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「なぁなぁ、あんたの親ええ人?」 夕方、公園で遊んでいた子供に同じ位の女の子が声を掛けています。 「ううん。僕んちお母さんが新しいから」 男の子は知らない顔の女の子でしたが、さっきから一緒に遊んでいるので何も気に留めないで答えています。 「そうなんや。やったらママハハなんやね。そんで、そのママハハあんたに優しゅうないん?」 「うん。弟が生まれてから、僕なんていらない子になったんだ・・・」 「ふ~ん」 男の子は少しだけ淋しそうにしましたが、すぐに他の子に誘われて元気良く遊び出しました。 残された女の子は暫らくそこに佇んでその男の子の姿を見ていましたが、突然何かを思い出した様に走り出したのです。 「へ~じぃ~」 「おお、和葉か。お前決ったんか?」 平次と呼ばれた少年は、その少女のことを和葉と気軽に名前で呼んでいます。 「うん!あたし、あの子にしたわ!」 和葉はさっきの男の子を元気に指差します。 「何やひ弱そうなヤツやな?」 「あの子んちな、お母さんがママハハなんやて」 「ああ、なるほどなぁ~」 と大きな木に大人みたいに凭れかかって、頷いています。 そして、 「オレはアイツにしたで」 と砂場で一人お人形遊びをしている女の子を指差しました。 「あの子~?平次の好みとちゃうやん?」 和葉はどうもお下げの可愛らしい女の子が、気に入らないみたいです。 「あいつの親父な、飲んだくれで母親に暴力振るうみたいなんや」 「あっ、それはあかんね」 「そやろ?」 「うん」 「ほな、これで今夜は決まりやな」 そう言うと平次は木から離れて、和葉に向き直りました。 「今日はハロウィンやし、ご馳走に有り付けそうやね」 和葉も素直な笑顔で返します。 「まぁ、最近は碌んが居らんけどな。おっ、惟子(ありす)ちゃんのお帰りや。ほな、オレ行くわ」 「気い付けてな~。また明日な~平次!」 「おお!和葉もな!」 一人とぼとぼと歩いて公園を出て行く女の子に駆け寄っても、平次は声を掛けることも無くその子の後ろを黙って付いて行ってしまいました。 平次が見えなくなると振っていた手を止めて、和葉も自分の決めた男の子を見詰めます。 男の子は数人の友達と仲良くボールを蹴って遊んでしましたが、友達が一人、一人と減っていくと自分も公園から出て行きました。 「はぁ、あの子の元気は空元気やなぁ~」 ボールを小さく蹴りながら歩く後姿は、とてもさっきまで元気に走り回っていた子とは思えません。 淋しそうで、家に帰るのが嫌そうにも見えます。 小さく小さくボールを蹴って途中立ち止まったりもしながらなんとかお家に辿り着いたのは、日もすっかり暮れた頃でした。 「ただいま~」 玄関のドアを開けて、男の子は家の中へと入って行きます。 「へぇ~、結構立派な家やん」 目の前で男の子が入って行った家を見上げて、和葉は子供には似つかわしく無い表情で思ったことを零します。 「こ~んな家に住んどって不幸やなんて不憫やなぁ~」 家の周りをぐるりと一回りしてから、 「ほな、お邪魔しま~す」 と勝手に人様の家に入ってしまいました。 「え~とぉ、あの子どこやろ?」 靴も脱がずにづかづかと上がり込むと、手近なドアから片っ端に開け放ってしまいます。 「まぁ、別に開けへんでもええんやけどぉ~、やっぱお約束やしなぁ~」 と言いながら目的の男の子を見付けたのは、ダイニングキッチンと呼ばれる場所でした。 「居った!」 その子は一人テーブルに座って夕食を食べています。 和葉は近寄るとそっとその子の横に立って、顔を覗き込みました。 「あんた、何で一人で食べてるんよ~」 和葉の疑問ももっともです。 何故なら、すぐそこの居間では両親と多分弟で在ろう小さな男の子が、楽しそうにハロウィンのケーキを食べていたからです。 「ほんまに、相手にされてへんのやなぁ~」 そう呟くと和葉は男の子の側を離れ、賑やかな居間に入って行きました。 ローテーブルの上にはパンプキンケーキとジュースや色取り取りのお菓子が置かれ、3歳位の男の子を中心にハロウィンパーティーが開催されています。 その場面だけを見ればどこにでも在る一家団欒なのですが、少し視線を上げると奥には淋しげに一人ぽつんと取り残された男の子。 明らかに異質な感じです。 背中で手を組んで、和葉はそんな3人の周りをぐるぐる回ります。 しかし、誰一人として和葉の存在に気付く者はありません。 父親らしき人物は時々ちらりちらりと一人ぼっちの男の子を気に掛ける様に視線を流しますが、それ以上特に声を掛けるとかの行動を起こすことはありませんし、母親、たぶんこの人物が例のママハハでしょうか、はまったく気にも留めてもいないみたいです。 むしろ、男の子の存在を完全に無視している感じです。 そして小さな男の子は、兄の存在自体に気付いていないのでしょう。 「父親失格!母親失格!」 和葉はそんな両親に向けて順番に指刺しながら、判決を下していきます。 「そやけど、あんたはまだあの子んこと気にしとるようやし、両親いっぺんにのうしたらあかんから今回は見逃したるわ」 しかし、どうやら男の子の今後の為にも父親は許して上げるみたいです。 それからも暫らく異様な状態でのパーティーは続きましたが、男の子は自分の夕食を食べ終えると家族に気付かれることなく部屋を出て行きました。 和葉だけはそんな男の子に少しだけ悲しそうな視線を向け、 「あんたの居場所作ったげるから」 と呟きました。 3人だけになったパーティーは、本当に何処にでも在る普通の家族です。 小さな男の子がまだケーキを食べると駄々をこね、優しい母親がそれを諌めはしますが結局は再びケーキを取り分けています。 父親もそんな妻と息子を優しそうに見て、微笑んでいます。 畏怖すべき存在が、共に居るとも気付かずに。 そろそろ小さな男の子は眠くなって来たのか、幾分大人しくなりました。 すると母親が、お風呂見てくるわね、と子供を父親に任せ部屋を出て行きます。 和葉もそれに続きます。 母親は廊下に出ると、いくつかの部屋のドアが開いていることに気付きました。 「まったく、また空遥(そなた)ね。もう、あの子どっかに行ってくれないかしら」 いくらママハハだからと言っても、これはとても母親が言う言葉ではありません。 「それやったら、安心してええよ」 突然、真後ろから聞こえて来た声に母親は飛び上がりました。 「もうすぐ邪魔にならへんようになるから」 クスクスと笑いながら和葉は言葉を続けます。 「あ・・あなた・・・」 母親は驚愕の余り、声が上手に出ないみたいです。 「あ、あたしんことやったら気にせんでええよ。ただの通りすがりの”座敷わらし”やから」 さらりと真実を告げられても、母親に受け入れられる訳がありません。 「ど・・どこから入って来たの!!」 「どこからて、そら玄関からに決ってるやん」 「あなた何処の子?勝手に他人の家に入り込むなんて、何考えてるのよ!」 「そんなん言うたかてなぁ~。”座敷わらし”ちゅうんはそういうもんやで」 「何バカなことを言ってるの!」 恐怖から立ち直った母親が、今度は怒りに任せて怒鳴ります。 しかし、すぐそこの居間に居るはずの父親も、2階に上がった男の子もその声にまったく気付いた様子はありません。 「トリック オア トリート ?」 怒鳴り散らす母親をまったく気にも留めずに和葉も続けます。 「何ですって?!」 「やから、トリック オア トリート?やって。今日はハロゥインやから、一ぺんだけあんたにもチャンス上げるわ」 「バカなこと言ってないで、さっさと出て行きなさいよ!」 「せっかく、チャンス上げるて言うてるんに~」 「警察呼ぶわよ!!」 「せっかちやなぁ~も~」 ぶつぶつ言いながらも和葉は、母親に近付きそのスカートの裾を右手でガシッと掴みました。 「なっ・・・」 その手を振り解こうとした母親は、自分の体がまったく動かないことにやっと気付いたみたいです。 「”座敷わらし”てな、家に住み憑くだけとちゃうねんで」 再び恐怖に囚われている母親を、下から見上げて楽しそうに和葉が囁きます。 「人間の子供に憑くこともあんねん」 母親には見下ろした女の子が、屈託の無い笑顔を浮かべている様に見えているのでしょうか。 しかし、足元から這い上がって来る恐怖はどうしようも無く、その顔は畏怖に怯え歪んでいきました。 「ほんでな、あたしは今あんたが嫌いなあの子に憑いてんねん」 それはこの母親には最終警告に聞こえます。 「あの子の幸せに、あんたは必要無いみたいやから」 和葉の口元が弓が反るように上がると、最後の言葉を吐き出しました。 「あたしが食べることにしたんよ」 すると子供の姿をしていた和葉の輪郭が、まるで黒い墨が溶け出すみたいにぼやけていきます。 それは直ぐに和葉の姿全体に広がり、やがて黒い霞となり母親をすっぽりと覆い隠してしまいました。 煌々と明かりのついた廊下に、そこだけ漆黒の闇が浮かんでいるように。 微かに母親の断末魔が聞こえたような気がしましたが、闇は何一つ音を立てることも無く静かに元の和葉の姿に戻っていきました。 「うげっ。あの女、化粧し過ぎ・・・うっ・・・気持ち悪~~~」 完全に元の姿に戻った和葉の第一声がそれでした。 「せっかくのハロウィンやのに、なんかえらいマズイもん食うてしもたわ・・・うう~」 どうやら、ここの母親は和葉の口には合わなかったようです。 「マジで胸焼けしそう・・・早うあの子の側でええ気に当たらな」 そう呟くと、トントンと階段を上がってまた勝手に男の子の部屋に入っていきます。 そしてベットで布団に包まっている男の子の足元に、同じように小さく蹲るとそのまま寝てしまいました。 次の日の朝この静かな町には珍しく、パトカーのサイレンが鳴り響き大勢の人たちが右往左往しています。 どうやら昨夜忽然と、二軒の家から二人の人間がいなくなったらしいのです。 「おっはよ~平次!」 「おお、おはようさん」 そのころ和葉は昨日と同じ公園で、平次に朝の挨拶をしていました。 「平次も上手くいったみたいやね」 「そやけど、えらいマズイおっさんやったで」 「あたしも~~。化粧濃すぎて激マズやったわ~」 「この町はハズレやったなぁ~」 呑気に話していますが、内容は常識では考えられないものです。 「次ぎはもっと美味しいんがええわ~あたし」 「オレもや。こうマズイんばっか続くと流石に胃がもたれてかなわん」 「なんか平次、おじさんぽ~い!」 和葉がケラケラと笑います。 「うっさいんじゃ和葉。お前かて人間の年で計算したら、とっくに墓の下やで。しかも、骨すら残ってへんかもしれんなぁ~」 平次も負けじと、和葉のおでこをデコピンして応戦します。 「いったぁ~~!何すんの!」 「ほれ、腹ごなしに次ぎの町まで歩くで」 和葉の苦情をさっさと流して、平次はスタスタと公園の外へと歩き出してしまいました。 「もう~、待ってえなぁ~~!」 慌てて走り出した和葉も、公園から姿を消しました。 その後、この町に”座敷わらし”は現れなかったそうです。 おしまい |
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はい。「うぃ~くENDハロウィン?!」でした。 え~と・・・どこがウィ~クなのかとは聞かないで下さい。(汗) それと、これは何だ?!とも聞かないで下さい。 「座敷わらし」です!! ハロウィンと言えばオバケですよね、だから日本の妖怪にしてみました。 いいですね! 誰が何と言おうとこれは「座敷わらし」ですからね!!(笑) by phantom
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