あたしは再び平次の元へ戻ってからは、今まで以上にどこへでも付いて行った。
もちろんそれは契約のせいだけやない。
もっと大切な理由があるからや。



   魔族編 W    「 背中を貸して・・・ 」



「そやから、この犯行は犯行時刻にここに居らへんでも可能ちゅうことや。」
平次は今、依頼主の館で起きた殺人事件の推理を披露してるところや。
被害者は依頼主の夫、容疑者は依頼主である奥さん、執事の男に女中が5人、それと事件があった日にこの館に居った客3名。
被害者は自分の自室で後ろから首にナイフをつ突き刺されて殺されとったらしい。
しかも、部屋には鍵が掛かとったらしく、窓にもロックがされとったみたいや。
所謂、密室殺人言うやつやね。
犯行時刻は検死の結果、午後9時から10時の間。
一応、容疑者全員にアリバイはあるみたいや。
さらに、全員にそれなりの動機もある。
まぁ、そうやから平次が呼ばれたんやけど。

平次は相変わらず、西の名生探偵として引っ張り凧や。
依頼もぎょうさん来るし、警察からの呼び出しもしょちゅうやねん。

そやけど。
平次の人気はそれだけやない。
あたしと契約を交わしてからは下級魔族からも大人気や。
そう、これがあたしが平次から離れられへん大切な理由。
生身の人間の中に上級魔族でも最高位に値する魔界貴族の血が流れてるんやで、下級魔族が狙わへん訳無いやろ。
魔族は同属でも喰らうんやから。
特に自分より上位の血肉は、力を欲しとるザコには喉から手ぇが出るほどの代物や。
それが魔界貴族ん中でも最たるアスタロト一族の血ぃともなると、命掛けで狙ってきよるザコも後を絶たへんちゅうことやねん。
やから平次が普段生活してる場所や地域は、とっくにあたしの支配化や。
その辺に居るザコなん平次に近付けるはず無いやろ。
けど、依頼で行く場所ではそうもいかへん。
血ぃの匂いを嗅ぎ付けて勝手にザコが集まって来よる。
1匹や2匹なら問題無いけど、徒党を組まれてしもたら厄介や。
流石に平次の護衛に付けとる、あたしの使い魔でも払いきれへん。
やから、あたしが平次の側で蹴散らしてるんや。
平次に擦り傷一つ付けさせへん為に。
あたしのせいで平次が傷付くなん、認められるはずがないやんか。


平次は、天使やのうて悪魔を選んでくれたんやから。


平次の推理はまだ終わってへんけど、あたしはそうっとその場所から抜け出した。
このお屋敷に踏み入れた時から、決まっていた事を実行する為に。

お屋敷の外へ出て、散歩する風を装って暗闇に入る。
人間の目が見ることが出来へん闇ん中へ。
するとや、その闇が意識を持ってあたしの周りに集まって来るんや。
闇があたしの全体を包み込むと、髪は撓る様に伸びて闇色を帯び、肌からは人間らしい色が消え、身に纏っている服は深闇のドレスになる。
耳も少し形を変え、口の中には鋭い牙、そして・・・・貴族の証である金色の瞳。
遠山和葉から魔界貴族カーミラへとあたしは変わる。

これが、あたしの本当の姿。

「今夜はええ闇夜やわ。」
背中に黒い羽を纏い、あたしは軽く地面を蹴った。
すると羽は音も無く大きく動き、あたしをお屋敷の上まで運んでくれるんや。
真っ暗な闇夜に深闇のあたし。
人間には見えへんと分かっとっても気になってしもて、ついつい辺りを見回してまう。
「良かった、誰もいてへんで。」
纏わり付いとる闇が、可笑しそうにざわめいた。
「うっさいよ。慣れへんのやからしゃぁないやん。」
この闇の中には、あたしの配下になった魔族がぎょうさんいてるんや。
「笑うてへんと、きっちり仕事しや。」
闇に再び静寂が戻ると、あたしの動きに合わせて魔族本来の姿を現し始めた。
あたしはそれを確認したりはせぇへん。
見んでも分かる。
グロテスクな可愛げが無いモンが、うじゃうじゃ居るだけや。
「行きや。」
見た目可愛気がのうても、あたしの命令には絶対服従の可愛ええ子分やねん。
言葉が終わるとすぐに、足元の屋根に吸い込まれるように行ってしもたわ。
今、あたしが居るんはお屋敷の屋根の上。
階下には平次らが居る部屋がある。
あたしの可愛ええ子らは、平次を狙って集まって来たザコ供と一戦初めたやろうけど、少し経っても下から悲鳴が聞こえて来んから、今回は見える人間は居らへんのやな。
「ほっ・・・。」
以前、半端にあたしらのことが見える人間が居って、いらん騒ぎを起こされてしもたから。

問題は平次やねん。
何もせんかったらあたしの血ぃを持ってる平次には、普通に魔族が見えてまう。
初めんころは、流石に平次もそれには慣れへんみたいで、よう驚いとったわ。
やって闇がある処には何かしらの魔族が居るんやから、夜なん何所見てもびっくりや。
暫らく経つと少しは慣れたみたいやった。
けど、平次は魔族を見たい訳や無いんやし、あっても邪魔にしかならんのやったら無い方がええ。
やから、今はその力あたしが封じてるんや。
平次は今まで通り、普通の人間として生きて欲しいから。
まぁ、普通言うてもあたしが側に居ったら普通とちゃうけどな。
平次を傷付けるモノは、誰であろうと何であろうとあたしが全力で排除する。
それが、あたしに出来るせめてものお返しや。

「そろそろ、あたしの出番やな。」
髪の一房が音も無く伸びて、屋根を通り抜けて行く。

あたしには階下の様子が見えてるんや。
平次の推理もそろそろ佳境に入って、犯人が判明するころやろ。
そんで、魔族同士の戦いも優劣がはっきりと見え初めてきとる。
もちろん、あたしの子らが優勢や。
逃げ始めたザコらも、外で待ち構えとった子らに片っ端から喰われとるしな。
あたしが平次を狙ったヤツを、ザコ一匹でも生かしとく訳無いやろ。

容疑者の1人、被害者の奥さんが平次に触れようとした瞬間、あたしの髪は彼女に絡みついた。
「平次に気安く触らんといてくれる?」
髪は彼女の体をもすり抜けて、その内に潜むモンを絡め取った。
「覚悟は出来てるんやろな?」
絡め取ったモンごと、髪を一挙に引き戻す。
「うげ・・・。」
これまたえらいグロテスクなんが出て来てしもた。
分かり易う言うと蜘蛛女。
8本の足はすべて人間の手ぇと同じ、顔は人間の女、髪は黒うて長うて生きとるみたいに蠢いとる。
こいつは、サキュパス。日本語で言うと夢魔や。
夢魔にも色々おるけど、こいつは眠っとる人間に入り込んで子供を生みつけ、その子が人間の生気を糧に育つと、それをを喰らうタイプや。
通りで直ぐに何所に居るんか分からんかった訳や。
他の容疑者全員に子供を生みつけて、自分の存在を隠してたんやからな。
そやけど、子供らはとっくにあたしの子らに喰らわれとる。
残るはこいつだけや。
「楽に死ねると思たらあかんで。」
「オ・・・・オユルシ・・・クダサイ・・・・カーミラ・・・・サマ・・・・・」
「あかん。お前はあたしの主を狙うたんやで。つまり、それは、あたしを狙うたんと同じことや。」
「・・・ギギギ・・・・」
あたしの髪が一層締め付けると、綺麗な人間の女の顔が不気味に歪んでいった。
「ちゃうな。あたしを直接狙うた方がお前には良かったんや。それやったら、一瞬で喰らうてやったのに。」
本性を表してあたしを襲うとしてるんやけど、力の差が有り過ぎやで。
あたしは笑みを浮かべたまま、余裕でこの蜘蛛女に言い放ってやる。
「魔界の沼に沈むとええわ。」
魔界にはいくつか沼がある。
しかも、ここに入ったら二度と出られへんし、少しづつ少しづつ生きたまま溶かされていって、最後には何も残らへんのや。
あたしは平次を狙うたザコの中でも、特に小賢しいんをこの沼に放り込むことにしとる。
「・・・・ギャギギ・・・・ギャギャ・・・・」
「うっさかいから。早、連れてってや。」
闇から現れた無数の腕が、暴れる蜘蛛女を掴むと再び闇ん中に消えていった。
「平次を狙うた罪、死をもって贖いや。」

気付けばあたしの子らもザコを喰い終わったんか、周りの闇ん中に戻って来とった。
「ご苦労さんやったね。ついでに、まぁだ集まって来よるザコが居るから、それらも片付けてから帰りや。」
「キキ〜」とか「ケケ〜」とか聞こえた後、三々五々散らばって行きよった。
「やっぱ可愛いう無いわ・・。」
あたしの子分やから無理矢理可愛ええと思い込うとしてるんやけど、無理やわ。
モノには限度ちゅうもんがあるし。
あの子らは、どう見てもあたしの”可愛ええ”の範疇には入らへん。ぶっきや、ぶっき。
だいたい魔族に”可愛ええ”は、似合わへんやろ。
「・・・・・・・。あたしも戻ろ。」
和葉に戻って何か本当に可愛いモノでも見んと、あたしの美的感覚がおかしゅうなってまうやん。


それに。
早、平次の顔が見たい。


あたしが闇から戻ると、館の入り口が賑やかになっとて、地元の刑事がある人物を連行してるとこやった。
ザコ退治に構うとって、平次の推理聞き逃してしもたわ。
「犯人、捕まったんや。」
あれは、執事の男。あいつが、ご主人殺したんやな。
あいつのせいで、平次がまた危険な目ぇに遭うたんや。

・・・・・・・・・。

後で、あたしんとこのサキュパス取り憑かせたろ。

「う〜〜〜。」

「何唸ってんねん和葉。」
「平次。」
「終わったんか?」
「うん。平次も終わったんよね?」
「ああ。この事件も無事解決や。」
平次はあたしが何をしていたか知ってるんや。
こっちに帰って初めて事件に付いてった時に、問い詰められてしもたから。
「怪我せぇへんかったやろな。」
「大丈夫やで。」
「そうか。」
心配はしてくれるけど、止めろとは言わへんのが平次。
あたしが契約に基き、自分の役目を果してるんを分かってくれてるからや。

ありがとな平次。

「ほな、部屋戻るか?」
「そやね。」
あたしらは今晩、このお屋敷に泊めてもらうことになってる。
しかも、何でか2人で一部屋。
平次はあたしに背中を見せて、お屋敷の玄関に向う。
やけど、1人で先に入っていったりはせぇへんねん。
「ぼけぇとしとらんと、行くで。」
「あっ、待ってぇな平次。」
背中を向けたまま、あたしを待ってくれる。
「掴まっとれ。」
「うん。」
それは、あたしに背中を貸してくれるということ。
深闇から戻ったばかりのあたしには、人工の明りでも少しキツイ。
やから、踉めいたりせんように背中に掴まっとれっていう平次の優しさ。



ほんま、ありがとな平次。



お礼に今夜は、抱き枕になったげるから。

温こうして、早、寝よな。








アタシガマモルカラ 

平次を守るんはあたしの使命。
血の契約に基き、あたしは平次の命を守る。

平次を護るんはあたしの願い。
誰よりも大切な人だから、あたしは平次の全てを護る。
noveltop contens illustration by Dragon's Planet

魔族編W「背中を貸して・・・」でした。
このお話は、パラレル設定です。
「途切れ途切れの言葉」と「指と指」と「2人の傷跡」の続編。
服部と契約を交わした和葉が、服部の側で彼を護るっていうお話でした。
この和葉は、受け入れられない方もいると思います。ええ〜、分かってるんですよ、これでも。
いくらパラレルとは言え、こんな残酷な和葉はそうそういないのでは?
服部の為なら同族を平気で殺しますし、生きたまま沼に沈めたりもします。
もしかしたら、人間であっても服部に危害を加えようとすると、それなりのお返しをするんでしょう。
そんな話は書か無いですけどね。(笑)
読んで下さってありがとうございました。

by phantom