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■ 弟子入り志願 ■ by yuna 「なぁ、ええやろ平次?」 「呼び捨てにすな」 「ほんなら、所長!」 「お前に所長いわれる筋合いないわっ」 「イケズやなぁ〜相変わらず、そんなんやから和葉に愛想つかされんねん」 「――あっ?!アホいうな!何でオレが和葉に愛想つかれなアカンねん!……っちゅうか、お前のそのおっさん臭い喋り方やめんかい!」 ここは、関西でも有名な服部探偵事務所の一室。 そこには浪速の色男で名をはす、ここの主の服部平次と。 なぜかランドセルを背負った男の子が対峙していた。 この男の子。 名を”永吉”と言い、平次行きつけのホルモン焼き屋の1人息子。 近所の顔なじみということもあり、平次も和葉もしょっちゅう遊んであげていたのだが。 最近、『オレを平次の助手にしてくれ!』 と言い出し、平次は少し困っていた。 危険な仕事やから。とか、もっと大きくなってから。と何度も忠告してはいるのだが。 一度、この通天閣がある新世界で起きた凶悪事件を平次が見事に解決したのを目の当たりにして。 ”いつか自分も!” と、強い憧れを持ってしまったらしい。 それ以来、こうして学校帰り毎日ここに通っている。 「聞き込みかて難しい時あるやろ? オレ、平次の子供っちゅうて三文芝居売ったってもええで。ほら、子供連れやと怪しまれんって相場は決まっとるし」 「……ったく、どこでそんな言葉覚えてくるんやら」 「しゃーないやん、オレんちホルモン屋やで? おっさんの客相手にしとったら、嫌でもこういう口調になってもうたんや」 なんだかなぁ……。 軽い脱力感を覚え、平次はため息を付いた。 (遊んだり過ぎたかな?) 母親がいないため、昔から優しい和葉によく懐いていた永吉。 今年から小学生になって友達も増え、最近はここに来ることも少なくなっていたというのに。 (しゃーないのう……) 「ホンマに、何でもやるか?」 「やるっ!!オレ、尾行でも聞き込みでも何でも頑張るから!」 憧れの探偵助手が出来る。 もう、まるで自分が平次のようにカッコよく捜査に加われると。 永吉はランドセルを放り投げ、飛び上がり喜んだ。 「ほな、さっそく簡単な依頼を調査してきてもらおか」 「えっ、もうオレ何か仕事できるんか?!」 「せや、オレ時間ないからどうしょうかと思とったんやけど。ちょうどよかったわ」 そして平次はペンを取り、何かさらさらと紙に書き出していった。 「ここに書いてある”ネコ”を探してきてくれ」 「ネコ?」 紙にはネコの特徴を、永吉にも読めるよう平仮名で書いてある。 「白くて青い鈴つけたネコ?」 「ああ、……せやなー今頃やったら公園におるかもしれへんなぁ」 「おる場所わかっとるのに、その人何で依頼なんか……」 「そいつ、家出したら連れ戻すの難しいらしいんや。 断ろうか思たんやけど、お得意さんやから無視できへんし」 「分かった! ほんならオレひとっ走り行って、そいつ捕まえてきたるわ」 「頼んだで」 平次がニヤリと笑ったのに気付かず、元気よく事務所を飛び出す永吉。 窓からその走りゆく姿を眺めながら。 「イヤ、言うても引っ張ってこいよ……」 平次は意味深な顔で、そう呟いた。 「白いネコ……青い鈴つけたネコ……」 公園に着いて1時間、永吉は草陰や木の上をくまなく探していた。 「ホンマにここにおるんか? どっこにもおらんやんけ」 もうすぐ、日も暮れようとする時間。 お腹空いたなー。 何だか急に不安になって、永吉は力なくトボトボと歩いていた。 でも、諦める訳にはいかない。 もうすぐ平次みたいになる、という夢がかなうのだから。 これは憧れではなく、もう目標なんだ。 だってオレ、今日から探偵助手なんだもん。 そう思い永吉は走り出すと、再びネコを探し始めた。 すると、向こうのベンチに見慣れた人影が……。 「……か、かずは?」 「えっ?永ちゃん?」 そこには、泣きつかれて目を真っ赤にした和葉がいた。 「どうしたんや?!何かあったんか?」 「……」 「黙っとったら分からへんやんけ!オレに言うてみ?ちゃんと解決したるさかい」 「解決……って……」 「オレ、今日から平次の助手することになったんや!……っちゅうても、まだ試験中なんやけど」 「助手?平次の?試験ってなんなん?」 「ネコ探し。 見つけて帰ったら助手にしてくれるんや」 平次の行動が分からず、首を捻る和葉。 そんな和葉を見て先程の光景を思い出した永吉は、隣にちょこんと座りその顔を覗き込んだ。 「それよりホンマにどないしてん? めっちゃ目赤いで?」 「う、うん……ちょっとな、」 「誰かに虐められたんか?オレ、シバイてきたるで?」 「あはは。ほなシバイてきてもらおうかな、永ちゃんの上司やけど」 ホンマ、どーしょーもないヤツなんやから。 そう言って、和葉はグイっと涙を拭った。 「平次に虐められたん?」 「うーん…虐められたいうか、虐めたいうか…」 「?」 「あぁっ、分からんでええよっ。 そ、それより…どんなネコ探しにきたん?アタシも手伝うで」 なぜか真っ赤になって焦りだす和葉。 どうしたんやろ? 永吉は不思議に思ったが、和葉がしたネコの話題に自分の使命を思い出し、慌てて平次に渡された紙を和葉に見せた。 「白くて青い鈴つけたネコ……」 そこで、和葉はふと気付く。 (アタシの首についとるチョーカー、……青やん……) 「せや、どっこ探しても見つからへんねん。 それに、この1番下に書いとるちっこい字。オレ漢字ばっかりで読まれへんのや」 永吉はその字を指差すと、和葉の顔色がみるみる変わりだすのが分かった。 『我坏 ![]() 「何て書いとるん、和葉?」 「永ちゃん……そろそろ暗うなってきたし、帰ろっか」 「でも、オレまだネコを」 「大丈夫や」 明日から一緒に助手頑張ろな! なぜか自信有り気に、笑顔を浮かべ和葉はそう言った。 さっきまで、半べそをかいていたはずやのに。 「う、うん……」 依頼を解決出来なくて複雑な永吉だったが、和葉の嬉しそうな顔を見ていると自分も何だか嬉しい。 ま、いっか。 周りを見るとダンボールを持ったおっちゃん達がベンチに向かってやってくるし、なによりお腹も空いた。 永吉は大好きな和葉の手を取り、ギュッと握りしめると。 2人並んで、通天閣のある事務所に歩いて行った。 しかし、永吉の心配を他所に。 和葉と帰還した永吉に、平次は終始ご満悦で。 ネコを探さなかったにも関わらず、平次は明日から見習いとして来いと永吉に言った。 「ほな今日はお疲れさん。 お父ちゃんによろしゅうな」 「永ちゃん、バイバイ」 何だかよく分からないけど……。 明日は平次の好きなテッチャンでも手土産に来ようかな。 改めて。助手の仕事頑張らなくちゃ! そう思う、永吉であった。 〜おまけ〜 「あのネコ、アタシのことやろ?」 「よう分かったな」 「……ったく、永ちゃん使って連れ戻そうなん卑怯やで」 「せやけどお前、戻ってきたやないか」 「 ![]() 「……へいじ」 「我坏(オレが悪かったから)」 「アタシの方こそ……ごめん」 「ほな、今日はええか?」 「……うん」 昨夜、寝ている和葉を無理に起こして事に運ぼうとした平次。 それに腹を立てた和葉とケンカになって、和葉に事務所を飛び出されてしまった。 ……なんて。 「永吉には言われへんなぁ……絶対」 おわり |
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「平次も和葉も、子供にはめっちゃ好かれそうですよね」 by yuna |
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