途切れ途切れの言葉 −魔族編T− 「和葉・・・・・・すまん・・・・・・。」 「もう、ええよ。お父ちゃん。」 「ほんまに、平次君に何も言わんでええんか?」 「うん・・・・。どうせ、朝が来たら忘れてまうんやから・・・。」 あたしは今夜、魔界に帰る。 19歳の誕生日までに、あたしを心から愛してくれる人が現れなかったら魔族になる。 これが、あたしが魔界の祖父と交わした契約。 お母ちゃんは魔族やった。 人間界に狩に来た時、お父ちゃんと出会ったんやて。 人間との恋は、魔界では御法度や。 魔族にとって人間は食すべきモノやから。 その禁忌を犯したお母ちゃんは、あたしを生んで魔力を無くし、消えてしもた。 「ほな、もう行くな・・・・。」 そう言うてから、あたしは改めてお父ちゃんに頭を下げた。 「今まで、大事に育ててくれてありがとうございました。」 「和葉・・・・元気でな・・・・。」 「お父ちゃんも・・・・。また、会いに帰って来るから・・・・・。」 あたしは最後に泣き顔をみせないよう、必死に笑ってみせた。 お父ちゃんには、ああ言うたけど最後にもう一度平次に会いたい。 まだ蕾さえ無い桜の闇から、平次の部屋を見上げた。 まだ明かりがついとる。 あたしはもう・・・・・あの明かりの中には入られへん。 平次は人間界の中でも光に族する者。 あたしは真に闇に族する者。 側におれるはずが無い・・・・・。 次の朝日が昇るころには、人間界でのあたしの存在は無になる。 誰もが、あたしがおったことを忘れてしまう。 ・・・・・・ちゃうやん・・・・・・始めっからおらんかったことになるんやん・・・・・・・。 もちろん、平次の中でも。 今度は涙を止めることは出来へんかった。 「・・・・・・へ・・・いじ・・・・・・・へいじ・・・・・・・・す・・・・き・・・・・・・・・」 ほんまは、ずっとずっと平次の側におりたかった・・・。 やけど、あたしの闇は平次の光を曇らせてしまう・・・。 平次にあたしの中の闇を知られたくない・・・。 「 和葉? 」 開け放たれた窓から、平次が見下ろしてくる。 平次には、もうあたしは見えへんはず。 魔族は契約した人間にしか、見えへんから。 それやのに、まっすぐこっちを見とる。 少しはあたしのこと感じてくれてるん・・・。 「 和葉 」 再び呼ばれたあたしの名前。 しかも、はっきりと。 この声を決して忘れないように心に刻む。 「ありがとう平次。あたしな平次のことが、大好きやねん。これからも、ずっとずっと好きでおってええ?」 あたしの声はもう平次には届かへんことくらい、分かってる。 やけど・・・・・そやけど・・・・・・・・・・最後くらい・・・・・・・。 「あたし平次のことがほんまに好き・・・・・・。 平次のこと忘れへんから・・・・・・絶対忘れへんから・・・・・・・・・。 やから・・・・・・・・・・・・へ・・い・・・・・じ・・・・・・は・・・・・・・ あた・・・・し・・・・ん・・・・・・こと・・・・・・・わす・・れ・・・・て・・・・・ええ・・・・よ・・・・・。」 途切れ途切れの言葉は闇に吸い込まれていくだけや・・・。 決して平次には届かへん・・・。 あたしは想いの全てを桜に込めた。 闇夜に狂い咲いた夜桜が、少しでも平次の心に残りますように。 |