指 と 指   −魔族編U−




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・寒っ。

余りの寒さに目が覚めた。
「何でこのクソ寒いのに窓が全開やねん・・・・・。」
しかもや服着たまんま、電気ついたまんま、TVまでついとる・・・この状態で寝たんか俺 ・・・ベットに大の字で。
「・・・・・・・・。」
とにかく、窓を閉めようと起き上がって、桜ん木が目に入った。
暗闇の中に溶け込むようにある桜。
まだ、蕾も付いとらん。
「ああ、そや・・・・・。」

和葉が桜の影で泣いとるような気がしたんや。

そんで、和葉ん名前呼んだら・・・・・・・・・桜が咲いた・・・・・・・・・・。

そっから後の記憶があらへん。

俺はまた、ぼ〜〜っとアホみたいに冷風にさらされとった。
慌てて窓を閉める。
「ほんま何やってねん俺・・・・・さむ〜〜。」
桜がそない急に咲くかい。
それやったら、夢やな。

ガラスの外が明るうなってきた。

・・・が泣いとる想うたんも夢や。

「・・・・・・・・・。」

誰が泣いとるやって?
さっきまで、当たり前のように思うとったことが疑問になった。
誰かが泣いとると思うとったんは確かなんやけどなぁ?
誰や・・・。
思い出されへん・・・。


俺は頭ん中に小さな謎を残したまんま、いつもん朝を迎えた。


いつもん生活。
学校行って、ダチらと騒いで、部活に出て、どっぷり日が暮れてから家に帰る。
呼び出しがあったり、依頼があれば、それら全部を放り投げて事件に向かう。
いつもん俺の生活やんなぁ。
それやのに、何や足りん気がするんは何でや。
特にこんな何も用がない休みん日、俺どうしとったんやろか。
最近、ふと気ぃつくと一人でおることが多いんやけど・・・。
しかも、それが妙に寂しかったりするのは何でなんやろ。
・・・・・・・・・何やさっきから、謎ばっかやで・・・・・・・。

ピンポーン。

おかん出かけたんやったなぁ・・・しゃ〜ない。
俺はだるい体を無理やり起こして玄関に向こうた。
来たんは、遠山のおっちゃんや。
「どないしたんですか?親父やったら、まだ府警の方やと思いますけど。」
俺はどうもこの人が苦手や。
今思うと何が苦手なんかが分からん。
・・・・・・・・・また謎が増えてもうた。
「いや、今日は平次君に用があって寄らしてもろたんや。」
「はぁ。」
この人が俺に用?
「これを平次君に持っておってもらおう思うてな。」
そう言うて、おっちゃんが差し出したんは、赤いお守りやった。
「何ですか?これ?」
迷った末、その赤いお守りを手に取ったんや。


―――――――――――――――――――――――― 脳裏に満開の夜桜が舞うた


「・・・・か・・ず・・は・・・・」


そうや!あん時、和葉が泣いとる思うたんや!
何で今までそんことを忘れとったんや。
今までのすべの謎が一瞬で消えていった。

「平次君・・・・・。」
おっちゃんが複雑な表情をして俺を見とる。
「和葉は?おっちゃん!和葉どないしたんや?!!」
驚いた顔がしだいに悲しそうな顔になった。
「和葉どこにおんのや!おっちゃん!」
「・・・・・・・まさか、ほんまに思い出してまうとはなぁ・・・・・・・・。」
「・・・・思い出す?」
「堪忍や平次君。あの子はもうおらんのや。」
おっちゃんの話は俺には理解出来へんモンやった。

和葉が魔族?

それは俺の常識を遥かに逸脱しとった。
信じろ言われて、はいそうですか、ちゅう訳がないやろ!
もうこの世界に和葉がおったいう証がないやて?

やったら、俺ん中にあるこの記憶は何やねん!
この19年間の思い出は何やねん!

おっちゃんは和葉が想いのすべてを託した赤いお守りを、せめて俺に持っとって欲しかっただけや言うた。
俺が和葉の存在を少しでも感じてくれたらとも言うとった。

俺はアルバムいうアルバムの写真をすべて見たが、和葉はどこにもおらんかった。
誰に聞いても和葉んことを知らん言われた。
そして和葉が俺にくれた青いお守りも、どこにもあらへんかったんや。

あるんは、この赤いお守りと、記憶・・・・・・・・・・・あと・・・・・・・・・・俺ん気持ちやな。

「平次君やったら、冥夜にあの子に会えるかもしれんな。」

俺はおっちゃんの言葉に最後の望みを懸けた。
現実主義の俺が、非現実的なことにや。

月も星も無い夜に、赤いお守り握り締めて、桜ん木の下で、ただただ和葉だけを想った。


―――――――和葉。和葉。和葉。


どんくらいの時間そうしとったやろう。
俺ん心も闇に染まりそうやった時、風が吹いて、桜が狂い咲きおった。


その闇ん中に、さらに暗い闇をまとった和葉。


悲しそうな表情やったけど、俺は綺麗やと思うた。

和葉ん手がゆっくり俺ん方へ寄って来る。

俺はたまらなくその手に触れたくて腕を伸ばした。




やけど




指と指は触れ合うことは無く、俺ん指は和葉の指を通り抜けとった。







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このお話は、パラレル設定です。「途切れ途切れの言葉」の続編。服部の気持ち。
この話の場合なぜだか、桜が桃色ではなく、闇夜に鮮烈な蒼が浮かんだ。
蒼い桜はきっと、とても切ないと思う。
「2人の傷跡」に続きます。
by phantom