■ 10年後のあなた ■ by みゃあさま

今、オレの目の前におるんはオレの息子らしい。
『自称』やけどな。
年の頃は10歳前後。
色黒。
目付き悪い。
眉毛太い。
目上に向かってタメ口。
髪形・・・・・・・一部、とんがってる。
自宅にしてる上の部屋から、昨夜オレのとこに泊まった和葉と事務所に降りてきたら、『服部探偵事務所』と掲げられているドアの前にコイツが居った。
なんでこんなとこに子供が?とか思っていたら、いきなりそのガキに『オトン!』と抱きつかれた。
突然のことに事態を把握できないオレに飛んできたのは、和葉の渾身の平手、いやグーやったかもしれん。
「平次の浮気者〜〜〜〜〜!!!!!」言うてオレを張り倒した女はそのまま実家に帰ってもうた。
そして、それから5分とおかずオレの携帯にかかってくる着信。
表示名は・・・・・・『遠山』。
もちろん和葉やない。
もう何十回となくかかってきてるが恐ろしくて出られへん。
身の潔白を証明してからやないと、問答無用で殺られるで。
娘激LOVEの遠山刑事部長様は、会うたびに『和葉泣かせたら殺す!』いうて威嚇してきよる。
実際、なんど殺られかけたかわからん。
・・・・・て、オレのことはええねん。
今はこのガキのことや!
「坊主、名前は?」
「ハットリ カズヒラ」
「歳は?」
「9歳」
「親は何処や?」
「目の前に居るけど?」
このガキ!!・・・・思わず握った拳が震える。
落ち着け落ち着け・・・相手は子供や。
オレはコホンと咳払いをしてその子供に話しかけた。
「ええかオマエ、オレには子供は居らん。嘘吐くにしてももうちょいマシな嘘付けや」
「嘘ちゃうで。おれのオトンはアンタや」
「せやからオレに子供は・・・・」
待てよ?オレがオトンやいうんなら母親も居るはずだよな?
全く身に覚えはあらへんけど、そっから何か分かるかもしれへん。
「ほな・・・お前の母親は誰や?」
「そんなん決まってるやろ?」
「誰や?」
「なんや、名探偵いわれとるんやろ?推理してみぃや」
ブッツリ!!
頭の中で堪忍袋の緒が切れた音がした。
ゴンっ!!
「痛ってーーー!!!なにすんねんオトン!」
「じゃっかーしぃ!クソガキが、オトンいうな!オレにはガキなんかおらんのじゃー!!!」
「なんやとこのクソオヤジ!オレは正真正銘アンタの息子じゃ!」
「オレにはそんな覚えなんないんじゃ!お前の歳考えてみぃ、仮にお前がオレのガキやったら、お前オレが高校生んときの子ぉやぞ!無理あるやろそれ?!」
「当たり前や!覚えなんあってたまるかい!オレは10年後のアンタの子ぉや!!まだオカンの腹ん中じゃ芽ぇも出てへんわい!」
「・・・・・・・・・・・・・・は??」
なんやSFじみた言葉を聞いた気がする・・・・。
オレがあんぐりと口を開いていると、「なんや、案外頭固いなぁオトン・・」なんて聞こえてきた。
「ええかオトン。今のオレは10年後のアンタの可愛ええ愛息子様や、しっかりしてくれな困んでホンマ」
「お前みたい生意気なガキのどこが可愛ええんじゃ・・・」
「そんなんいうてええんか?そっくりやろがオレら」
「うっ・・・・・・・」
確かに見れば見るほどオレにそっくりなこのガキは、ようやく自分がココに来た理由を喋り出した。
まあ、そこんとこは色々長くなるので要約すると、オレが自分のカミサンを怒らせて、現在離婚の危機らしい。
んで、それを止めようとコイツが阿笠のじーさんが開発した機械を使ってここに来た・・・・・と。
タイムマシーンみたいなもんか?やりよるなあのじーさん。
「ええかオトン!今回の喧嘩のもともとの原因はオトンのプロポーズの言葉にあるんやからな」
「プロポーズなぁ・・・」
「せや。わざわざオレがココまで出向いたんやから、ヘマせんでくれや!まあ?オカンはごっつうモテるから、オトンと離婚してもぜんぜん困らへんやろけど、やっぱオレはアンタの子やからしゃーないから取り持ったるわ!」
「なんでそないに偉そうやねん・・・・ところで、まだいっちゃん大事なこと聞いてへんのやけどな、お前のオカンて誰やねん?」
「・・・・・なんやねんオトン。ホンマにオレのオカン以外にアテがあるんかい・・・・・」
なんや?急に不機嫌になりよったでコイツ?
アテがあるって何のことや?
「やっぱそうなんや・・・・オカンの他にも女おんねんな」
「他っていわれてもなぁ」
「オレはなぁオトンとオカンがしょっちゅう喧嘩しててもオトンはオカンのことごっつう好きなんやと思ってたからこんなとこまで出張ってきたんや!見損のうたでオトン!」
そう言って事務所の出口に駈け出そうとするのを首根っこを捕まえて待ったをかけた。
間違いない。
この思い込みの激しさ・・・・・オレの”カミサン”は間違いなくあの女や。
「ア〜ホ、勝手に誤解すんな。オマエ顔はオレ似なのに性格はアイツにそっくりやぞ」
「アイツって誰やねん」
「お前のオカンやろが」
「誰か分かったん?」
「分からいでか!っちゅーかオレの女はアイツしかおらんがな」
まだちょっと疑わしそうにこっちを見ている愛息子とやらに、自信たっぷりに告げてやる。
「お前のオカンって・・・・和葉やろが」
オレがそう言ったとたんに初めて見せる子供らしい表情でニッコリと笑顔を見せた。
そして、その笑顔を見たとたんコイツがオレの子供だということがストンっと納得できた。
その笑顔は、オレが心底惚れとる女の笑顔にそっくりやった。
それにしても、不機嫌な顔はオレ似で笑顔は和葉似って・・・。
そして、その愛息子は和葉そっくりの笑顔のままオレにぎゅっと抱きついてきた。
「やっぱりオトンは名探偵やな」なんて言いながら。
そして、ちょうどそのとき事務所のドアをブチ破るような勢いで登場した男が一人。
「き〜さ〜ま〜!!そんな大きな隠し子がいたとはどういうことやーーーー!!!!!」
鬼のような形相(それでもまだ優しい表現や)で登場した遠山父にオレは固まる。
オッチャンはズンズンとオレの方へやってくる。
そう言えば着信あったの散々無視してたんやった・・・・。
慌てて子供を背中に隠し。
「ちょー待ってくれオッチャン!誤解や!!」
そう言ったオレの言葉は耳に届いてないのか胸倉を締めあげられた。
ぐ・・ぐるじい・・・・・。
そうして、オレの後ろに居る子供に目をやると「そんだけオマエにそっくりな子供がおってなにが誤解やー」っとさらにオレの首を締めあげる。
アカン・・・三途の川が見えてきた・・・。
オレが六文銭を握りこまされそうになったそのとき、こんどは本当にドアをブチ破り救世主が現れた。
ドカンっ!!
「お兄ちゃん!!!!」
「ゲッ!!ツグハ!?」
「カズヒラ!!」
「何でお前まで来るんだよアラタ!」
「ツグハひとりで来させられるか!」
同じ年頃の男の子と、少しだけ年下らしい女の子。
オレからは女の子の後ろ姿しか見えないが、腰に手をあてて仁王立ちをしてる。
「もう!お兄ちゃんたら勝手にこんなとこ来て!!」
「オレはオトンとオカンを心配してやな・・・」
「それならもう心配いらないぜ?」
「なんかあったんか?」
「さっき向こうに平次おじさんが飛んできて和葉さんに土下座して謝り倒してたから。ちょっと泣き入ってたしな」
「きっと、オジイチャンたちにもシバかれたんやできっと。目のとこ痣できてたもん」
「静香さんかもな?」
「あ〜・・バアチャンか」
聞き覚えのある名前の出てくる会話に、オッチャンの手が緩む。
「平次君・・・・ワシに分かるように説明してくれるか?」
「はい・・・・・」
取りあえず全員事務所の応接ソファーに納まる。
オレの両脇にはカズヒラとツグハという女の子。
あのアラタとかいうガキはツグハの隣に寄り添うように立っている。
そして、テーブルを挟み、正面にオッチャン。
オレはカズヒラから聞いた話をそのまま話した。
途中途中でカズヒラとツグハが補足を入れる。
信じてもらえへんやろな・・・・・。
そんなオレの思惑とは裏腹に、あっさりと現実を受け入れたオッチャン。
「なんでそんなに簡単に信じてくれはるんですか?」
オレの言葉に、オッチャンは当然だと言わんばかりに満面の笑顔で返してきた。
「そら、そんだけ和葉にそっくりな可愛ええ女の子がおんのや信じんわけにはいかんやろ?」
さいでっか・・・・。
それで何でも片付くんや。
オレが大きく肩を落としてため息を吐くと、隣に座っていたツグハが腕にぎゅっと抱きついてきた。
視線を向けるとはにかんだような可愛い笑顔。
「なんや、若いオトーチャンて変な感じやけど、会えて嬉しい。へへ・・・」
和葉そっくりの顔でそんな悩殺モンのセリフを言われて思わず顔が二ヤケる。
ええな〜女の子って、めっちゃ可愛ええわ〜。
そんなん思って「そ〜か?」なんて返していると刺さるような視線を感じた。
そこにはアラタとかいうガキがオレを不機嫌そうに睨みつけておった。
なんやその視線には覚えがあるような・・・・。
はは・・・まさかな?不穏な考えが頭を過ぎる。
「ツグ〜、アラタがオトンのこと睨んでんで?」
カズヒラにそう言われると、ツグハは絡めていた腕を解いてアラタに向き直った。
「もう、アラタったら!こんなことでヤキモチ焼かんといてや」
「うっせ、バーロー」
そ、その口調は・・・・まさか。
となりのカズヒラを肘でつつき、「おい、アラタって・・」と言うと、オレが何を聞かんとしたのか分かったのかそのまま言葉を引き取った。
「そうや、アラタは東の名探偵『工藤新一』の息子やで」
やっぱりか・・・あの口調とフェミニストぶり、あれは間違いなく工藤の遺伝子や。
うんうんと、自分の推理が当たっていたことを自画自賛しているとカズヒラが「そんでな・・」と続けてきてまた耳を傾けた。
「アラタな、ツグにベタ惚れやねん。ツグハ、ツグハてうるさーてかなわんわ。アイツ毎週ツグに会いに大阪くんねんで」
なんやと?見てみると、ツグハの方も満更ではないらしい・・・。
それにしても二人ともまだ小学生やろが・・・。
それに、和葉そっくりの顔で他のヤローに笑顔を向けているのはなんや面白くない。
しかもそいつが工藤の奴にそっくりときとる・・・・。
ジトっと見ていると、そのツグハが騒ぎだした。
「そや!お兄ちゃん早よ帰らんとお母ちゃんが心配すんで」
「ホンマや、早よ帰らんと飯抜きにされんで」
バタバタと帰り支度をする三人。
「じゃあオトン、オレら行くから!分かってんな?ちゃんとしたプロポーズすんねんで!!」
「お父ちゃん、おじーちゃん、またな」
「じゃ・・・・・・」
三者三様の挨拶で事務所の入口を出て行く。
慌てて後を追って事務所をでたが長い廊下には既に姿はなく、どうやって来て、どうやって帰って行ったのかは結局分からなかった。
ひとつだけ確かなことは、アレがあいつ等の10年後の姿なら、あと数年で会うことができるということだ。
オレが和葉を捕まえられればだが・・・。
まずは誤解を解いて戻ってきてもらわんと。
これからのことを考え暗い気分になっていたオレにオッチャンの声。
「さっ、帰んで平次君。早く和葉の誤解を解いてやってくれや、ワシも口添えしたる」
「へ?オッチャン協力してくれるんですか?」
「おう」
「・・・・なんで」
長い付き合いや、事あるごとに和葉を振り回すオレを内心快く思ってないだろうことはオッチャンの態度の端々に感じていたので不思議やったが、何のことはない。
「ワシは早うあの子たちに会いたいんや。あの子たちが和葉とお前の子やいうんならしゃーない、一万歩くらい譲って和葉とのことを認めたる。せやからさっさと捕まえぇ」
「おおきに、オッチャン!!絶対幸せんするし!!」
「そーいうセリフはワシやのうてアイツにゆーたれ、アホ」
こうして、無事オッチャンの協力のもと、なんとかかんとか和葉んやつを説き伏せた。
オレらの話に半信半疑やったが、オレだけやのうてオッチャンも実際に会っているということで無理やり納得したらしい。
そして、そのまま和葉を連れて自分の部屋まで帰ってきた。
こっからが大事なとこや。
「それにしても、ホンマにそんな不思議なことがあるんかなぁ」
「なんや、疑ってるんか?」
「う〜ん・・・あの男の子が平次の子供いうのは分るんよ?顔そっくりやったし」
「ほな、どこが引っ掛ってんねん?」
「母親ホンマにアタシなん?やっぱ平次の隠し子・・・」
「ドアホ!そしたらオレが高校生のときの子になるやろが!」
「別におかしくないやん・・・」
「おかしくはないけど、それは無理や」
「なんで?」
さて、腹ぁくくるか。
「そりゃ、オレの初めての女はオマエやからや。更に言うならオマエ以外の女は知らんし」
「えっ?・・・・・嘘」
「なんでそんな嘘吐かなアカンねん、気ぃ悪い女やな」
「やって、平次ごっつモテてたやん・・・・いっつも周りに女の子たち居ったし」
「オマエかておったやんか」
「アタシは幼馴染としてやもん・・・・」
「・・・・・・・・・・オレは、ずっと女として見とったけどな」
「//////////・・・」
滅多に言わないオレのセリフに和葉が真っ赤な顔で見上げてくる。
こんなに素直に自分の気持が口から零れてくるなんて、自分でも吃驚や。
オレの顔も和葉に負けず劣らずの赤さやと思う。
けど、ここでコケたら10年後からオレのためにわざわざやってきたアイツらに合わせる顔がない。
熟れたトマトみたいな真っ赤な頬に口付けて、一世一代の甘い(だろう)セリフを囁いてみた。
一年後―――
命名: 和 平(かずひら)
三年後―――
命名: 次 葉(つぐは)
そして、十年後――――
「もう平次なんて知らん!!」
「ちょう待てって、和葉ぁ!!!」
やっぱり、オレは和葉を怒らせていて・・・・・。
アイツは子供たちをつれて東京の工藤んとこに行ってもうた。
「アンタとはもう離婚や!」という捨て台詞とともに・・・・。
スマン、和平、次葉・・・やっぱやってもうた。
せやけど大丈夫。
あのとき、和平を追って後からやって来たアラタは『心配いらない』と言ってたしな。
まあ、何発かシバかれるのは覚悟の上として・・・・・。
オレは、和葉に土下座で謝り倒すべく東京に向けて車のアクセルを踏み込んだ。




「『頭のとんが』は親子の証」因みにMY設定では和平の意中の女の子は快青の娘です(笑)」 by みゃあ