*この話しは仕事06「美人お断り」の続編です*
■ 迷い猫 ■ by micky


『困ってる奴がいるから、一晩だけでいいから預かって欲しい』

時計の針が天辺で重なる頃、蘭の婚約者である新一君から突然の電話が入った。

「工藤家に泊めてあげればいいじゃない。どうせ部屋は余ってるんでしょ?あっ、もちろん蘭には黙っててあげるわよん」
『オイオイ…冗談だろ?蘭にも服部にも殺されるのはゴメンだぜ』

「名探偵工藤新一、結婚直前に破局か。このネタいいお金になりそうじゃない?これで明日のトップ記事は決まりね」
『……面白がってんじゃねーよ』

「アハハ!冗談よ冗談。分かったわ、すぐに迎えの車を送るから」



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「ゴメンなぁ。蘭ちゃんがおる思うて、工藤君の家に勢いで行ったら、蘭ちゃん家族旅行中らしくて…」
「そうそう。やっとオバサマが首を縦に振ってくれて。ハァー…あの両親を説得させるの大変だったのよ。でも結婚前にどうしても家族旅行をさせてあげたいって、新一君がすべて手配してさぁ」
園子はその時の事を思い出し大きなため息を吐いて見せた。


「ご両親、別居してはるもんね。蘭ちゃんも大変や…」
「…そういう和葉ちゃんも大変だからここに来たんでしょ?この園子様が力になってあげるから、方舟に乗ったつもりで安心してちょうだい!」

「それを言うなら大船ちゃう?」
「そだっけ?」
和葉がやっと笑顔になったのをみて、園子はホッとした。

「で、何があったの?どうせあの浪速の色黒彼氏の事なんでしょ?」
「そやねん。あの色黒の…色ボケの…ボケグロの事やねーーーん!!」
怒りのせいか涙が溢れんばかりに、和葉は瞳を潤ませていた。

「まさか色ボケって…浮気でもされたっていうの?」
「……園子ちゃん、聞いてくれる?」
「もちろんよ!」
園子はウインクをして、和葉の隣へと移動した。

「…この前な。事件の関係でこっちに平次が一人で来た事があってん。その時や…バーで美人とお酒を飲んで……楽しそうに笑って…それも2人きりでやで!!」
「え―…友達じゃなくて?」
園子の疑いの目に、和葉は思いきり首を横に振った。

「あんな美人の知り合いなら、アタシが知ってておかしくないもん!」
「そ、そう」
キッパリと言い切る和葉の言葉に、圧倒されながらも話の続きを聞いた。


「そん時な…運悪く週刊誌に撮られてん…ほんで今日、それが発売されてん。その本を持って平次に詰め寄ったら…なんて言うたと思う!?」
「なんて言ったの?」

「『うっさいなぁ、ただの就職の相談をされただけや』やて!訳わからんやろ!嘘いうならホンマの事を言うてくれたらええのに!」
「ん?……この子、見た事があるなぁ」
園子は眉を潜ませて悩みながら、しばらく沈黙したした後に大きく目を見開いた。

「…あぁ!東都大教授の娘よ!私、何度か見たことあるし…それに彼女には超イケメンの彼氏いるわよ」
「へっ?」

「その彼と婚約もしてるとも聞いたし…それはないわね、絶対にない」
「あれ?東都大教授って…もしかしてこの前、暴漢に襲われたっていう」
和葉は暴漢に襲われて入院後も、お見舞いの花を何度か送っているので、すぐにその顔が浮かんだ。

「それ!その人よ。でも軽傷で、すぐに復帰してきて難しい講義やってたわよ」
「……ウチで事件追ってたやつやわ」
真実が見えてきたようで、和葉の瞳は明らかに動揺していた。
そんな和葉の肩をポンポンと軽く叩いて、ニッコリと微笑んだ。

「詳しく聞いた方がいいんじゃないの?」
「う、うん。そやね」

その時、部屋をノックする使用人の声がした。

「園子様、玄関に怪しい男の方が、そちらのお客様にお会いしたいと言ってきておりますが、如何致しましょうか?」


「…ナイスタイミングね。和葉ちゃん、彼氏が迎えに来たってさ」
「平次…。ごめん、園子ちゃん。アタシ帰るわ!」
「はいはい」
慌ただしく部屋を出ていく和葉に、園子は軽く手を振って見送った。






2階の大きな窓から、車の助手席に乗り込む彼女をみて、園子は大きなあくびをした。

「なんだかんだ言っても、帰る場所がちゃんとあるんだし……あぁ〜そろそろ寝よっと」




「平次はきっと新一に説教されたに違いない。冤罪でもね(笑)」 by micky