■ 不倫や〜〜! ■ −春夏冬中シリーズA− by phantom


「帰って来ぇへんやん」
事務所の時計は午前様通り越して、に〜〜!とか指しとるし。
「に〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
別に笑っとるんとちゃうで。
こうでもせんと時間が潰れんからやねん。
「な〜にが『今日中に帰る』なん!今日は今日でも、あんたの今日はとっくの昔に昨日や!」
まったく、いつまであの女とうろちょろしとんねん。

平次と何やよ〜分からん内に結婚してもうとって、朝起きたら服部和葉になっとった。
婚姻届に自分で記入したんは微かに覚えとるし、自分の字ぃがヨレヨレになってしもたんも覚えとる。
平次がベットの上にごっつい本と一緒に婚姻届とボールペン持って来て、後ろからあたしを抱き抱えてボールペンをあたしの右手ごと持って書かせたんも覚えとる。
「うん?」
これってよ〜考えたら、自分で書いたことにならんのちゃうんやろか?
しかも印鑑は平次が勝手に用意しとったし。
ええんかな?ほんまにこんなんで?
あたしかてええ歳やけど、結婚にはそれなりの理想っちゅうんがあったんやけどなぁ。
理想はあくまで理想やな。
「結婚式・・・憧れてたんやけどなぁ・・・結局、式もパーティーもせんままやん・・・」
はぁ・・・

「それはいけませんね」

「えっ?」
え?え?え?
突然の声にあたしはキョロキョロと事務所内を見回したんやけど、やっぱ誰も居らへん。

「窓から失礼しますよ、レディ」

このキザなセリフはもしかせんでも、って思うとったらやっぱKIDやった。
平次の机の後ろにある大きな窓が音も無く開いて、闇夜に真っ白な影が浮かび上がった。
「今晩は麗しきレディ。今宵はあなた御1人なのですか?」
KIDは相変わらずの格好で、仰々しくあたしに向ってお辞儀をしとる。
「泥棒さん、いらっしゃ〜い」
「・・・・・・」
やから某長寿番組のマネして出迎えたら、世界の大泥棒を一時停止させてしもた。
夜中のテンションて恐いわ。
「ほんで何の用なん?平次やったら、ご覧の通り留守やで」
「その様ですね。あなたをこんな時間まで独りで待たせているとは、西の名探偵くんは相変わらずのご様子で」
流石やわ。
自分が固まったことを流れる様な動きと爽やか笑顔でスルーしてもうたわ。
「ほんま平次は相変わらずやで。それより、あんたはなんで大阪に居んの?」
「今宵はフランソワーズホテルの下見に参りました」
あ〜そう言えば、何や今度ごっつい宝石の展示会があるとかTVで言うとったなぁ。
「ほんで、うちに挨拶に来たん?」
「ええ。西の名探偵くんとは暫らくお会いしてませんからね。灯かりが点いていましたので、この様な時間に失礼とは思いましたが覗かせて頂きました」
「覗きの趣味もあるん?」
「泥棒ですから」
それ、答えになっとるんかな?
「まさかあなたがこんな時間まで、お独りで彼の帰りを待たれているとは思いませんでしたが」
「いつものことやで?」
「恐くないのですか?」
「あんたみたいなんが現れるから?」
「ええ」
笑顔で言うたら、笑顔で返されてしもた。
「もう慣れてもうたわ」
「家に帰ろうとは思わないのですか?」
「う〜ん?帰ろうかなぁとは思うことあるけど、ここで送り出したら何でかここで待つんが癖になってもうてるんよ」
そう言うたら、KIDはとても優しい微笑みを浮かべた。

「ところで、先程おしゃっていたことは本当ですか?」

急に真面目な顔に戻った思たら、そう聞かれた。
「そうやけど・・・」
「いつご結婚されたのですか?」
「夜中」
「は?」
違た・・・この場合日付やんな。
「え〜と、12月の・・・いつやったっけ・・・?」
「・・・・・・」
あれ?ほんまにいつやったやろか?
あたしが首傾げてると、
「とにかく、昨年の12月なんですね。もう半年以上も前ではありませんか。その間に一度も結婚式の話しは出なかったのですか?」
とKIDは勝手に話しを続けた。
「ちゃうよ。ほんまは春に結婚式と披露宴する予定やったんやけどな、ほら、例の事件あったやろ?」
「大阪城の立て篭もりですか?」
「そうそれや。そのせいで出来へんかったん。平次もお父ちゃんもおじちゃんもそれどころやのうなってしもたから」
あれは迷惑な事件やったわ。
大阪城にお〜昔に平次とおじちゃんとおとうちゃんとで捕まえた窃盗集団が、何を思うたんか出所したばっかりや言うんに人質連れて立て篭もってしもて、1週間近くも駄々捏ねたんや。
お蔭でウエディングドレス着そこのうてしもたやん。
「それ以来、予定は無いのですか?」
「うん。ホテルのキャンセル料とか結構掛かってしもたから・・・」
そうやったわ。
結婚式も披露宴もしてへんのに、びっくりする程のキャンセル料請求されたんやったわ。
まぁ、当日キャンセルなんやから仕方無い言うたら仕方無いんやけど・・・あれは、ぼったくりやで。

「まだウエディングドレスに憧れてますか?」

「そやね。いっぺんは着てみたい・・・かな」
やっぱ女の子の憧れやもんね。
「そやけど、何でそんなこと聞くん?」
「私の妻も、ウエディングドレスにはずっと夢を抱いてましたから」
「え?KID結婚してんの?」
これは初耳やわ。
これってもしかしてビッグニュースちゃうん?
KIDが結婚しとるなん知れたら、世界中大騒ぎやで。
「一応私も普通の男なので」
ってKIDやのに少しだけKIDや無い男の人の表情が見えた。
「そうなんや。結婚してるんや〜」
「他の方にはご内密に」
口に人差し指当てて言うてる姿もKIDなんやけど、その中に居る素顔が垣間見れる。
「平次にも?」
「出来ましたら」
まぁ約束守らんで可愛ええ助手連れたまんま帰って来ん男なんやから、これくらいええやんな。
「うん。ええよ」

「ありがとうございます。では、これから私と少し出かけませんか?」

「え?これから?」
「ええ。ステキな処にご案内致します」
一瞬どうしよう?と思うたけど、何でかKIDの差し出すその手を取ってしもとった。
「これって何や不倫してるみたいやわ」
言うて笑うたら、
「でしたら、そうメッセージを残して行きますか?」
って楽しそうな声で言われてしもた。
やからKIDの出したカードに、

『 KIDと不倫してきます 和葉 』

と書き残し、あたしはKIDに連れられて大阪の夜空に舞い上がって行った。



あたしを放っておくから、こんなことになるんやで平次!



「お題と内容に無理がある(笑)この話しは続きません。多分ね・・・」 by phantom
春夏冬中シリーズ
@OFF19「春夏冬中」AOFF31「不倫や〜〜!」BOFF02「今何所におるんや?」
C仕事12「服部探偵事務所24時」DOFF25「引き出しの奥の小箱」E仕事21「盗聴器にご注意!」