2人の傷跡 ・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・またや。 平次があたしのこと思い出してからは、時々こんなふうに人間界に引っ張られてまう。 魔族は人間からの呼び出しに、答えて現れることもあるからや。 しかも、平次はあたしが教えてへんのにどうやって調べたんか、魔族の正式な呼び出し方まで知っとる。 ・・・・・・・やけど、あれは止めさせな。間違うてベルゼブブなん呼び出したら最悪や。 平次はあたしの気持ちなんお構い無しに、何度もあたしを呼び出す。 あたしは抗うことも出来るんやけど、それをすると違う魔族が現れてまうから。 そやけど・・・・・・・・んっ。 あたしの思考は中断された。 それは周りの闇が急にざわめき出したからや。 彼女が来る。 あたしはその場に立ち上がって、夜空から舞い降りて来る彼女を迎えた。 「お久しぶりでございます。光統天使アクラシエル様。」 真っ白な翼を持った彼女は、音も無くあたしの前に降り立った。 彼女の放つ光の強さに、周りの闇は悲鳴を上げ、あたしの闇は一層深さを増す。 「こちらこそ、お待たせして申し訳ありません。魔界貴族アスタロト伯爵カーミラ様。」 お互いに重々しい挨拶を交わした後に、同時に噴出してしもた。 「あっあかん・・・・やっぱ、慣れへんわ〜これ。」 「ほんとね。」 上級天使と魔界貴族。 光を司る者と闇を司る者。 人間から見たら有り得へん組み合わせやけど、実際、天使と悪魔はそう仲が悪いわけやない。 どっちも、ただ自分らの役割を果してるだけや。 「お互いこのままだと話しずらいから、人間の姿にならない?」 「そやね。」 いくら人間から見えへんいうても、平次ん家の屋根の上に上級天使と魔界貴族がそのままおったらお互いの力が反発しおうて、いつ周りの物を破壊してまうかもしれへん。 やからって、人間の姿で屋根の上いうのもあれやけど。 まぁ、人間には見えへんのやしええかな・・・。 「和葉ちゃんって呼んでいい?」 「ええよ。ほな、あたしは蘭ちゃんでええ?」 「うん。何か変な会話だね。」 「ほんまや。人ん家の屋根の上でする会話やないね。」 お互いまた笑ってから、蘭ちゃんが今日あたしに会いにきた理由を話し始めたんや。 「和葉ちゃん、服部くんと契約するの?」 「もう、知ってるんや。」 「だって、魔界貴族が人間と契約するなんてありえないもの。しかも、和葉ちゃんのお母さんは・・・・・・・・ごっごめんなさい。」 「気にせんでええよ。お母ちゃんは、お父ちゃんと契約せぇへんかったから消えてしもたんやもん。」 「どう・・・・するの?」 「契約は・・・・・・・せぇへん・・・・・・。もう一度、平次の記憶を・・・。」 「和葉ちゃん!」 蘭ちゃんがあたしの言葉を遮った。 「和葉ちゃんは、あたしがどうやって新一の側にいるか知ってるよね?」 「蘭ちゃん・・・・。」 「ねっ?」 「子供の工藤くんを好きになって、天界の禁忌を犯してまで、毛利蘭いう架空の人間を作った・・・・。」 「そう、だから、私は天界には帰れない。でも、人間界での光統天使としての役割は果してるのよ。」 「・・・・・・・・・・・。」 「和葉ちゃんも私と同じ・・・ううん、服部くんとちゃんと契約すれば、和葉ちゃんは禁忌を犯すことなく彼の側にいられるじゃない。」 「・・・・・・・・・・・そんなこと・・・・・・・。」 「服部くんの光が曇ることを心配してるの?」 あたしは蘭ちゃんの顔を見返してしもた。 「そうなのね。だったら安心して。彼の光は私が天使としての責任を持って守るから。」 「蘭ちゃん・・・・。」 「その代り、お願いがあるの。」 蘭ちゃんが何を言いたいんか、分かってもうた。 「工藤くんやろ。」 「そう。新一。」 「工藤くんの闇が広がるのをあたしに抑えて欲しい言うんや。」 「新一はもともと闇の属性を強く持ってたの。だから、私はそれをなんとかしたくて側でずっと抑えてきたんだけど、もう私の力では限界なの。新一が人間の醜い場面に接する度に闇は広がる一方で、このままだと・・・・。」 人間の闇は魔族と違ごうて歪んだ形をとることが多い。 魔族の闇は自分自身に向かっては来ぃへんけど、人間の闇はそうやない。 蘭ちゃんはそれが心配なんや。 「お願い、和葉ちゃん!新一を助けて!」 いくら上級天使や魔界貴族でも人間の属性までは変えられへん。 けど、光統天使アクラシエルなら魔族の闇から平次の光を守れるし、魔界貴族カーミラなら天使さえどうにもならない工藤くんの闇を抑え込むことが出来る。 天使は願いごとを叶えたりせんし、魔族への願いには見返りが必要や。 やから、蘭ちゃんは自分が平次の光を守るから、あたしに工藤くんを助けて欲しいいうことやんな。 天使と悪魔の契約は、天使の消滅、堕天使の烙印を意味してまうのに・・・。 ・・・・・・・・・・・蘭ちゃんはそこまで工藤くんのことが大切なんや・・・・・・・・・・・・・。 「あたしは・・・・・・。」 「ねぇちゃんの願いかなえてやれや。」 あたしと蘭ちゃんは、びっくりしてその声がする方を向いた。 「平次・・・・。」 「服部くん・・・・。」 「人ん家の屋根ん上で、何やってんねんお前ら。」 桜の木の下から、平次があたしらを見上げとる。 「いつからそこにおったん?」 「さっきからや。」 平次は持っとる赤いお守りと桜の力で、あたしらの声や姿が認識出来るんや。 触れることは出来へんけど。 あたしと蘭ちゃんは本来の姿に戻ると、平次の近くに舞い降りた。 「ねぇちゃんが天使やったとわなぁ。」 蘭ちゃんはくすって笑うて、 「服部くんは、天使と悪魔どっちが好き?」 なんて聞いとる。 「悪魔。」 「だって、和葉ちゃん。」 この男は、意味分かって答えてんのやろか・・・・。 自分の守護たる光統天使に、反逆の意を表したんやで。 「さっきの話やと、俺ん属性が光で工藤が闇いうことやったな。」 「そうや・・・・。」 「ほんで、ねぇちゃんが俺の光を守って、和葉が工藤の闇を抑えるんやったっけ?」 「その通りよ、服部くん。」 「それってそんなに大袈裟なことなんか?」 「そうよ。人間の生死に関わることだから。」 「光の者はその輝きが失われると、闇の者はその闇に飲み込まれると命の保障は出来へん。」 「・・・・・・・お前らには、それが止められるちゅうことか。」 「光統天使である私と、魔界貴族である彼女には可能なの。」 「やけど・・・・やけど、あたしは蘭ちゃんの願いは聞くわけにはいかへんよ。」 平次と蘭ちゃんがあたしを納得出来へんいう眼で見とる。 「何でや!」 「どうしてダメなの?」 「理由は光統天子が一番よう分かってるはずや。」 「私は・・・。」 「あかんよ!蘭ちゃん!・・・・・・でも・・・・・あたしが勝手にやるんやったらええんちゃう?」 「あっ・・・・・。」 蘭ちゃんの瞳から、光の玉が溢れ出した。 ほんまもんの天使の涙や。 こんなん間近で見て惚れん男はどうかしてる。 やのに、平次は天使やのおうて悪魔を見とる。 まるで射るように。 「そんで、お前はどうする気や?」 「あたしは・・・・・・・・・。」 「俺と契約せい和葉!」 「そんなん・・・・・出来へん・・・・・。」 あたしがその場から逃げようとするんを、数枚の白い羽が邪魔をした。 「魔族を拘束する契約方法は、お互いの血よ服部くん。今なら、和葉ちゃんに触れられるよ。」 蘭ちゃんの投げた羽があたしの首に傷を付けた。 黒い血がついた白い羽は、見る間に穢れて塵になる。 「あかん!!平次!!平次!来たらあかん!!」 白い羽に封じられてあたしは逃げられへん。 平次がゆっくりあたしに近づいて来る。 「平次!!止めや!!平次!!あっ・・・・。」 傷口に平次の熱を感じる。 平次があたしの血を吸い上げる。 「くっ・・・・・・。」 不思議な感覚が体中を駆け巡った。 ドクンッ! 「うわっ、う〜〜〜ううっ。」 平次の体が大きく跳ねて、心臓を押さえて跪く。 ・・・・・・・・・・あんたほんまにアホやで平次・・・・・・・・・・。 涙が流せるならあたしは泣いていたかもしれへん。 このままやったら、平次も白い羽と同じになってまう・・・・。 あたしは平次の首に牙をたてた。 「うっ・・・・・。」 温かい血があたしの中に流れ込んで来る。 さっきとは違う陶酔されるような感覚。 ゆっくり離れると、そこには2つの傷口から流れ出る赤い血。 あたしは指でそっと触れる。 傷跡は綺麗に消えていった。 あたしの傷跡には平次が触れる。 契約が成立してしまった。 この血の契約はどちらかが死ぬまで切れることはあらへん。 あたしは死ぬことが無いから、平次が生きてる限り側から離れられへん。 魔族と契約した人間は天の国へは行けへん。 そん時は、あたしが平次を魔界へ連れていく。 あたしの人間界での生活が再び始まった。 魔界の祖父は、正式な契約の為に何も言わへんかった。 人間の一生は、魔族にっとては僅かな時やし。 ただ魔界貴族が人間と契約するなどと、魔界では笑い者になってしもたけど。 お父ちゃんは、笑顔で「お帰り、和葉。」と言うてくれた。 蘭ちゃんは平次の光が曇らないように自分の光を与え守ってくれとる。 あたしは工藤くんの闇を抑え込み溢れた闇はあたしの中に取り込んだ。 蘭ちゃんは工藤くんの側に、あたしは平次の側に、これだけはいつまでも変わらへんよ。 天使を連れた闇を秘める探偵 と 魔族を連れた光を宿す探偵 あなたならどちらに依頼しますか? |