「 華月が冬樹を怖がる理由 」 |
「冬樹〜〜〜〜〜〜〜!!」 華月は冬樹を見つけるなり、手を振りながら駆け寄った。 「なぁなぁ、聞いてぇや!うちな、昇進試験受かったんや!」 冬樹の腕を両手で揺すりながら、 「明日から巡査部長なんやで!」 と嬉そうに大ハシャギだ。 「おめでとう華月。がんばったかいがあったね。」 冬樹は華月の頭をいい子いい子している。 「もう、子供扱いせんといて〜や。」 「いいじゃんかこんくらい。」 まだ、よしよししている。 「あ・か・ん!」 「何で?」 ほっぺをぷっくり膨らませて上目使いに睨んでいる華月。 それなのに、冬樹は涼しい眼で見返している。 「「 ぷっ! 」」 お互いに小さく噴出して、 「じゃぁさ、今日は華月の昇進祝いだからぱぁ〜と美味しい物でも食べに行きますか!」 「やった〜!!冬樹のオゴリやね!」 と腕を組んで歩き出した。 「うん?・・・・・オレん家は会計一つのはずだよなぁ?」 「そやで。やから、今日は冬樹のお小遣いから出してくれるんやろ?」 「・・・・・・・・。ファミレスでいい?」 「あ〜〜か〜〜ん〜〜〜!!!」 冬樹と華月はもちろん夫婦。 2人は結婚して、冬樹の移動先である横浜に新居を構えていた。 新居と言っても転勤族である冬樹だから。もちろんマンションだけど。 華月も冬樹に付いていく為に、国家公務員試験を受けて合格していたのだ。 だから、巡査部長に昇進したのである。 平次や和葉たちは、華月が冬樹に付いて行くのを嫌がって結婚もなかなか承諾しなかったと思っているようだが、本当はただの主婦になりたくなかっただけなのである。 華月は自分も冬樹と同じ、警察官をずっと続けたかったのだ。平次と和葉のように。 2人は華月オススメのとっても豪華な食事をして、部屋に戻っていた。 冬樹はお財布がとても軽くなったのだろう、 「あの〜〜・・・・・・今月まだ半分以上残ってるんだけど・・・・・・・。」 「それがどしたん?」 逆さに振ってみせているのに華月は素知らぬ顔。 「華月ちゃん・・・・・。」 冬樹は悲しそうに華月を見るが・・・・、 「あっ!そやっ!」 と当の華月は次の話題へ。 「うちな、刑事課に移動になるんやったわ!」 Tシャツに短パンでストレッチをしていた姿勢のまま、両手をポンッ! 寝る前の小運動は美容に欠かせないらしい。 「いつから?」 「え〜〜と・・・・・・7日言うてたかなぁ?」 「華月・・・それ明日なんだけど・・・。」 「えっ?そうなん?!」 慌ててカレンダーを確認する。 「ほんまや・・・・・。」 「随分急な移動だな?」 「そうやねん。何でも刑事課の警部補はんが女性捜査員欲しがってたんやて。」 冬樹はちょっと考えて、 「それ誰か聞いてるか?」 と聞いてみた。 「え〜とぉ〜、確か芹沢警部補やったと思うけど?」 「・・・・・・。」 すると冬樹は急に不機嫌そうに、ソファーに両手を広げて凭れ掛かった。 「どしたん・・・冬樹?」 「・・・・・・。」 華月はいきなり押し黙ってしまった冬樹の顔を、不思議そうに逆さに真上から見下ろした。 真っ直ぐな瞳で冬樹の目を見ている。 「・・・・・・。その眼で他のヤツを見詰めるなよ・・・・・・。」 華月の顔に?が。 「・・・・・・はぁ。」 冬樹は小さく溜息を零した。 前に平次が”和葉んヤツあの無意味にお〜きな眼ぇで、他ん男を見詰めるんやから堪らんわ”と言っていたのを思い出していたのだ。 しかも、”無意識なんやからよけ〜性質が悪いで”とも言っていたなと。 確かに、和葉のあの吸い込まれそうな瞳で見詰められると、その気が無い男でもその気させてしまうだろう。 そして、それは華月にも当て嵌まるコトだと冬樹は思っている。 華月の相手を射る様な眼差しは、男をその気にさせる。 その強気な瞳は、男の加虐心を煽るのだ。 また、華月も無意識だから困ったモノだと。 「芹沢には近付くな。」 「何でなん?」 「どうしても。」 「そっ・・・・んんっ・・・・・・。」 冬樹は右手で覗き込んでいる華月の頭を捕まえて、いつもより強引なキスをした。 冬樹は芹沢警部補に良い印象を持ってはいない。 むしろ、悪印象しかないと言った方が正しいだろう。 3才も年下の冬樹が自分より階級が上で、しかも捜査の陣頭指揮をとっていたのが気に入らないのだろう、何かにつけて冬樹にツッカカッテきた。 しかも、芹沢はそれなりに良い男ではあったが冬樹程では無い。 県警から所轄署に赴いた冬樹を見て、女性陣が大騒ぎをしたのも余計癪に障ったのだろう。 捜査が終わるまで、冬樹のやり方に文句ばかり付けてきたのだ。 そんな芹沢が華月を放っておくとは、冬樹にはとても思えなかった。 案の定、芹沢は指導係と称し、華月を自分のパートナーにしてしまった。 朝から晩まで華月を自分の側に置き、挙句には、食事にまで付いてくるしまつ。 華月も初めのうちは初めての刑事としての仕事に一生懸命で、そんな芹沢を余り気に留めることもなかったが、流石に1ヶ月が過ぎてもその状況が変わらないのには嫌気が指してきたようだった。 それに、芹沢の刑事としてのやり方にも疑問があるらしい。 華月自身は刑事の経験が無くても、冬樹や平次に和葉、はたまた大阪府警や京都府警のすぐれた刑事たちを多く見て来ているのだ、芹沢のなんとも傍若無人なやり方が受け入れられる訳が無い。 程なくして、華月は芹沢に意見するようになっていた。 だが冬樹はそんな華月に、 「あまり芹沢に逆らうなよ。」 と苦言を呈した。 華月としては冬樹のその言葉は受け入れられるはずがない。 当然、冬樹は自分の味方に付いてくれると思っていたのだから。 「何でそんなこと言うんよ!冬樹かてあの男のやり方はおかしいぃて言うてたやないのっ!!」 「確かに言ったさ。だけど今芹沢が華月の上司であることは事実だろ。」 「それは・・・そやけど・・・。やからって、あのやり方は絶対にちゃうって!!」 華月は冬樹に分かって欲しくて、必死に言い募る。 「華月の言いたい事位分かる。それでも、今はアイツの言うとを黙って聞いてろ。」 だが、冬樹の意見は変わらない。 「絶対にいやや!!」 「華月・・・・・・あんまりあの男を舐めない方がいい。」 「何やのそれ!!うちがあの男に劣るって言うん!!」 「そうは言ってないだろう!ただ・・・。」 「もうええっ!!冬樹なんか知らん!!」 華月は大声でそう言い残すと、電話を切ってしまった。 冬樹は通話の切れた携帯をしばらく眺めていたが、 「ちっ・・・。」 小さく舌を鳴らすと、近くにあった椅子を蹴り飛ばした。 普段、そんな行動をとることの無い彼だから、周りの人間がびっくりしている。 いつもならその場の雰囲気を壊さないのに、今日はとてもそんな気分にはなれないようだ。 冬樹は、そのまま屋上に上がって来ていた。 冬樹自身、華月の言いたい事はよく分かっている。 そして、それが正しいことも。 華月の性格からして、あんな言い方をすればこうなることも分かってはいたのだ。 「オレもまだまだだなぁ・・・・。」 華月相手だとどうしても冷静になれない自分に、苦笑が漏れる。 他の人間相手に、そんなミスはまず犯さないのに。 特にあの芹沢という男、冬樹からしたら虫唾が走る程嫌いなタイプだ。 ネチネチといつまでも根に持ち、鼻持ちならない傲慢な態度。 そんな男のプライドを冬樹が傷付けたのだ、仕返しを考えていないはずがない。 華月を自分の側に置いたのも、きっと冬樹への嫌がらせだろう。 華月が冬樹の妻であることは知っているだろうし、何より大切にしてることも分かっていてやっているのだ。 そんな華月が、さらに芹沢に逆らったらどうなるか。 冬樹でなくとも分かるというものだ。 いくら立場的に上にいたとしても、所轄の人事にまでは口が出せない。 ここはとにかく華月に、大人しくしていてもらうより他に手はなかった。 その日、冬樹は大きな事件も無かったので、いつもより早く仕事を切り上げて帰宅していた。 それなのに、華月がいつまでたっても帰って来ない。 何度か携帯に連絡を入れてみるも、電源を落としているのか繋がらない。 今日は華月の当直日では無いし、事件を追っているふうな連絡も受けてはいない。 イライラしながらも待つことしか出来ない。 下手に飛び出して行って、華月と入れ違うのも嫌だ。 冬樹は必死に自分を落ち付かせながらも、爪が手に食い込むほど握り締めてただ華月が帰って来るのを待った。 時計の針が午前1時を示すころ、やっと華月が帰って来た。 しかもこんな時間に乱暴にドアを閉めたかと思うと、洗面台に直行し何度も何度もうがいしたり口の周りを洗っている。 「華月!!」 冬樹が呼び掛けるも返事もせずに。 今度は濡れたタイルで首を血が滲む程、擦り始めた。 「止めるんだ華月っ!!」 冬樹が華月の両腕を摘んで壁に押さえつけると、やっと華月は動かなくなった。 顔は下に向けたままで。 「何があったんだ?!あいつに何かされたのか?!!」 唇をキツク噛み締めたまま何も答え無い。 「 華月!!! 」 体が強張ってしまう程の大声で怒鳴られて、やっと華月はポツポツと話し始めた。 華月の話を要約すると以下のような内容だった。 冬樹との電話を切ったあと、華月は聞き込みに行くと言う芹沢に同行していた。 聞き込みと言っても、行く先々で知り合いの女性と親しげに話しをし、これまた知り合いの女の店で食事をしてはお金も払わずに帰る始末で、とうとう我慢の限界に達した華月は芹沢にはっきりと自分の意見を述べたのだった。 この時点で、午後8時は過ぎていた。 しかも場所が繁華街だった為に、芹沢がゆっくり話しが出来る場所に行こうと言い出した。 華月も今日こそは、思っていることを全部言ってやろうとその意見に同意してしまったのだ。 それから芹沢の車で、向ったのが人気の無い湾岸道路沿いの駐車場だった。 芹沢が車を止めるなり華月は、一気にぶちまけた。 当の芹沢はタバコを燻らしながら、ただ黙って聞いている。 一頻り言い切って黙った華月にやっと視線を向ける。 そんな芹沢を華月は、例の冬樹が危惧している視線で睨み付けていた。 ふっと口元に厭らしい笑みを浮かべると、持っていたタバコを外に捨て、いきなり華月のシートを倒し抑え付けたのだ。 「ゾクゾクするねぇその眼、誘ってんだろ?」 そして無理矢理華月に口付けして来た。 必死に暴れるも、男の力で押さえつけられた上、狭い車内では思う様に身動きも取れない。 芹沢はそんな華月の様子を楽しむみたいに、さらに無理矢理舌を押し入れていく。 その舌を噛もうとするが、上手く逃げられてそうもいかない。 「久保なんか捨てて、オレの女になれよ。いい思いさせてやるぜ。くく・・・・。」 華月の全身に鳥肌が立った。 さらに芹沢は華月の首筋に舌を這わし、吸い上げる。 想像を絶する嫌悪感に本当に吐き気がする。 冬樹以外の男に触れられるなど、認められる訳がなかった。 華月の中に絶望が沸き始めたとき、駐車場に車が入って来た。 その車のライトに芹沢が一瞬華月から体を離した瞬間を見逃さなかった。 華月は軍神の力を込めて芹沢を蹴り飛ばし、車外に飛び出したのだ。 後はもう振り返りもせずに、その場を逃げ出して来たのである。 話し終わった華月は、ぽろぽろと涙を流し始めた。 「いやや・・・・いやや・・・・・気持ち悪い・・・・・・・。」 華月は、ただただそればかりを繰り返す。 余程、今回のことがショックだったのだろう。 冬樹はそんな華月を今度は優しく抱きしめて、 「大丈夫。もう大丈夫だから・・・・。」 と落ちつくまで囁いていた。 もちろん芹沢への怒りは限界を超えているが、今は表に出さない。 そんなことより、華月の方が比べ物にならないくらい大切だから。 そして、 「気持ちが悪いのを直してあげるよ。」 と深く深くキスをする。 首筋へも消毒の意味を込めたキスを落とす。 「ごめんな・・・・・冬樹・・・・・・・。」 まだ涙が残っている瞳で冬樹を見上げる。 「まったくだよ華月。これにこりて少しは聞き分けのいい子になってほしいもんだね。」 すると、 「うち子供とちゃう・・・・。」 と口をへの字にする。 冬樹にだけ見せる可愛らしく拗ねた顔。 冬樹は困った様に笑って、 「だったら華月ちゃんにはお勉強が必要だ。」 と華月を抱きかかえてベットまで運び、その上にポンッと落とした。 「いい子で待ってろよ。」 そう言うと部屋を出て行ったがすぐに戻って来て、唖然としている華月を余所にあることを始めた。 それは手錠で華月の両手をベッドの飾りであるパイプに繋ぐこと。 左手には冬樹の黒の手錠、右手には華月の銀の手錠。 もちろん、どちらも、2人が普段仕事がら持ち歩いている本物。 「ちょ・・・ちょっと冬樹・・・・・・何してんの?」 「これから冬樹先生による、華月ちゃんへの特別授業が始まるんだよ。」 オドケテとても楽しそうに答える冬樹。 「ええ〜〜〜〜〜〜?!!」 華月は「外せ〜〜〜〜〜!!」と暴れるけど、冬樹は無視。 「では、1日目最初の授業は・・・・・・・。」 心底楽しげに授業はじめた冬樹先生に、体でしっかりと教え込まれるはめになった華月ちゃん。 この特別授業は、みっちりと朝まで続いたらしい。 しかも、冬樹が”1日目”と言っていたように、それからしばらくは続いたそうです。 華月ちゃんが泣いてお休みを乞うほどに。 ちなみに芹沢は、捜査協力と名をうった冬樹の雑用に1人きりでこき使われ、挙句にすべての女から振られたらしい。 冬樹がその気になれば、芹沢を相手にする女くらい簡単に落とせるのだ。 しかも、ちょっと微笑んで優しい言葉をかける程度で。 その後、自暴自棄になった彼は無断欠勤を何度も取ったが為に、田舎の警察署に飛ばされたのでした。 ちゃんちゃん。 *警察官は基本的には地方公務員なので、他県への移動は国家公務員であるキャリアか準キャリア組以外ありえない。 ましてや、夫婦で同じ県への移動もまずありえない。 その他にも今回は見逃して〜的要素がちらほらと、創作話の中の架空設定なので許してちょ。 |