「 鈍感なボウヤ U ―crisis― 」
それから、あたしは定期的に平次へメールを送った。
内容は大したことやない。
その日にあったこととか、おばちゃんらの様子とかや。
平次もあのボケにしては珍しく、まぁまぁの頻度で返してくる。
それを2ヶ月くらい続けて、ぱったりメールを止めてやった。
もちろん、電話なんかせぇへんよ。
1週間たったころ、やっと平次からメールや。
無視。
3日後に2通目。
これも無視。
次の日に3通目。
ここで、「今、ちょっと忙しいねん。ごめんな。」とだけ返信。
そして、また1週間音信不通。
で、今度は深夜にいきなり電話してやった。
深夜も深夜、丑三つ時の2時過ぎや。
やけど、平次が出るまでまたずに3コールくらいで切る。
事件やない限り、平次はきっと掛け直してくるはず。
・・・・・・・・・・・・・あっ・・・・・爆睡・・・・・・してたらあかんがな・・・・・・。
あたしはもう「フランダースの犬」観て準備万端やのに。
そう思うてたら、携帯が鳴った。
これも、すぐには出たらへん。
着うたの1フレーズが終わるまで待ってから、やっと携帯を手に取った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・。」
『和葉?』
「へいじ・・・・・・。」
『和葉?どないしたんや?』
ちょっと眠そうないつもより低い声。
「へ〜〜じぃ・・・・・・うぅ・・・・・くすんっ・・・・・・・・。」
『・・・・・・・・・何かあったんか?』
「・・・・・・あたし・・・・・・・・あたし・・・・・・・・・・失恋・・・・・・・・してもうた・・・・・・・。」

・・・・・・・・・・今は嘘やけど・・・・・・・・・・・・・・。

それから平次は、あたしが話し終わるまで、何も言わんと聞いてくれた。
あたしも途中からは、本気で泣いてたかもしれん。
やって、話してることはほとんどほんまのことやから。

それは今やないだけで、本当にあたしが経験したことやから・・・・・・平次に失恋したあたしの話なんやから・・・・・・・。

『・・・・・・・・・気ぃすんだか。』
「うん。・・・・・・・・・ありがとな平次・・・・。」
『おお。お前の愚痴くらいやったら、いつでも聞いたんで。』
「・・・・・・・・・・平次が幼馴染でよかった・・・・・・・・。」
『・・・・・・・・・・。』
「起こしてごめんな・・・・・・・・ほんまありがとう平次・・・・・もう・・・。」
『なぁ和葉。』
「・・・なに?」
『こっちに遊びに来ぇへんか?・・・・・あっ、ほれっ、ねぇちゃんが和葉に会いたがっとったしな。』
「蘭ちゃん?・・・・・そういえば蘭ちゃんにも久しゅう会うてへんかも・・・。」
『ねぇちゃん、寂しがっとったで。』
「そうなんや・・・。うん。蘭ちゃんに電話して行く日にち決めるわ。」
『決まったら言えや。』
「うん。ほな・・・・・・おやすみ・・・へいじ・・・・。」
『おぅ。ほな、またな。』
そう言うて、携帯は通話を終了した。

ふ〜・・・・・・・ほんま、昔のあたしって乙女やったんやなぁ・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・あかん!あかん!・・・・・・・・・昔のあたしに戻ったら意味ないやん!

ミイラ取りがミイラになってしもたら、せっかくの今までの苦労が水の泡やんか!

うん。うん。結構、上出来やったんちゃう?
あの平次を騙さなあかんのやから、中途半端な嘘やったらばれてまうから仕方ないねん。
しかも、平次の方から誘ってくるやなんて、予想以上やわ。
蘭ちゃんがって言うてたけど、ほんま平次自信のことなんちゃうの。
さっきの言葉、「ねぇちゃん=俺」なんやないん?
ふふふ、後、もう一押しやね。

あたしは蘭ちゃんと相談して、東京へ行く日を決めた。
それは、12月初めの土日。
久しぶりに会うた蘭ちゃんは、とっても綺麗になっとったんや。
工藤くんに大切にされてるんやなって思う。
蘭ちゃんと工藤くんは、もちLOVELOVEの恋人同士やし。
東京駅で待ち合わせしたあたしと蘭ちゃんは、午前中講義がある平次らを迎えに東都大まで行った。
そこで、あたしらは結構学生らの注目を集めたみたいやった。
平次と工藤くんがあたしら見つけた時には、あたしと蘭ちゃんの周りには男子学生の輪が出来とったんやもん。
「待たせたな、蘭。」
「何やってんねん、和葉。」
言葉は全然違うけど、工藤くんと平次のちょっと不愉快そうな顔は同じもの。
「あっ、新一!」
「平次!」
あたしらはスルリとその輪から抜け出して、2人の元に行く。
蘭ちゃんは工藤くんの側に、あたしは平次の側に。
周囲からどよめきと悲鳴みたいな声が聞こえた。
平次も工藤くんも有名やしかなりモテルやろうから、当然やな。

それくらいやないと、落としがいが無いちゅうねん。

蘭ちゃんは工藤くんの左腕に、あたしは平次の右腕に、2人はあたしらを守るみたいに。
間に挟まれたあたしと蘭ちゃんは、楽し気にキャッキャッとおしゃべり。
蘭ちゃんは工藤くんの彼女やら、その姿は自然やけど。

あたしは、仕方ないからさり気なく隣におってあげる。
       仕方ないからそっとその腕に触れてあげる。
       仕方ないから・・・・・優しく名前を呼んであげる。

他の人から見たらWデートしてるように見えるんやろなぁ。
本当は、1組だけが恋人同士でもう1組はただの幼馴染やのに。

それから、あたしらは遊園地行ったり、買い物したり、もち女の子の意見が最優先。
男2人はぶつぶつ言うとったけど、それでも、あたしらに付き合うてくれる。
あたしは蘭ちゃん家に泊めてもろた。
次の日も同じで、4人で行動や。
最後はちょこっとお洒落な蘭ちゃんお勧めのお店で、大人の時間・・・・・・・・・ってあたしら未青年やん・・・・・まっええか。
あたしと蘭ちゃんは、綺麗な色のカクテル。
平次と工藤くんは、何かキツソウなのを飲んでる。
「ねぇねぇ、和葉ちゃ〜ん。聞いていい〜?」
「蘭ちゃん・・・さっきからそれ・・・・多ない?」
蘭ちゃんはお酒に弱いみたいや。
あたしは・・・・・蘭ちゃんに同じ。
やから、今日はセーブ。酔うてもうたら、仕上げ出来へんやん。
「いいじゃない。久しぶりなんだから〜。ねぇねぇ和葉ちゃん、クリスマスはどうするの〜?」
これや、これ!待ってましたその質問!ナイスや蘭ちゃん!
「う〜〜ん。まだ、決めてへんねん・・・・・・。」
「そうなの〜?」
工藤くんと事件の話ししとった平次が、ちらっとこっち見たんが分かった。
「誘うてくれる人は何人かいてるんやけど・・・・・・・。」
ちょっと困ったような、悲しいような表情を作る。
「そう・・・・なの・・・・?」
蘭ちゃんは、あたしは平次とって思うてたんやろなぁ、やって?って顔やもん。
「うん・・・・。でもな〜、クリスマスいうたら彼氏とやろ?蘭ちゃんと違うて、あたしまだ彼氏いてへんし・・・・・・。」
「そう・・・・・なんだ・・・・・。」
・・・・・うっ・・・・・・蘭ちゃんが・・・・・・・・・・。
「そっそやから、クリスマスまで・・に・・・。」
「和葉ちゃんかわいそう〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
っていきなり大粒の涙流しながら、抱きつかれてしもた・・・・。
「らっ蘭ちゃん?!」
工藤くんも平次も突然の蘭ちゃんの行動に驚いて、固まっとる。
蘭ちゃんは絶対何か誤解してる。
しかも・・・・・もしかして蘭ちゃん泣き上戸?
「和葉ちゃんが独りでクリスマス過ごすんだったら、私が一緒にいてあげるからね〜〜〜〜!!」
そっそれはあかんよ。
あたしが工藤くんに殺されるやん。すでに視線が痛いし。
あたしにしがみ付いて離れへん蘭ちゃんを、工藤くんが何とか引き離して、あたしらはお店を出たんや。
新幹線の時間もあるし。
蘭ちゃんは工藤くんに支えられるように、あたしと平次の前を歩いて行く。
ありがとうな、蘭ちゃん。
全部終わったら、絶対話すから。今はかんにんな。

・・・・・・・・・・・今日はもう平次への仕上げするんはあきらめよかな・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・和葉・・・・。」
「うん?」
今まで黙って隣りを歩いていた、平次の顔を見上げた。
「お前・・・・・・・・・・・・・・・・・・・男欲しいんか・・・・・?」
・・・・・・男が欲しい?
・・・・・・・・・。
せめて彼氏といわんかい。
違う意味に聞こえたやんか!
でも・・・・・最後の一押し出来そうやわ。
「・・・・・・・・・・・・・失恋したばかりやけど・・・・・。」
あたしは視線を前の2人に向けた。
「・・・・・・・・クリスマスに独りは淋しいやん・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・そやな・・・。」
あたしはもう一度顔を上げた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・平次の瞳やっぱり綺麗や・・・・・・・。

なんて思いながら、あたしは縋るような目で平次の瞳を見つめて、ゆっくり視線を逸らす。

その時、平次の目に一瞬淋しさが浮かんだのを見逃さない。

今日を逃すと多分もうクリスマスまでは会えない。




用意された選択肢は2つ。




あたしをこのまま帰す?それとも帰さない?




さぁ、どうする?

平次。






nightmarenoveltop
読んで下さって、ありがとう!
この辺もまだなんとかですね・・・・・。
この和葉には、みなさま色々と物申すことがおありかと・・・・・・・・・・・・・。
はい。本人も十分認識しております・・・・だから、こっから裏なんです。
crisis = 危機,・重大局面・決定的段階・転機、恐慌

by phantom