの温いシャワーを当ててやりながら時間をかけてゆっくりと解いた。

「もう、傷作るんやないで?」
「……ごめんなさい」

大人しくされるがままになっとる和葉を抱いて湯船でゆっくり温めてやってから、髪を手入れしてやって、泡で撫でるように優しく顔を洗ってやる。

「きもちええ……」
「じっとしとれよ」
「うん」

うっとりとカラダを預けてくる和葉の顔を軽く拭いてやって髪をタオルで纏めると、今度はスポンジにボディーソープを含ませてたっぷりと泡立てた。
腕の傷を開かせないように気をつけながら、丁寧にカラダの隅々まで洗ってやる。

「あ……」

オンナはちゃんと手ぇかけてやれば全身が性感帯になるらしいが、和葉もオレを欲しがっとる時には指先までが敏感に反応する。
擽るように肌の上でスポンジを滑らせて、特に敏感な乳首と下の隠された蕾は念入りに泡を擦り付けた。

「あんっ……んんっ……」
「どうしたんや、そんなエロい声上げて」
「あっ…やってっ……ああっ…」

一通りスポンジを使ってからオレの手で直接洗ってやると、和葉が甘い声を零し始めた。

「へいじぃ……あん…あっ…ああっ…」

ボディーソープの泡で滑る指で乳首を摘み、下の蕾を丹念に捏ね回す。
ひくりとカラダを跳ね上げた和葉が、泡に塗れた手を彷徨わせて、後ろに居るオレのモノを探り当てた。

「へいじっ…あっ……んんっ…」

和葉の細っこい指がオレのモノに絡みつき、慣れた手つきで幹を扱く。
自分が仕込んだ事やったが、和葉の手に締め付けられ爪を立てられ、タマの方まで柔らかく握りこまれて、オレのモノはすぐに硬く張り詰めた。

「……っふ…そこまでや、和葉」

和葉の手を引き剥がして立たせて、シャワーで泡を洗い流す。
オレがカラダを洗う間にもう一度湯船で温めてやろうとすると、和葉は床に座り込んで足に抱きついて来た。

「イヤ…ちょうだい……」
「ベッドまで我慢出来ひんのか?」
「お願い……平次が気持ちようなってくれるまで口でスルから……せやから、アタシにちょうだい……」
「……しゃあないなぁ」

シャワーで残った泡を流して床に座り込むと、和葉の脇に手を入れて引き上げた。

「ホンマ、オマエのこの口は強欲やな」
「あっ……」

オレの腰を跨がせて、待ち切れんで蜜を垂らしとる下の口を撫でてやる。

「オマエが欲しいんはコレやろ?自分で喰えや」

和葉にオレのモノを握らせてやると、下の口を塞ぐように押し当てて躊躇いもなく腰を落とした。

「あっあっ……」
「オレもタマっとるからな、存分に喰えや」
「あんっんんっ…」

オレの肩に両手を掛けて、和葉が無心に腰を振る。
ずぶずぶとオレを呑み込んでは少しだけ腰を浮かせて、また根元まで呑み込む。
そのリズムに合わせて時々突き上げてやりながら、目の前で揺れる乳房に吸い付き、乳首に歯を立てた。

「ああっ!あっあっ!へいっ……へいじっ…ああんっ!!あっ…イクっ……っ!」
「……まだまだ、やで。まだ、イカせへ…ん……っく……」
「あああっ!へ…じ…んんっ……あっああっ!!…イかせてっ!!」
「オレは、まだ、足りひん、のや」
「ああんっ!!」

あと一息でイクて所で、ふるふると震える和葉の腰を掴んで動きを止めさせる。

「あっ…へいじっ……へいじっ!お願いっ!焦らさんといてっ!」
「オマエだけイク気ぃか?」
「んっ……あっ……」

ゆるゆると、和葉の中からオレのモンを引き抜く。

「オレを満足させられへんなら、終わりや」
「あっ……アタシ、ちゃんと頑張る……から…」
「続きはベッドでええけどな、勝手に寝るんやないで?」
「あああっ!!」

夢中で何度も頷く和葉を四つん這いにさせて、後ろから突き上げる。
風呂場に存分に嬌声を響かせて達した和葉をバスタオルで包み込むと、まだ収まらないモノもそのままにざっとカラダを拭いて、ベッドに雪崩れ込んだ。







 
「      」

by 月姫
 「色喰夜会」top matrial by 妙の宴
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