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今月入って1回目の約束がドタキャン。 2回目の約束が前日キャンセル。 3回目の約束が会うてすぐに事件。そのまま行ってもうて、それっきり。 ほんで今日が、そのお詫び言うて”飯食べ行くで”言うたのは平次。 それやのに、来ぃへん。 すでに待ち合わせの時間から、2時間は過ぎとる。 あたしかて我慢の限界いうんはあるんやで。 携帯の電源落として、人の流れに身を任せた。 特に目的があるわけでも無く、ただ、お店のウィンドウを眺めながらとぼとぼ歩くいう感じや。 ガラスに映った姿は、まるで振られた女みたいやった。 ・・・・・・・・さして変わらへんかな・・・・・・・・・・むしろそれより悪いんちゃう。 忘れられた女なんやから・・・・。 平次は、1に事件で2にも事件、3も4も事件で5も事件や。 あたしなん何番目なんやろ・・・。 そもそも、どっかに入ってるんやろか? やって、事件の次は工藤くんやろ、その次は多分剣道や、そんで次がバイク。 やっぱ、あたしはどこにも入ってへんわ。 それやったら忘れられて当然や・・・・・・あたしは平次の興味外なんやから。 ・・・・・・・・・・このまま・・・・・・・・・・・あたしがおらんようになっても・・・・・・・・・・・・・・。 ふと、そんな考えが浮かんでしもた。 平次はあたしがおらへんことにすら気がつかんかもしれん。 「はぁ・・・・・・それありえるわ・・・・・・。」 あんまりにありそうで、声に出してしもた。 幼馴染いうだけで、一緒におれる有効期限はとっくに切れてるんや。 それをあたしが無理矢理、気付かん振りしてただけ。 もしかしたら平次はそれを、あたしに気付かせようとしてるんかもしれん。 そう思たら、急に涙が溢れてきそうになってしもた。 こんなところで泣かれへん。 こんな人がぎょうさんいてる前で泣かれへん。 そんな惨めな女になりとうない。 あたしは近くにあった映画館に、逃げ込むように入ってしもた。 もちろん映画なんか観れるわけあらへん。 誰にも気付かれへんように、声を殺して泣き続けた。 バイバイ。平次。 前に一度だけ、本気で言うたことがある詞。 バイバイ。 ほんまに、さよならするつもりで言うた詞。 バイバイ。 今度も、あの時みたいに笑顔で言えるやろか。 「バイバイ。平次。」 口の中で何度も呪文のように唱えてみる。 繰り返し、繰り返し。 平次がそれを望むなら、あたしはきっと笑顔で言えるはずや。 映画が終り外に出たときは、すっかり日は暮れとった。 結局、どこにも行くあてなどないあたしは、また、とぼとぼと家に帰るだけ。 家ん近くで夜空を見上げたら、お月さんが綺麗やった。 三日月はどこか淋しげやけど、笑うとるようにも見えるから不思議やな。 やから、最後の練習をしてみる。 笑うてるお月さんに微笑み返して、 「さよならやね。バイバイ。平次。」 と独り言。 「な〜に笑顔で恐ろしい事言うとんねん。」 「えっ・・・・。」 独り言に返事が返ってきてもうた。 声がする方へ、慌てて振り返ったらやっぱり平次やった。 「お前また何かいらんこと考えとんのとちゃうかぁ?」 「・・・・・・・。」 「お前がそんな顔して、そんなこと言うときは決まってむちゃしよるからなぁ。」 「・・・・・・・。」 「いらんこと考えとらんと。俺の側におったらええやんか。」 「平次・・・。」 さっきあんなに練習したんに。 さっきあんなに泣いたんに。 平次の顔見たら、平次の声聞いたら、あかんわ。 また泣き出したあたしを、平次はそっと抱きしめてくれた。 「すまんかった和葉。」 そんな優しい声で謝らんといてや。 あたしまた平次の側から、離れられへんようになってまうやん。 「和葉に”バイバイ”言われるんは、二度とごめんやで。」 あたしを抱きしめてくれてる腕が、少しキツクなった。 「あんな思いするんも、二度といやや。」 それって・・・・・。 「やったら・・・・・やったら・・・・・・あたしを1人にせんといて・・・・・・。」 1人になったら、またいらんこと考えてまう。 1人になったら、また淋しゅうなってまう。 「やから、さっきから俺の側から離れるなっちゅうて言うてるやろが。」 平次の声が体から直接響いて来るみたいや。 この腕から離れへんでもええんよね。 平次とバイバイせぇへんでもええんよね。 今月4回目の約束は大遅刻して来た平次が、一生の約束をくれた。 あたしは平次の1番でも2番でもなくて、特別になった。 やから。 バイバイ。ひとりぼっちのあたし。 |