■ 探偵の王子様 ■ by yuna


授業が終わって急いで帰り支度。
帰宅部の私は、今日も速攻駅へと向かった。

周りの友達も、呆れるぐらい。
でもそんな目はムシムシ。
私は天王寺行きの普通電車に飛び乗ると。
高鳴る胸を、学生カバンで必死に押さえつけた。


確かに今までの私は、彼氏をとっかえひっかえ気の向くまま。
いわゆる、『遊び』 ってやつ?
男なんて、ちょっと色目をつかったらホイホイ寄ってきたんやから。

人より少しだけ、目立つこの容姿。
それが、自慢の武器。
だから私に近寄る男は、みんな重要なのは外見だけ。

誰も私の中身なんて見ようともしない。
男だってそう。
見た目だけカッコよくても、きっと中身はみんなそんなもの。
今までは、そう思っていた。




でも……。
今のこの気持ちは、いったい何なんだろう?

私に、こんな感情があるなんて自分でも気付かなかった。
思い出すだけで、嬉しくなるとか。
遠くから見つめるだけで、幸せだとか。
目が合っただけで、心を震わせるだとか……。

こんな気持ち、私は知らない。



中央出口から、公園へと向かう。
目指すは、いざ新世界。

本当はああいうとこ、若い女の子が1人で行ったらアカン場所なんやろうけど。
でも、誘惑には勝てない。
心が、彼に会いたいと叫ぶんやから。


「いた!」

スパワールドを左手に、ジャンジャン横丁を歩いていたら。
見つけた。
アタシの王子様。その名も「名探偵・服部平次」

名前もつい先日知ったばかり。
もちろん、話などしたこともない。
運のいい日は、こうしてこの街を歩く姿が見れるだけ。

たまに目が合ったような気もするけど。
もちろん声をかけたことはない。
っていうか、恥ずかしくてかけられなかった。

真正面をじっと見据えて、キリリとした表情。
ほんま、いつ見ても素敵。

私は足早に通り過ぎる彼を、こっそり尾行するように。
駆け足で、その後を追いかけていった。




でも……あっ!

今日はひとりやない?!
隣には、髪の長い綺麗な女の人。

その人は、彼がちょうど角を曲がろうとしたとき、スーパーの袋を手に偶然鉢合わせになった。


「今帰り? お疲れさん、平次」
「おう、……で、今日の夕飯はいったい何やねん」
「大根が特売やったから、ブリと炊いたんにしようか思て」
「おっ、ええのう」


彼女……?
それとも、奥さん?

彼を特集してた雑誌には、確か独身って書いてあったはず。
だったらきっと……。
2人の仲睦まじい様を目の当たりにして、私は涙がこぼれそうになった。



だけど。

彼女といるときの彼。とっても優しい目をしてるね。
そして歩くスピードも、彼女に会って緩やかに変わったのが分かった。

(合わせとるんやね……きっと)

意外な一面を垣間見て、胸がちくちくと痛む。
あまりにも2人並んでいる姿が自然すぎて、私は追いかけるのをやめその場に立ち止まった。




好きや。
やっぱり好き。

今まで出会った、誰よりもずっと。


彼のことはメディア以外、何にも知らない私だけど。
さっきの彼を見て。
彼女さんを大切にしている彼を見て。

さらに、この想いは募った。





『王子様へ。

今度はちゃんと恋をするね。
妥協ばかりして、後ろ向きだった自分にサヨナラして。

だから。
もう少しだけ、好きでいさせてください。

私の王子様。
こんな気持ち教えてくれて、本当にありがとう』




私は、目尻に滲む涙をグイッと拭き取ると。
通天閣に背を向け、駅へと歩き出した。



「平次の女子高生隠れファンの独白(笑)平次のことを『王子様』扱いする、ちょっと痛い子です」 by yuna