久遠 -KUON- 27 | ||
■ せっかく ■ | ||
はぁ・・・・・・・・やっぱこんなもんやろなぁ・・・・・・・・・。 あたしは広い服部家で一人お留守番。 おじちゃんとお父ちゃんはもうずっと府警に缶詰やし、おばちゃんは急な用事で今日は帰られへん言うてたし。 平次は・・・・・・平次は朝掛かって来た電話で飛び出して行ったまんまや。 「クリスマスイブやのに・・・・・・。」 なんで、あたしは一人でテレビ見てなあかんの? 「はぁ・・・・・。」 今日、何十回目かの溜息が零れた。 そして視線はそのまま時計に向かう。 短い針は9を指し、長い針は3の下を指しとる。 もちろん外は真っ暗や。 高校最後のクリスマスイブがこれって・・・・・・・・。 「もしかせんでも、あたし可哀想なんちゃう・・・・・・・。」 客観的に自分の姿を思って、我ながらアホなダメだしをしてみるんやなかった・・・。 声に出したら、余計悲惨な気分になってしもたやん。 蘭ちゃんと工藤くんは、今ごろええ雰囲気なんやろなぁ。 この前、電話した時、蘭ちゃん『二人で食事に行く予定なの』って嬉しそうに言うてたもん。 『和葉ちゃんも、服部くんと素敵なクリスマスになるといいね。』 ありがとう蘭ちゃん・・・・・・・・あのアホおらんけど・・・・・・。 華月はクラスの女の子同士でクリスマスパーティーやって言うてた。 こんなことなら、あたしも参加すればよかったわ。 それも、これも、ぜ〜〜〜ん、あのアホのせいや! 平次のアホ!! 幼馴染だけやない初めてのクリスマスやのに!! 目の前にあるクリスマスケーキかて、一人で食べたら虚しいだけやんか。 自分の分を切り分けてはみたものの、どうしても食べる気にはなれへんかった。 プレゼントに編んだマフラーは、綺麗にラッピングして部屋にある。 今日中に帰って来いへんかったら、あげへんのやから! 「はぁ・・・・・。」 溜息つくんも疲れてきた時に、着信音が鳴った。 この音は平次やない・・・・・・・・侑ちゃんや。 「ゆ・・・・。」 『メリークリスマス!!和葉ちゃん!!』 あたしが声を出すより早く、明るい侑ちゃんの声が飛び出してきた。 あたしの今の気分とは、あまりに違う楽しそうな声やなぁ。 「めっ・・・メリークリスマス・・・・。」 『どないしたん?せっかくのクリスマスにそんな元気の無い声しても〜て。』 「えっ。そんなことないよ。それより、何か賑やかそうやね。クリスマスパーティー?」 『そうやねん。毎年、跡部んとこのパーティーにいつもの連中と来てんねん。和葉ちゃんは?あっ、もしかして俺、邪魔しても〜たかなぁ。』 「もう、何言うてんの〜。あたしは一人でテレビ見てただけやで。」 『・・・・・一人でテレビ?』 「そうやよ。」 『何で?』 「何でって・・・・・・誰もおらへんからやん。」 『自分家?』 「平次ん家。」 『幼馴染の彼氏くんは?』 「事件や〜〜言うて飛び出して行ったままや。」 ほんま自分で言うてて虚しいわ。 『・・・・・しゃ〜ないなぁ〜、ほんなら優しい忍足くんが和葉ちゃんの話し相手になったるわ。』 「ええよ〜。せっかくのパーティーやのに勿体無いやん。」 『かなへん。かまへん。俺、和葉ちゃんと話してる方がええから。』 「・・・・・侑ちゃん優し過ぎやで。そやけど、さっき自分で言うたからマイナス10点やな。」 『え〜〜殺生な〜〜、せめてマイナス5点!にして〜な。』 ついつい軽いノリに流されて、話し込んでまう。 それから侑ちゃんは、1時間以上あたしに付き合うてくれた。 何度か『忍足く〜ん』って呼ぶ声が携帯の向こうから聞こえてきたんやけど、侑ちゃんはまた『かまへん』言うてあたしの相手をしてれたんや。 電話を切るころには、笑い過ぎて苦しいくらいやった。 「ほんま、ありがとな侑ちゃん。」 『そんなん気にせんといて〜な。俺が好きでやってるんやから。』 「そんなに、甘やかしてんとつけ上がるんやからね、あたし。」 『和葉ちゃんやったら、ど〜んと来いやで。』 「甘、激甘や〜〜!」 『な〜〜んぼでも甘やかしたるから、早よこっちお出でや。』 「侑ちゃん・・・・・・・何や、お兄ちゃんみたいやね。」 『・・・・・・・・・・・・・、まぁ今は何でもええわ。』 「 ? 何言うたん?」 後ろの声が煩そうて、侑ちゃんの声が聞き取れへんかった。 それからまた、ちょこっと笑って携帯を閉じた時には、時計は11を指そうとしとった。 あたし・・・・こんなに侑ちゃんに甘えとってええんやろか・・・・・・・・。 一応・・・・・・彼氏いてるんやし・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・一応?・・・・・ちゃうねんな・・・・・・・・きちんと彼氏やんな・・・・・・・。 ほんまに? 実は・・・・・あんまり実感ないねん・・・・。 彼氏彼女って言うようになってからも、特に今までと変わったこともあらへんし。 平次やっぱり、あたしより事件やし。 ・・・・・・・・・・・・・でも、事件解いたときのキラキラした顔好きやし////////。 片思いの期間が長過ぎたんかな? それに平次への自分の気持ちを忘れてた時にぽっかり開いた場所・・・・・想い出した今でも・・・・前とは少し違うねん。 何て言うてええんか自分でも分からへんのやけど・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・平次、早よ帰って来いへんかなぁ・・・・・・・・・・。 平次が側におってくれたら・・・・侑ちゃんに迷惑かけたりせぇへんのに・・・・・・・・・。 平次が側におってくれたら・・・・。 あかん・・・・また暗い気分になりそうや。 せっかく、侑ちゃんが楽しませてくれたのに。 もう、お風呂入っろ。 そう思うて廊下への襖を開いたら・・・・・・・・・・・・・ゆき? ガラス戸の向こう側には、薄っすらと雪化粧した庭が見えた。 誘われるように庭に下りる。 「ホワイト・クリスマスや。」 ロマンチックやなぁ・・・・・・。 なんて思いながら、 「二人で見るからロマンチックなんであって、一人で見とったら哀愁漂うただの人やんか。」 って大阪人の虚しいサガなんか、自分に自分でツッコミを入れてまう。 「はぁ・・・・・・あたしもアホやん・・・。」 ふと足元を見ると、真っ白な雪の絨毯にあたしの足跡。 「あっ。」 あたしは思いつたことを、すぐに実行してみる。 広い庭に足跡で文字を書いていく。 7つのひらがな。 出来上がったモノを廊下に戻って確かめる。 「うん。上出来やん。」 どうせ、このまま雪が降り続いても、止んでも、朝には消えてるんやし。 誰にも見られることは無いやろ。 「寒。さっ、お風呂行って寝ようっと。」 こんなに雪が降ってもうたら、バイクで出かけた平次はきっと帰ってこれへんやろし。 時計が12を指すころ、あたしは一人眠りについた。 朝、目が覚めると、サンタさんがあたしのお願い通りのプレゼントをくれとった。 |
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