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■ 経費でおとして ■ by micky


まさか、あの別荘が罠(トラップ)やったなんてな。
予想外もええとこや。

まぁでも、事件は無事解決。


今回はかなりヤバい相手やしリスクも高いしちゅう事で、オレ一人でこの事件に臨んだんやけど…。



痛い代償が伴ってしもうた。



「…キッツイなぁ」
目の前には、見事無残に破壊されたバイクが痛々しく横たわっていた。

「修理出したばかりやで…これ」
飛び散って折れたハンドルやナンバープレート、マフラーの破片を片付けながら、横にはいない鬼の形相の和葉を想像してしもうた。

この前の事件でも派手にバイクを壊してしもうて、そのあとに和葉の机の上に黙って修理依頼票を置いといたら、めっさ怒ってたし。






傷がついた腕時計は、もうすぐてっぺんを差そうとていた。

「アイツ…道、間違ってるんちゃうやろな」

事件後に和葉に電話したら、車で迎えに来るってはりきって言うてたけど。

こんな山奥じゃいつ来るかわからへんし、暗い山の中は、夏とはいえまだまだ寒い。


「ハァ~…こんなに待つようならパトカーで戻っとればよかった。…アイツ、方向音痴やさかいなぁ」






「…誰が方向音痴やの?」

後ろから聞こえた静かな怒りの声に、わが目を疑った。

こんな時間に山道を通る車は少ない。
今までこっちへと向かってくる車は全部チェックしていたで?


どこから来たんや、この女。



「どないしたん?そんな眉間にしわ寄せて…事件終わったんちゃうん?」
さっきまでの形相は消え、不安そうな表情でオレの顔を覗き込んだ。

「オマエ…」
「な、なに?」

和葉に一歩近づき、長い髪を触った。

「どうやってここまで来たんや?車はどないしてん?」
「えっ…と。車は…」

ちっさな声で「…ぶつけて、修理出してん」と呟いた。

「はぁ!?ぶつけたってどこでや!…まさか人に」
「ちゃうちゃう。人には当ててへんよ。勿論、アタシも怪我はなし」
大丈夫と言いながら、オレの肩をバシバシと叩いてきおった。

「で…どこでぶつけてん」
「えっと…事務所の壁に。けっこう傷ついてしもうてん」

オレは頭を抱えながら、大きなため息を吐いた。

たいした怪我もしてへんみたいやし、幸い自分の事務所の壁やいうし…それはええけど。



「ほんでバイクに乗って迎えにきたちゅうわけか」
「あれ、なんで分かったん?」

なんでって…オマエの自慢の長い髪が風に巻かれて、手触りがゴワゴワやからや。

でもまぁ、急いで来てくれたからしゃーないけど…。


「その…なんや。オマエが無事でよかっ…」

「あぁぁーーー!!!」

「な、なんや!?」


大声出したかと思えば、オレを力いっぱい突き飛ばして、無残になったバイクの元へと風のような勢いで駆けていった。

「こ…これ。この間修理出した」
「おぅ。犯人にバイク壊されてん。これ経費で落としといてくれ」

「…へ、平次」
「なんや?」

和葉は拳をギュッと握って、下を向いたままゆっくりとオレに方に歩いてきた…と思ったら、急に顔をあげてすごい勢いで睨んできてん。

「か、和葉…どないしてん?」
「平次、実はアホやろ!何台バイクを壊せば気が済むんよ!バイク代だけで依頼料が無くなるどころか、マイナスなんよ!マ・イ・ナ・ス!そこんとこ分かってるん!?」

「分かってる」
「分かってへん!」

しばらく睨み合ったままで、何分かが過ぎた。



先に口を開いたのは和葉だった。

「とにかく経費ではおとしません!」
「はぁ?まだそんな…」

「…せやけど、これで我慢して」
「?」
ポケットからバイクの鍵を取り出して、俺の手の中へと包んだ。




これ…新しいバイクの鍵や。




「この前バイク欲しいって言うてたやん?事務所も無事1年経つし、事件とかでバイクをよく壊すから、予備で一台購入しようって」
「あれは酒の席での話で…」

「せやけど…確かにそう思うもん。平次は車よりもバイクに乗る方が多いし、仕事もバイクでほとんど行ってるし……平次、昔からバイク好きやもん」
「まぁ…せやな」



なんか…経費で落としてって、これからは言い辛いなぁ。

バイクもこれ以上に大事にせなあかんと反省する。

全く、よう出来た相棒や。


「なぁ、平次」
「なんや」


「車の修理代、経費で落としてもええよね」





(終)

「和葉もバイクの免許を持っている未来設定です。2人乗りもいいけど、バイクに乗れる女もかっこいい。事務所には車が1台、バイクが2台。招き猫がお出迎えする入口。そんな雰囲気でお願いします(どんなだ)」 by micky