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■ トラップ注意 ■ by yuna 大阪人は、基本照れくさくて愛の言葉をめったに囁いたりはしない。 「アホ」「ボケ」「しゃーないやっちゃで」 しいて言えば、これが彼の、精一杯の愛情表現だったりする。 でも、たまには聞いてみたい。 ベッドの中だけじゃなく、素のままの彼の口から……と。 「今日の晩御飯、何食べたい?」 「うん」 「お好み焼きにしようっか?」 「うん」 「阪神戦、もうすぐ始まる時間やね」 「うん」 だめだ…聞いていない。 事件の書類に目を通しているときの、いつもの彼の癖。 平次は自分の世界に入っていて、和葉の話などまるで聞いていなかった。 「工藤くん、来週大阪に来るって言うてたで?」 「うん」 「……今、浮気しとるやろ?」 「うん」 そこで、和葉は平次に語りかけることをピタッとやめた。 「ん?」 書類に没頭していた平次が、ふと顔を上げる。 何やら異様な雰囲気に目を配ると、そこにはジッと自分を睨む和葉の顔があった。 「ふ〜〜ん、そうなんや……」 「そうなんやって、なんやねん?」 「べーつーにー」 「別にって……すまんすまん、ちょう聞こえへんかったんや、もういっぺん言うてくれ」 「もうええよ、分かったから」 「何を分かった言うてんねん、はよ何か言うてくれっ!」 心当たりはないのだが、どうやらかなり彼女は怒っているようだ。 そう思った平次は、ツンと給湯室へ向かう和葉の前に慌てて回りこみ、顔の前で大げさに両手を合わせた。 「すんません和葉さん、もう一度言うてもらえますか?」 本当に申し訳なさそうに頭を下げる平次が、何だか可愛らしい。 普段、外では絶対見せない仕草に笑ってしまいそうになる。だが不意にイタズラ心が湧き上がり、和葉は緩みそうな口元を再びグッと引き締めた。 「工藤くんが来週大阪に来るって」 嘘は言ってない。 これはさっき蘭からの電話で伝言を頼まれたもの。 だが、それは平次の欲している言葉ではないことは一目瞭然で、平次は先程とは違う鋭い目つきでもう一度和葉にこう問いかけた。 「何て、言うたんや?」 (やっぱり、誤魔化されへんのやね) それは分かっていたのだが……。 和葉はフウと息を吐くと、コチラを睨む顔にピッと指をさしながら負けないくらい凄みのある目を向け。 ニヤリ、と笑った。 「当てたら、許したるわ」 そん代わり、当てられへんかったら一生許さへんよ。 そう言うと、涼しい顔でお茶を沸かすためヤカンに水を入れ始めた。 「ゆ、許さへん…って、和葉さん?」 「なに?」 「……一生?」 「そ、一生」 ガックリと項垂れ、和葉からの超難問なクイズに『う〜ん…』と頭を抱える平次。 それはそうだろう。それは今まで出会ったどの事件より難解で、そのうえ人生がかかっているのだから。 だが項垂れたのは一瞬で、平次は不敵な笑みを浮かべ顔を上げる。 そして和葉にズイっと迫ると、わずかに頬を染めながらこう和葉に懇願した。 「え〜っと……ほんならその質問に対しての、オレの”答え”…っちゅうんで許してもらえるやろか?」 答え? 思っても見なかった返答に、蛇口をひねろうとした手が止まる。 神妙な口調の平次に引き寄せられるように、和葉は後ろを振り返った。 「それでも…ええ、けど?」 真剣な眼差しに、思わず身体が竦む。 自分が仕掛けた罠なのに、いつのまにか立場が逆転していることに、和葉は気付かない。 それを見て一瞬平次は笑みを見せると、おそるおそるその口を開き。 こう呟いた。 「愛してる、和葉だけを」 どこか微妙にずれた、だがあながち外れてもいないその答え。 それは、めったに聞くことの出来ない、平次からの深い『愛の言葉』だった。 その後、平次に抱きすくめられた和葉が簡単に”その罠”へと陥落したのは言うまでもなくて。 平次はようやく訪れた安堵の空気を確かめながら、その口元を緩める。 そして素早く放心状態のまま自分を見つめる和葉に寄り添うと。その柔らかい躯に腕を回し、力強くグッと抱き上げた。 流れ続ける、水道の音。 平次はそれを止めると、事務所の明かりを消し…。 静かに、ドアを閉めた。 |
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「やられたらやり返す。大阪人の基本です(笑)」 by yuna |
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