「春夏冬中シリーズ」@-3
■ 春夏冬中 − 冬の氷 − ■ by phantom


夏にお父ちゃんから呼び出された理由は、お見合いやった。
「お前ももうええ歳や、そろそろ真剣に考えてみてもええんとちゃうか」
そう言われて、いくつかのお見合い写真と釣書を手渡された。
「平蔵の息子とどうしとるんか知らんが、いつまでも今のままやったらあかんぞ」
あたし自身今の自分らの関係が分からへんのやから、ましてやお父ちゃんに分かる訳が無い。
そやけど今のままがあかんて思うてるんは、あたしもお父ちゃんも同じみたいやった。

その時は流石にすぐにすぐお見合いする気にはなれへんで断ったんやけど、お父ちゃんはその後も何度かあたしにお見合いの話を持って来た。
あたしの中でも何かが変わろうとしとったけど、どうしても踏ん切りがつかんでずるずる平次と相変わらずどっち付かずの関係を続けとった。
そんなあたしに、お父ちゃんの我慢の限界が来たんは今年初めて雪が降った日やった。
突然事務所に押し掛けて来て、
「和葉、これから氷堂さんと会うことになっとる。すぐ帰る用意をせぇ」
とすぐにでもあたしを引っ張って行こうとする。
「ちょ・・ちょっと待ってやお父ちゃん!その話しやったら、まだ・・」
「お前に任せとったら埒が明かん。そやからワシが日取りを決めたんや」
氷堂さん言うんは、この前見せられたお見合い写真の人や。
「そんなん急に言われても・・・」
「こうでもせんと、お前も踏ん切りつかんのちゃうんか?」
「それは・・・」
お父ちゃんにはぜ〜んぶお見通しなんかもな。

「ちょう待てくれや!」

訳が分からんいう様なその声に、平次が居ることを思い出した。
「何の話やねん?」

しもた・・・平次にはまだお見合いの話しがあること何も話してへん。

あたしがどう言うて答えようかと考えとる間に、
「すまんな平次くん。和葉はこれから見合いがあってな。悪いが、今日はこれで帰らせてやってくれんか」
お父ちゃんがストレートに言うてしもた。
「は?見合い?」
平次の目が『どういうことやねん?』とあたしに問い掛けて来る。
「あ・・あんなぁ平次・・・」
「和葉には前々からぎょうさんええ話しがあってのう、その都度この娘にも見せとったんやけどな、なかなか気に入ったんが居らへんかったんかいつまで経ってもはっきりしたこと言わへんから、ワシが変わりに見合いの段取り付けたんや」
「ほんまなんか和葉?!」
平次があたしを睨み付けて、今度は声に出して聞いて来た。
「・・・ほんまや」
あたしはつい目を逸らしてしまう。
「なっ・・」
「和葉ももうええ歳やし、ワシも早う孫の顔も見たいしのう。平次くんとこには新しい女の子も入った言うやないか、やったらもうこの娘は要らへんやろ?ここらで和葉には暇を出したってくれや」
お父ちゃんが畳掛けるみたいに平次にそう告げて、あたしと対角線上の平次を挟んで反対側にある机に目をやった。
それはあの五十嵐夏穂が勝手に持ち込んだ机や。
あの女は未だに平次の側から離れへん。
今日はたまたま居らんだけや。
「ほな、そういうことや。邪魔してすまなんだな平次くん。和葉行こか」
言いたい事を終えたお父ちゃんは、来た時と同じくさっさとドアに歩き出した。
「平次・・・あたし・・」
平次にはあたしの声が届いてへんみたいで、こっちを向いてもくれへん。
恐い顔してさっきまでお父ちゃんが居った場所を睨んどる。
「和葉!早せぇ!」
お父ちゃんのあたしを急かす声にも反応せん。
今は何を言うてもあかんのやね。
「ごめん。あたし・・・行くな」
そう言い残して、あたしはお父ちゃんの後に付いて平次の居る場所を後にした。


外の世界には小雪が舞い、足元の水溜りには薄い氷が膜を張っとった。
あたしと平次の間にも、見えへん氷の壁が有るようなそんな気がした。



「遠山父は私にとってヒーローです!(笑)」 by phantom