俺が今年の春から和葉と共に始めたこの「服部探偵事務所」は、毎日欠かさず依頼人がやってくる。
他の探偵事務所に比べたら、かなりうまくいっとる方や。

せやけど、最近その「繁盛」の意味がズレてきとる気がするのは俺だけやろか。




商売繁盛 ■ by すずさま




今俺は依頼人と向かい合って依頼の相談を受けとる。
なんでも失踪した妻を探してくれっちゅう話や。

その男がポケットから出した写真を、俺がまじまじと見つめとった時。

探偵事務所についとる簡易キッチンから、和葉がお茶を持ってやってきた。
男の前に、ガラスの綺麗なカップに入ったよぉ冷えとる麦茶が置かれる。
ほんで俺の前にも、俺がいつも使っとるコップに麦茶。


その後やねん、問題は・・・。


「はい、これもどうぞ。」


めっちゃ笑顔で和葉から依頼人に差し出されたんは、小皿に入ったたこ焼き3つ。つまようじ付き。
できたてのそれは、ええ匂いプンプンさせて存在を主張しとる。
依頼人は突然出てきたたこ焼きに驚いとったけど、すぐにパクついてうまいうまい言い出した。



和葉がここでたこ焼き出すようになったんは、いつ頃からやったやろか。
1週間くらい俺が依頼でどっか行っとる間にはもうできあがっとった習慣や。
和葉が自宅から勝手に持ってきたたこ焼きプレートは、今や探偵事務所のキッチンになくてはならないアイテムになっとる。

ほんで、最近はこの探偵事務所の窓から香ってくるたこ焼きの匂いで、ここをたこ焼き屋と勘違いして人がぎょ〜さん来る始末やねん。
たいていの人は説明したら帰ってくれるんやけど、そうはいかない人種も中にはおる。

あれや、あれ。
学校帰りのガキ共やねん。


「姉ちゃん〜!!たこ焼き買いに来たったでぇ!」

って来るんや。
毎日毎日、バットぶら下げた野球少年やら、サッカーボール持ったガキ共がなぁ・・・。


「あ〜、あんたらまた来たん?しゃあないなぁ。せやったら、6個で200円やで!」

しかも、和葉はちゃっかり金とっとるし。
こういうとこ、ほんま抜け目ないねん。


ほんで俺が事務所におる時は、そのガキ共は必ず俺に捨て台詞を残していくんや。


「お〜、色グロのおっちゃん!今日はおるんか!暇人やなぁ〜。姉ちゃん見習わんかい。」

ってなぁ。

ほんっま腹立つガキ共やねん。

なんで和葉が姉ちゃんで俺がおっちゃんやねん!
俺がおるからこの事務所が回っとるんや、ボケ!!

とか怒鳴り散らしたいところやねんけど、そら俺も小学生相手に大人げないやろ?
せやから最近はぶすっと黙ってやってんねん。




「ほんま、アットホームな探偵事務所やなぁ・・・。」

依頼人が帰った後、俺はかつて東の親友が居候しとった事務所を揶揄して言ったその言葉を思わずつぶやいとった。
まさか10年後、自分が構えた探偵事務所がこないアットホームなもんになるとは思わへんかったわ。


「なにぶつぶつ言っとるん?平次。」

俺の独り言をしっかり耳に収めた和葉が、キッチンから出てくる。

「あ〜、せやからなぁ・・・」


あきれ顔で振りむいた俺の口に突然放り込まれたのは・・・・先ほどまで俺の頭を悩ませていた和葉特製の大たこ焼き。

「これ、改良版やねんけど。」

たこ焼きの中までしっかりとマヨネーズ風味のそれは、めっちゃ俺の好みやった。


「・・・・・・・・うまい。」
「ほんま!?よかった〜!せやったら、これ食べてまた仕事頑張ってや?」


ほんでまた、間髪入れずに俺の口に運ばれるたこ焼き。和葉の満面の笑顔付き。

この探偵事務所が日に日に小学生のたまり場になろうとも、たこ焼きの材料費がかさもうとも・・・。
もうええ加減にせぇって言えない理由はこれや。

このたこ焼きが俺の元気の源やったりすんねん。

「ま、ええか。今はアットホームでも・・・。」


俺はキッチンに去っていった和葉の後姿を見送って、残りのたこ焼きを一気に平らげた。

「商売繁盛」の理由=和葉特製のたこ焼き
今はこれで勘弁しといたるわ。



「シークレットファイルのコナン・平次VSキッドのお話にあった台詞「ほんまアットホームな探偵事務所やなぁ。」を使わせていただきました。素晴らしいお題に挑戦させていただき、楽しかったです。企画を運営してくださっている月姫さま、yunaさま、mickyさま、phantomさま本当にありがとうございました!!」 by すず