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■ どこへでも出張します ■ by 月姫 「アタシ、今から休暇取りたいんやけど……」 車を停めて表札を確認した和葉の第一声がソレやった。 1週間前に事務所に届いた手紙での調査依頼を何度かの電話での打ち合わせを経て正式に引き受けて、本日只今助手を連れて依頼人宅へと来たワケやけど、和葉のセリフに思わず頷きそうになってもうた。 『かなりの田舎ですから』と依頼人が言うてた通り、良く言えば自然の溢れた長閑な風景の、悪く言えば世間から打ち捨てられた過疎の集落の、ぽつりぽつりと点在する民家を従えるようにして建っとる大きな屋敷。 間違いなく依頼人の姓が記された表札が掛けられた門も、広い前庭の奥に建っとる平屋造りの日本家屋も、重要文化財クラスに年季が入っとる。 ただ、庭木やら何やら、あんまり手入れは良くなさそうやったが。 まあ、そこまではええ。 掃除はちゃんとされとるみたいやし、過疎の田舎でこれだけ大きな屋敷やと手が回らへんのも仕方ない。 問題は、手入れされずに鬱蒼と繁った庭木が前庭を薄暗くしとって、年代モンの門や屋敷の雰囲気まで暗くしとる事やった。 これで依頼内容が『先代の遺言と遺産分割』関連の調査や言うんやから、舞台設定は完璧や。 「横溝の世界やなぁ……」 「……」 「双子の婆ちゃんが出て来たりしてな」 「……ソレ、一昨日観た深夜映画の話やん」 探偵なんやっとるからか、今更大きな屋敷や旧家に驚いたりって事もそうそうないが、今回は格別や。 「まあ、これも仕事やし、行くで」 「ちゃっちゃと終わらせて、すぐに帰ろ?」 「努力はする」 子供みたいにオレの袖を引っ張る和葉を引き摺って、昼間の今はまだええが夜になったらきっと見事なお化け屋敷になるやろう屋敷の門を潜った。 オレに依頼してきたこの家の主人が紹介してくれた人たちん中に双子の婆ちゃんが居ったのは、神様のイタズラやと思いたい。 |
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「出張先の選択は慎重に」 by 月姫 |
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