■ 靴の音 ■ by 月姫


コツン……と、革靴の踵がリノリウムの床を叩く。
その音に、和葉はふるりとカラダを震わせた。

「和葉」
「な……なに?」
「どうしたんや?声、裏返っとんで?」

さほど広くはない事務所、お互いのデスクはほんの数歩分しか離れていないのに、平次は殊更ゆっくりと和葉に近づく。

「報告書、仕上がったで。オマエが設定した期限まで丸2日残っとるし、きっちり黒字も出した。この勝負、オレの勝ちやな」

事務所名が印刷された角封筒を手にした平次が、意地悪気な笑みを浮かべた。

始まりは些細な事。
仕事を詰め込み過ぎて2ヶ月近くまともに休みもなかった上に、面倒な依頼ばかりで経費が掛かりすぎて微妙な赤字を連発していた事に、和葉がほんの少しばかりの不満と働きすぎからくる健康面での心配とで小言を並べた。
和葉としては、平次に少しは身体を労って休んで欲しかったのと、事務所の経理担当として所長の浪費に釘を刺したかっただけだったのだが、そこから何故かケンカに発展して妙な化学変化を起こした結果、いつの間にか今度の依頼が期限内に黒字で完了出来るかどうかという賭けが成立していたのだ。

そして、たった今その結果が出た。
勝者は、平次。

「期限内に黒字で終わらせられたら、残りの時間はオレに付き合うんやったよな?」
「……う…うん」
「NOはなし」
「……うん」

和葉のデスクに軽く腰を掛けた平次が、持っていた封筒をぱさりと籠に放り込んだ。

「ほんなら、来い」

有無を言わせない声で命じられて、和葉はデスクを挟んで目の前にいる雇用主であり恋人でもある平次の前へと歩み寄った。

「ん……」

どこか不満そうな和葉の機嫌を取るようにちゅっと唇を啄ばみながらネクタイを解くと、平次は1本のロープと化したそのネクタイで彼女の両手首を背中で纏めて緩く縛り上げた。
緩くとはいっても、傷や痛みがないようにと配慮しただけで、解くことは出来なかったが。

「え?なに?」
「なにて、オマエが無駄な抵抗せえへんようにて」
「え?やって……」
「オマエの爪でつくるキズもええんやけどな、今はコッチの気分なんや」
「ひゃあっ!」

状況が飲み込めずに混乱している和葉の肩を押してくるりと身体を反転させると、その腰を掴んで組んだ足の上に座らせた。

「何や、オマエも期待しとったんやな」
「ちが…っ……あっ…」

デスクに腰掛けた平次の腿を跨ぐように座らされた和葉のミニのセミタイトスカートが足の付け根までずり上がって、ガーターストッキングが露になる。
楽しげに笑う平次に反論しようとしてバランスを崩しかけた和葉が、身体を立て直そうとして小さく声を上げた。
足が床につかない状況で両手を背中で拘束され支えを失っている身体のバランスを保とうとしたら、自ら腰を擦り付ける格好になってしまったのだ。

「折角ソノ気ぃになっとるんやし、もうちょお盛り上げたろか」
「あんっ」

くすくすと笑いながら和葉のスーツの胸元を飾っているスカーフを抜き取ると、平次はその柔らかな布で彼女の両目を覆った。
視界が閉ざされると、余計にバランスが取りにくくなる。
ふらりと揺れた身体に力が入って、和葉がまた小さく声を上げた。

「こうしとると、犯られとるみたいで興奮するやろ」
「そんな…んんっ…」
「どうした?」
「……ん…ふっ…」

悪戯に足を動かされ、ショーツ越しに敏感な蕾が擦られる。
その緩い快感に、和葉の頬が淡く色づき始めた。

「へい…じ……ココ…事務……所…」
「せやで。上司と部下には似合いのシチュエーションやろ?」
「あっ…」

耳元で囁かれたその言葉に、和葉の中の熱が一気に上がった。

真夜中の事務所。
ブラインドから零れてくる街灯の頼りない灯りとデスクライトだけの薄暗い無機質な部屋で、スーツ姿で両手を拘束され目隠しをされたまま、上司に弄ばれ犯される部下。
その背徳的なイメージは、和葉の身体の奥底から官能の波を呼び起こすには充分だった。

「…っはぁ…んんっ……あ…あっ…」

和葉を背中から抱え込んだ平次が、ブラウスのボタンを外して胸元を広げる。
繊細なレースで装飾されたブラの上からその柔らかな弾力を確かめるように揉みながら、ブラのラインに指を引っ掛けて少しだけずり下げて、窮屈そうに顔を出した乳首を指でくにくにと転がした。

「ああん……んっ…ふ…」
「濡れるんが早いな。このシチュエーションに興奮しとるんか?」
「なに…んんっ……あっああっ…」

平次の右手がストッキングに覆われていない和葉の足の付け根を撫で、ブラとお揃いのショーツの上から敏感な蕾をつつく。
ぴくりと身体を跳ね上げた和葉の背中を自分に凭せ掛けると、ショーツの中に指を滑り込ませて蜜を生み出す口に中指を挿し込み、親指のハラで蕾を擦った。

「ああっあっ…あんっ!」
「なあ、和葉。この事務所には防犯カメラ付けとったよな?」

その言葉に、平次の指を呑み込んだ口がきゅうっと締まる。
普段あまり意識していないが、万が一に備えて事務所には死角がなくなるように何台かの防犯カメラが仕掛けてある。
そのうちの1台は、ドア横の棚の上から来客用の応接セットと和葉のデスクあたりまでを写しているから、今のこの痴態もきっちりと記録しているハズだった。

「あの棚の上やったよな?どんな風に写っとるんか、楽しみやなぁ」
「ああんっ!!」

耳たぶを甘噛みされながら乳首と蕾とを刺激されて、閉じようとした和葉の唇から嬌声が零れ落ちた。

「あっ…へい…っ…じっ…ああっ!」
「あんまり大声で鳴いとると、廊下まで聞えてまうで?」
「ああっ…あんんっ…あ…」
「そろそろ、上の住人が帰って来る頃や」
「んんっ…あっ…あああっ!!」

事務所を借りているビルは上が賃貸マンションになっていて、決まって日付が変わるこの時間帯に帰って来る住人がいるのは、和葉も良く知っている。
顔を合わせた事はなかったが、そろそろその靴音が聞えて来る頃だ。
和葉が何とか声を押えようとしたが、そう意識すればするほど自分の中で蠢く指や首筋にかかる熱い息を感じてしまって、かえって甘い鳴き声を上げてしまった。

「ああっあっ…へ…じっ…あっあっ」
「ヤってるトコ撮られて、鳴き声聞かれるて思たら、たまらんやろ?」
「あんんっ…んんっ…」
「ちゃんと聞かせたろうや」

呪文を吹き込むように耳元で囁いて、平次は子供のようにいやいやと首を振る和葉の中から指を引き抜いて両手を拘束しているネクタイを解くと、膝から下ろしてデスクにうつ伏せに凭れさせる。
スカートをウエストまで捲り上げてショーツを下ろすと、溢れた蜜がつうっと糸を引いた。

「ガーターストッキングて、男心を擽るアイテムやな。コレで黒なら完璧やねんけど」
「なにアホなこ……ひゃあんっ!」

くちゅりと濡れた音を立てて、熱く猛った平次のモノが和葉を貫いた。

「オマエ、今の格好わかっとるか?パンツ脱いだだけでヤられてんのやで?」
「あっああっああっ!」

ショーツ以外、捲り上げられたスカートも足を包んだストッキングもヒールの高い黒いパンプスも何一つ脱がされず、ブラから無理やり曝け出された胸をデスクに擦り付けるようにして、後ろからオトコを受け入れて喘いでいるオンナ。
一瞬でその光景が脳裏に浮かび、羞恥からか和葉の嬌声が1トーン上がった。

「ええ声や…っふ……」
「ああっ…っんん…あっ……ああんっ!!」

静まり返った事務所に、和葉の嬌声が響く。
平次のモノを呑み込み、出し入れされる度にぐちゅぐちゅと音を立てるソコからは、とめどなく蜜が溢れ和葉の太股を伝ってストッキングを濡らした。

「ひゃんっ…ああっあっあっ」
「住人…そろそろ帰って、来る、なぁ…くっ……」
「んんっあっ…あっああんっ!」
「足音、聞える、やろ?」
「ひゃあんっ!!」

耳元で切れ切れに囁かれて声を押えようと自分の腕に歯を立てようとした和葉が、打ち上げられた魚のように背を反らせて一際高い嬌声を上げた。

「あっああっ!ああっ!」

和葉の片足を抱え上げた平次が、もう片方の手で細い腰を掴んで強く深く和葉の中を抉る。
震える腕で身体を支える和葉の下で、スチールのデスクがカタカタと揺れた。

「ああっあっ…へいっ……へい…じっ…もう…あああっあっ…」
「…っふ……イキたい、んか?」
「あっあっ……ああっ!!」
「オレも…イキそう、や…」

身体中を駆け巡る熱を集めるように、平次が腰を打ちつける。

「あっあっあっああああっ!!」

ふるっと身体を震わせた和葉が、くたりとデスクに崩れ落ちる。
きゅうっと締め付けてきたその中に、平次も熱を吐き出した。

「あと2日か……」
「なに…が……?」

荒い息を整えながら、和葉がゆるりと顔を上げた。
その耳元で、平次が楽しげに囁く。

「事務所はクリアしたやろ?後は台所とソファと風呂、それからベランダ……」
「……却下」
「今やってノリノリやったやんけ」
「あ……んんっ…」

まだ繋がったままのソコを、平次の指がなぞる。
和葉が小さく声を漏らした。

「ほんなら、ベッドでええわ。そのかわり、寝かせへんで?」
「……エロ探偵……」
「ここでまた鳴かせんで?」

冗談のような軽い口調での脅迫に、和葉は全面降伏の白旗を揚げた。



 「 オフィスでのメイクラブは着衣が基本……だと思います(笑) 」 by 月姫