■ 逃げても無駄 ■ by りんねさま


「ゴラァ!和葉っ!!またんかいいいいいいぃっ!!」
「こっちやで、修くんっ!平次の方振り向いたらアカン!!」
逃げる和葉に追う平次。
しかも和葉の右側には見たところ中学生の少年がひとり。
必死に逃げる2人とものすごいスピードで追いかけてくる平次。
事の始まりは2時間前のこの中学生の訪問が原因だった。

「幼いころに出ていった母を探して欲しいんです!!」
開口一番、涙ながらにその中学生の少年はそう訴えた。
「母は俺が3歳の時に、親父の浮気癖が原因で家を出て行ってしもたんです・・。
親父と俺は今でも普通に仲ええんですけど、どうやら俺の知らんとこで密かに母と
ずっと連絡を取り続けていたらしくて・・・どうやら最近、再婚したらしいんですけど
親父に聞いても教えてくれへんし・・・息子として祝ってやりたいんです!
どうか母を探してください!!」
頭を下げる少年。

こんな話を聞いて涙もろい和葉が平然としていられるわけもなく・・・
「・・・ええ話やわぁっ!まかせてっ!!僕、名前はなんて言うん?!」
目じりをハンカチで押えながら少年の名前を聞く和葉。
「宮下修一いいます!東中学校1年生です!!」
ハキハキと答える少年。
「よぉしっ!さっそく探すでっ☆まずは情報収集からや!!
平次っ頼むな!!」
当の探偵の平次にやっとここで話を振る。
が、しかし。

「アカン。」

一刀両断、すっぱりと断られてしまった。

「なんでーー?!平次今までの話聞いてなかったん?!!
修くん可哀そうやん!お母さん探してあげな!!!」
「そうですよ、服部さん!お願いします!!母を探したいんです!!」
二人しての必死のお願いにも・・

「アカンゆーとるやろ。今から探すなんて無理なこっちゃ。
写真だけおいて今日はさっさと帰り。中学生がまだ外出とる時間やないやろ。」
あっさりと冷たく言い放つ平次。
それに対し、和葉は・・・
「まっさかあんたがここまでつっめたい男やと思わんかったわ・・
もうええ!!アタシが修くんのために探したる!!!
平次のアホ!!」
「ほんまですか?!和葉さん!!よろしくお願いしますーー!!」
そういうが早いか、和葉は修一の手を取って事務所から逃げ出した。

「待っ!和葉!!!まだ話は終わってへんのやぞ!?」
慌てて平次が和葉の後ろを追いかける。
こうして、今に至るというわけだ。

「えっとぉ・・・修くん、お母さんの名前なんていうんか知っとる?」
「あっ、えと確か森本冴子やったと思います。」
地道に情報交換をしあう二人。
なんとか平次からいったん逃げ切れたはいいものの、
そう長くここにとどまっているわけにはいかないだろう。

平次のことだ。
和葉をなんとしてでも捕まえにくるに決まってる。

「じゃぁそろそろ行こか。」
そう言って和葉が立ちあがった途端・・・

「・・・ここにおったんかい・・・」
肩で息をしている平次に腕を掴まれた。
「平次!!なんでわかったん・・!」
「お前んことなんぞ全部しっとるわ!
何年一緒におると思っとるんじゃ、ボケ!!」
「せやかて平次修くんのこと協力してくれへんやん!
せやったらアタシがやった方が早い思ててんもん!!」
「やからって逃げるやつがおるか!!お前なん逃げても無駄じゃ!
それにそんガキのかあちゃんもどこにいるかもう検討はついとんのじゃ!」

「「えええっ!?」」
予想外の平次の言葉に驚く2人。
まさかあれだけの話で平次はもう探し出してしまったというのか。

「・・・1週間前にな、そんガキの母親が事務所に息子のことを探してほしいー言うて
訪ねてきてん。森本冴子いう名前やったな、確か。」
修一が息をのむ。
「んで今まで連絡を密かに取りづつけていた元夫に再婚のことを話したら
もう二度と息子には会わんでくれ、言われたいうとった。せやから、
今、息子がどこで何をしとるのかそれだけでいいから調べてくれ言われてなぁ。
さっきそいつが自分の名前口にした時俺は全部わかったっちゅーこっちゃ。」

修一が驚きの表情で聞いてくる。
「やったら・・・やったら今、母ちゃんは・・・・」
「これがお前ん母ちゃんの住所や。
行くのは明日、明るくなってからにしとき。
今ん時間、警察に補導されたらかなわんわ(笑)」
そう言って平次は修一に小さな紙切れを渡した。
「ありがとうっ!!探偵さん!お騒がせしましたっ!!」
元気よく言葉を残して、修一はそのまま去った。

「・・・・ごめんなさい」
修一が帰った後、事務所に戻った和葉が口を開いた。
「まさか平次がそこまで考えてるなんて思ってみいひんかったわ・・
ごめんな?」
やけに素直で可愛い和葉に平次が苦笑しつつ、
額にキスをひとつ落とす。
「もう逃げようなん思うなよ。
今日のはホンマに参ったわぁ・・・。」
「せやけど修くん可愛かってんもん・・・
お母さんのこと一生懸命想っとって・・・
アタシ弟いないから余計可愛くて・・」
「お前小さい頃からガキ好きやったもんなぁ・・・」
ちょっと面白くなさそうに平次が言う。

「よっしゃ、今日はお前んせいで疲れたさかい、
風呂でゆっくり背中でも流してもらおとするか♪」
「えっアタシは遠慮しとくわ・・・」
「何ゆーてんねん。お前は俺と一緒に入るんやで?
さっ、行くでー☆☆」
嫌だと暴れる和葉なんかお構いなしに、平次は
和葉をお風呂場へと連行していく。

―散々心配かけて、追いかけて・・・
責任、取りや?和葉・・・



「追いかけっこする二人を書くのが楽しかったです♪ww」 by りんね