■ バス・タイム ■ ―水杏リンsama― |
依頼人の家を出て数分後に降り出した雨は、時間とともに激しさを増した。 そんなに距離がなかったのは幸いだったが、平次のアパートに着く頃には二人とも濡れ鼠になってしまったのは仕方のないことだった。 「はよ拭け」 憮然と和葉にタオルを投げ渡し、平次は浴槽に湯を張り始める。 「溜まったら先使え」 自身の髪を乱雑に拭きながら、横目で和葉に視線を送る。 濡れた衣服は肌に張り付き、彼女の体のラインをくっきりと浮き上がらせていた。 (何の拷問やねん・・・) 深い溜息をつく。 目の前には極上の獲物。 ちりちりと湧き上がるは、醜い欲望。 彼女は知らないだろう。 目の前に立つ男の心など。 無垢で純粋な穢れなき存在、それを汚して穢したいと思っているなんて。 「先にって・・・平次もびしょ濡れやん。風邪引くで?あ、一緒に入ればええやん」 「ぶほっ!!」 さも名案と言わんばかりの和葉に思わずむせ返る。 「あ、アホか!!」 「何でよ?昔はよぉ一緒に入ったやん」 「一体いくつの話じゃ!!」 「別に気にせんでええやん、アンタとアタシの間柄やし。今更照れる必要もなし。どうせ変わってへんのやから」 「変わりまくりじゃ!!お前には恥じらいっちゅーもんはないんかい!!」 「はっ!!逃げるん?西の名探偵とあろうものが・・・」 「その喧嘩こうたる!!後悔すんなや!!」 売り言葉に買い言葉。 後悔するのは確実に自分であろうということに彼が気付いたのは、それから数分後・・・・・。 湯気の立ち込める浴室。 湯船につかり、平次は溜息を落とした。 (なんでこないな事に・・・) 狭い浴槽の中、何の危機感も持たず素肌を触れ合わせてくる和葉が恨めしい。 現在の体制、平次の足の間に座り彼の胸元に背中をくっつける和葉。 黒髪の隙間から覗く白いうなじが艶かしい。 ぞくり、と一点に熱が集中していく。 (あかんあかん、煩悩は捨て) こんな密着状態、いつ和葉に気付かれるかわからないというのに。 「なあ、平次」 振り返る和葉の表情はいたずらっ子の物。 「興奮する?」 口元を吊り上げ笑む姿は妖艶。 声もない平次の手をとり、誘う先は彼女の胸元。 掌から伝わる柔らかな感触。 「興奮、する?」 再度の問いに答えたのは掠れた声。 「するで?」 「アタシを抱きたい?」 「壊したいくらいやな」 近づく距離。 「やったら・・・めちゃめちゃに壊して」 初めて触れた唇は、ひどく熱かった。 |