■ 仮眠中 ■ by 月姫


「ただいま」
 
郵便局で色々出すついでにそろそろ足りなくなりそうな事務用品を買って戻ったら、デスクで報告書を作ってた所長がいなくなってた。
事務所のドアの鍵が開けっ放しだから多分上の自宅に行ってるだけなんだろうけど、いくらすぐ傍にいるからって無人の事務所をそのままにしとくなんて無用心すぎる。
 
「もう、事務所留守にするんならちゃんと鍵……」
 
いない誰かさんに小言を言いながら自分のデスクに荷物を置こうとして、来客用のソファからにょっきり生えてる足に気がついた。
 
「平次?」
 
ひょいっと覗き込んでみると、そこにはだらしなく伸びきった平次がいた。
 
暑かったのか3つもボタン外したシャツはよれよれになってるし、一昨日クリーニングから戻って来たばっかりのスーツは皺だらけ、ネクタイは確かしてたはずなのに今はポケットからはみ出してたりする。
色黒でわかりにくいけど、良く見れば目の下にはうっすらとクマが浮いてるし、無精髭も伸びてたり。
 
ここ暫く掛かりっきりだった依頼は平次曰くスピード勝負のもので、昨日までずっと外を飛び回ってた。
それもやっと報告書を作るトコまで来て、一段落したと思ったら疲れが一気に出て急に眠気に誘われたってトコかな?
アタシは平次が適当に休ませてくれてたから、肌荒れもしないで結構元気なんだけど。
 
「まるで毛利のオッチャンみたいやで」
 
こっそりと呟いて、くすりと笑った。
 
メディアに取り上げられる時の『名探偵』からは想像出来ないこんなだらけきった姿を見たら、今でも時々依頼状に混じって届くファンレターの差出人たちはきっと、イメージが崩れたと言って嘆くだろうな。
こんな姿も平次なんだけどね。
 
「すぐ上が自分の部屋なんやし、ここにやってベッドあるんやから、そっちで寝たらええのに。これやったら、折角奥に仮眠室作った意味ないやん」
 
ちょっと苦笑して、クーラー対策で常備してある膝掛けを、寝てる平次のお腹に掛ける。
寒くないって言うかちょっと蒸してきてるから、奥からブランケット出して来る程じゃないと思うけど、やっぱりそのまま放置も何だもんね。
 
「お疲れ様」
 
 

「お疲れの名探偵」 by 月姫