(オレンジデーなんか、平次が知るわけないやんな・・・・) 今年は暖冬のせいで、桜は急ぐように咲き乱れ、 そして、散っていった。 今は葉桜となってしまった服部家の庭の桜を眺めながら、 和葉は、さっきの平次の言葉を思い出し、そして小さく溜息をついたのだ。 「来週の土曜、どっか出掛けるから開けとけよ。」 クラブを終え、二人でいつものように帰宅している途中、 笑顔で平次は、そう言ってきたのだ。 その時はなにも考えず「うん!」と返事を返したが、家に帰りよくよく考えてみると、 来週の土曜日は4月14日、 あまり世間では知られていないが、オレンジデーだったのだ。 [オレンジデー] 愛媛県の柑橘類生産農家が1994年に日本記念日協会に登録した記念日。 日本では、バレンタインデーは女の子から告白する日で、ホワイトデーは男の子がその想いに答える日。 そして、オレンジデーは想いが通じ合った二人がその愛を再確認する日となっているのだそうだ。 思い合った二人がオレンジ色の物を送りあったりする。 そういう事も少しずつだが浸透してきているみたいだった。 そんな記念日を平次がわざわざ指定して誘ってくるものだから、 ちょっとは期待してしまうのも人情というものだろう。 だが、和葉はその上昇した気分をピタリと無理に押し留めた。 (ホワイトデーも忘れてた男やで? もしかしたら工藤くんと同じで自分の誕生日も忘れてるかも知れんし(当たり!) そんな男が、あんま有名やないオレンジデーを知ってるわけないもんな? ・・・偶然や、偶然。 まぁ、とにかく誘ってくれたんやから、素直に喜んどこ。) さすが平次との付き合いも17年にもなると、ポジティブな気分に持っていくのもお手の物だ。 いちいちムードやへったくれなんか期待してたら、あの平次とは付き合っていけないだろう。 (まぁ、けっこう何回もへこまされてるけどな・・・。) 気分を直して、和葉の心はもう土曜日に向かいトキメいていたのだった。 一方平次は、和葉の期待を裏切り(?)来週のオレンジデーに向けて着々と計画を立てていたのだった。 (ホンマ、驚くやろなぁ。アイツ、オレがオレンジデーを知ってるなんて想像もしてないで(笑) 完璧に用意して、ビビらせたるでぇ。) 和葉の心配をよそに、以外にも平次はオレンジデーを認知していて、 更に和葉を喜ばせようと、計画まで立てていたのだった。 先月の悲惨なホワイトデー話を東の探偵にしたところ、 「オメー、来月オレンジデーっていう似たような行事があるからそこで和葉ちゃんの機嫌でもとっとけ!」 ・・・と、バカにした口ぶりでそう助言されたのだった。 さすがに東の方は、少しは平次より進歩したようにみえる。 少しムカついたが和葉の機嫌を取りたかったのは事実だ。 だから、それから平次はパソコンでオレンジデーたるものを調べ上げ、 ついでにネットショッピングであるものを購入し、来る日に備えて張り切って準備を整えていたのだった。 (こんなん店に買いにいくの、こっ恥ずかしいからな。) ・・・後は、今関わっている事件をかたづけて14日に備えるだけだ。 (大滝ハンに言うたら事件の協力はせんでええって言うてくれるやろうけど、 あの目がオレに犯人を挙げるのを手伝ってくれって訴えとるんやよな。 そんぐらい、今回の事件はややこしい山なんや・・・。) その時平次は、学校を休んでも徹夜してでも14日までに犯人を挙げようと心に強く誓ったのだった。 早く名誉挽回して、ホワイトデーで果たせなかったチャンスをものにするために・・・・・・。 [4月14日] 平次は自分の公約通り事件を解決させ、無事我が家に帰宅した。 ・・・もう、朝の5時半だったけれど・・・。 (あ〜・・なんや頭痛いわ。ちょう無理しすぎたからなぁ。 このまま寝んと出掛けたらしんどいし、ちょっとだけ寝とこ・・・。) 目覚ましを9時に合わせ、重い頭を気にしながら平次は安堵の表情で少しの仮眠についたのだった。 ”・・・・じ、・・・いじ・・。” (・・・・・なんや?・・・どっからかオレンジのええ匂いがしてくるぞ?) ”・・・・じょうぶ?・・・・” (和葉の声も聞こえてきた・・・。そや、はよ起きて迎えにいかなあかんのや。) ”ピチャリ” 「冷た!!!」 平次がガバッと起き上がると、そこには心配そうな顔で濡れタオルを手にした和葉が吃驚した表情で座っていたのだった。 「か、和葉??なんでここに???」 「ええから!早よちゃんと寝とき!! お昼になっても迎えに来んし、電話しても全然出ぇへんから心配になって来てみたら、大熱出して寝込んでるんやもん!びっくりしたんやで?」 そう言いながら平次を横たわらせ、和葉は再び濡れタオルをおでこに当てたのだった。 「大熱?・・・オレ・・・風邪引いてもうたんか・・・?」 そうガックリ口にすると、平次は申し訳なさそうに和葉の方をチラリと横目で確認した。 そして、 「・・・・怒ってへんのか?」 またもや和葉をガッカリさせてしまったのかもしれない・・・。 平次は和葉の反応が不安で、そう心配で聞いてみたのだが、 しかし平次の心配をよそに、和葉はニコニコしながら平次にこう答えてきた。 「大滝さんから聞いたよ。 平次、今日のために事件終わらせようと一生懸命やったって。 ・・・・・そんなに無理せんでも出掛けるんやったらいつでもいけるし、ムチャせんでもよかったのに・・・・。」 無理してたのを知られて恥ずかしくなった平次は少し不機嫌な声で、 「そんなん・・・・今日やないと、意味ないやんけ・・・。」 とつぶやいた。 「・・・・平次、もしかしてオレンジデーの事知っとったん?」 (あの平次がそんな事を気にしてくれていたなんて・・・) 和葉は、驚きよりも自分の気持ちを考えていてくれた平次に対し 大きな感動を覚えていたのだった。 「アタシはその気持ちだけで充分や。ありがとう、平次。」 はにかみながらそう言った和葉の笑顔はとても綺麗だった。 照れ隠しに平次は、ぶっきらぼうにベッドサイドの引き出しに入ってある小さな包みを和葉に取るように指示をしたのだ。 「アタシに?・・・開けてもいい?」 「おう。」 ごそごそと包みを開けると、そこには綺麗なオレンジ色の石のついたネックレスが輝いていた。 「カーネリアンや。 ネットで、なんかオレンジのもんと思って探しとったら見つけたんや。 水晶と組み合わさってめっちゃ綺麗やし、・・・オ、オマエに似合うかと思てな///////」 最後の方は照れてしまってしどろもどろになってしまった。 ふと和葉の顔を見ると、目に涙をいっぱい溜めて・・・いや、もう既に大泣きしてる和葉がそこにいたのだ。 「う、嬉しい・・・・。平次がこんなんしてくれるやなんて・・・・、ゆ、夢でも見てるんちゃうやろか?」 「ア〜ホゥ、オレかて色々考えとったんじゃ。素直に受け取っとけ。」 「うん。あ、ありがとう平次。・・・・・で、でも・・・アタシ、 何にもオレンジのもん、用意してきてないわ・・・・ごめんな。」 「それなら大丈夫やで?」 そう言うと平次はグッと和葉をベッドの中に引っ張り込み、思い切り抱きしめて和葉の匂いを吸い込んだ。 「やっぱりそうや。 お前、なんかオレンジの匂い付けとるやろ?」 「・・・あっ! 今日オレンジのコロン付けてきたんや・・・。」 すると平次はニヤリと笑い、 「せやからオレへのプレゼントはお前で決まりや。 今日はさすがにオレ、しんどいから何にもせえへんけど、そのうちちゃんとオレに進呈してくれや?」 またこんな事言うたら怒られるかな?・・・平次は和葉の反応を恐る恐る待っていると・・・、 「・・・・うん。そん時はリボン付けて捧げるから、ちゃんと受け取ってな。」 なんて、意外にも可愛い言葉が返ってきたのだ。 予想していた返事とは違うかったものだから、平次は思わず興奮して事に運ぼうとした・・・・・・・が、 ・・・・いやいや平次もそこまで学習能力がない訳じゃない。 そこは思い留まって添い寝だけで我慢する事にしたのだった。 (今度こそ・・・今度こそ、悲願達成や!!!) この分だと二人が結ばれるのは、そう遠い未来ではないようだ。 いつまでも、いつまでも、このままの二人で・・・・・。 ーーお幸せに・・・。ーー HAPPY END |
phantomサイトへお越しのみなさま、またまたこの企画に参加させてもらいました、yunaです。
読んで頂いてありがとうございました!
バレンタイン企画の時は、3人共ほぼ同じ内容で始まったこのお話。
ホワイトデーを経てこのオレンジデーでは見事に三者三様の結末になった模様です。
やっぱり個性って出るものなんですね。私、phantomさまとmickyさまのお話、名前を見なくてもどちらのか分かりますよ。(みなさんも分かりますよね?)
・・・って事は私の文章も個性があるのかな?私のだって分かってもらえてるのかな??
そうだとしたらとても嬉しいですv
今回はとにかく”幸せ”をテーマに書かせて頂きました。
何となく幸せで収まったかな?ってホッとしてます。
みなさまに楽しんで頂けて、私もとても勉強になったこの企画。
立ち上げて下さったphantomさまには感謝感謝の気持ちで一杯です!!
また機会があれば参加したいですね。。
それでは!ここまで読んで下さったみなさま、本当にありがとうございました。
これからも、この素敵なphantomさまのサイトを共に応援していきましょうねv
by yuna