「春夏冬中シリーズ」@-4
■ 春夏冬中 − 中の人 − ■ by phantom


お見合いは結局上手くはいかんかった。
相手の人はえらいあたしのこと気に入ってくれたみたいなんやけど、大阪の人や無いし、警察のキャリア組言うたら転勤族やん。
やから、
「あたし大阪離れた無いなぁ」
てお父ちゃんに言うたら、何や知らんけど、
「そうやな。和葉には大阪が似合うとる」
言うてその場で勝手に断ってしもたから。
自分が選んで連れて来たのに、自分から断るってどういうことやろ?
そやけどお見合い自体は諦めてへんみたいで、
「やったら次は、府警の生抜きから選ぶか。明日早速、何人か見繕って来たる」
やて。

あたしはもう誰でもええわ。
平次や無いんやったら、誰でも同じやし。

次の日、事務所に行くと珍しく平次が先に来とった。
来とった言うより、ずっと居ったが正しいみたいやけど。
昨日と同じ服やし、しかも何や目ぇ血走っとるみたいやし機嫌もすこぶる悪い。
「おはよう。昨日はここに泊まったん?」
言うても無視するし。
はぁ・・・昨日の今日やし気ぃ重いわ。
やっぱ休んだ方が良かったやろか?
気まずい雰囲気のままあたしは自分の席にバックを置き、いつもみたいにコーヒーを淹れる為キッチンに向うとした。
「ちょう待て」
急に呼び止められたから、少し不自然な姿勢のまま止まってしもた。
「何驚いてんねん」
「別に・・・。何?」
「ええから座れや」
顎であたしの机を指す。
「何なん?」
とにかく座れとしか言わへんから、しぶしぶやけどそうすることにした。
「昨日はどうやったんや?」
主語が無いけど、お見合いのことやろな。
「あかんかったわ」
「ほ〜」
あたしが少し落ち込んだ風に言うたのに、平次は気の抜けた声を出しただけや。
何なんよ、ほんまに。
「やったら、これ書けや」
自分の机に広げとった書類の1枚を、パサッとあたしの目の前に置いた。
「これ・・・婚姻届やん」
それには平次の署名と捺印、それに証人欄にはおじちゃんと工藤くんの署名捺印まである。
突然のことでどうしてええんか分からんで、平次の顔を見返してしもた。
「何ポケ〜としとんじゃ。さっさと書かんかい」
「え・・・あ・・・」
これってどういう意味なんやろか?
「これ・・・どしたん?」
「ど・・そんなん見たら分かるやろが!」
まったく分からへんから聞いてるんやん。
「やって・・・これあたしが書いてしもたらあかんのちゃうん?そんなんしたら、あたしら結婚してまうで?」

「やったら私が!和葉さんが書かへんのやったら、私が書きたい!」

いつの間に来たんか知らんけど、他人の会話に割って入るん好きやなこの女。
「お前はすっこんどれ!」
「どうして?なんで私やったらあかんの?私、平次さんの為やったら何でも出来るのに!」
平次に一括されても、怯むことなく必死で縋っとる。
「ええ加減にせぇ!お前何か勘違いしてへんか?俺はお前が一人前の探偵になりたい、言うから置いてやってるんやで?」
「それも本気です!そやけど、私はもっともっと平次さんの側に居りたい!」
なんかちょこっとやけど、この子が羨ましくなった。
あたしには、もう、そんな勇気はないから。
「この際やからはっきり言うとく、俺は和葉意外の女をいつまでも側に置いとくつもりは無いで」
「何で、何で和葉さんや無いとあかんの?」
目にいっぱい涙溜めとるけど、それでも平次の目から目ぇ逸らさへん。
「俺の人生に和葉が居らんなんてことはいっぺんも無いんや。これから先もな」
平次にそう言われてどうするんやろ?思うてたら、
「やったら、そやったら和葉さんはどうなんですか?」
言うて行き成りあたしに振ってきた。
「え?」
当事者なのにどこか傍観者の立場で居ったあたしは、とっさに答えらへんかった。
「どうやねん和葉?」
平次まであたしに聞いてくる。
「どうって・・・」
あたしが答えられへんで目ぇ泳がせてると、
「ったく・・・。こん事務所開いてからお前おかしかったしな。どうせまた余計なコト考えとるんやろなぁとは思うてたけど、まさか見合いまでしとるとは思うてへんかったで」
とごっつう呆れた声で言われてしもた。
「パーティー連れて行っても紹介する前に勝手に帰ってまうわ、こいつが居ったら少しは焼餅でも焼いてくれるんちゃうか思たらあっさりスルーしてまうわで、お前どんだけ俺んことへこませたら気ぃ済むねん」
「・・・・・・・・・・」
「何が気に入らんのや?」
黙ったまま言うのもあれやから、思うたことをそのまま言うてみた。
「やって・・・あたしらどういう関係なんか分からへんのやもん・・・」
「はぁ?それこそ今更何言うてんねん?あれ程色々言うたってるやろが?」
「?」
「お前っちゅう女は・・・」
あたしが?飛ばしてると、平次は頭を抱えてその場に蹲ってしもた。
やって、ほんまに分からんのやもん。
「まさかとは思うが、ほんまに何も覚えてへんのか?」
「ごめん・・・そやけど・・・いつの話しなん?」
何や申訳無くて小声で聞いたのに、

「どアホッ!!ベットの上でじゃ!!好きやとか愛してるとかずっと側に居れとかお前だけやとか他にもぎょーさん言うったてるやろがっ!!」

すんごい勢いで立ち上がって耳まで真っ赤にしてそう叫ばれた。
はっきり言うてびっくりした。
流石の五十嵐夏穂も口をあんぐり開けて、ぽか〜んとしとる。
「は・・・初めて聞いた・・・」
「お前なぁ・・・」
平次は力尽きたんか、ソファーにどかっと沈み込んだ。
「しっかりしてくれや・・・」
「やって・・・」
平次のアレはめちゃくちゃ激しいから、いつもあたしは途中からほとんど記憶が無い。
そんな状態の時に言われたかて、覚えてられる訳無いやん。
「分かったんやったら、さっさとそこへ名前書けや」
「・・・・・・・・・・」
「今度は何やねん?まだ何ぞあんのかぁ〜?」
「ほんまに・・・あたしでええの?」
「まぁだそないなことぬかすんかい」
ガバッとソファーから復活した平次は婚姻届をジャケットのポケットに納めると、
「お前は再教育じゃ!」
言うてあたしの手を引っ張って、事務所を出て行こうとする。
「ちょ・・どこ行くん?」
「帰るんじゃどアホッ!もっぺん一から俺のこん深〜い愛情を叩き込んだる!」
「え?ちょ・・」
「お前もさっさと帰れ。今日はもう閉めんで」
そう言われた五十嵐夏穂は、弾かれた様に帰って行った。
これで、もうここへは来へんやろな。
平次もそれを確認してから再度あたしを引き摺って、事務所のドアに『本日休業』の札を掛けた。

その後、散々平次の愛情とやらを叩き込まれて、へろへろの状態で婚姻届に署名捺印をさせられた為に、一生に一度の大事な書類やのに、あたしの字はそれはそれはお粗末なモンになってしもとった。
しかも、平次はあたしが書き上げると同時に真夜中にも関わらず市役所に出しに行ってしもたから、お父ちゃんへは事後報告になってもうて何でか歯軋りして悔しがっとった。
そして五十嵐夏穂やけど、未だに平次の事務所に居んねん。
「私、まだ探偵としては平次さんから学びたいことぎょうさんありますから」
やて。
ほんま、ええ根性してるわ。

そやけど、もう、あたしには何の迷いも心配も無い。
あたしは服部和葉なんやから。



あたしは一生平次に飽きることは無いやろ。

やって、おもろいんやもん。



「これにて『春夏冬中』は終了です。ちなみに、中の人=本音と建前の本音の部分や、
物事の核心部分をさすことば だそうです。しかし結婚しちゃったわ(笑)
」 by phantom
春夏冬中シリーズ
@OFF19「春夏冬中」AOFF31「不倫や〜〜!」BOFF02「今何所におるんや?」
C仕事12「服部探偵事務所24時」DOFF25「引き出しの奥の小箱」E仕事21「盗聴器にご注意!」