最近オープンしたという、3つ先の駅前ショッピングセンターの広場。
そこが今日の、平次と和葉の待ち合わせ場所だった。
もうすぐ12時。
待ち合わせは10時のはず。
和葉は溜息を落とし、腕時計を睨みつけ、
悲しげにも虚しそうにも見える表情で周囲を見渡した。

毎回恒例と言っていい位、遅刻続きの平次。
きっと、待ち合わせをしている事ですら忘れ去られていると思うと、
和葉は虚しくなってきた。
もちろん、事件を解決した時のキラキラは捨てがたいし、
人様の為に頑張る平次は、自慢の幼馴染ではあるが・・・
和葉が今まで待ち続けた時間は、いったいどの位になるのだろう。

もう何度目になるかわからない、大きな大きな溜息をつき
立ちっぱなしで疲れた身体をほぐすように、肩や首を動かした。
その時ふと、目の前の店の貼り紙に気が付いた。

『アルバイト募集中』

「あ〜バイトか・・・バイトしとったら時間の無駄に、はならない・・・
 ん? バイト・・・?」

思わず口に出し、あれこれ考え始めた和葉。
父親に許可がもらえるか・・・
学校との両立は・・・
平次は何て言う?
しかしバイトをしている自分を想像し、だんだんと笑顔が戻ってきた。

「・・・ずは、オイ、和葉っ!」
「うわっっ! び、びっくりした〜。いつ来たん?」
「今や、イ・マ。で、オマエ、何1人でニヤついとるんじゃ?」
「ニヤついとるって・・・。ちょっとアンタ!
 二時間近く健気に待っとったアタシに、まず言う事あるやんっ!」
「おースマン。しっかしオマエも暇やなー。」

全く悪いと思っていない平次の言葉に眉をひそめ、
さっき密かに考えた、ある事を実行することを決意した和葉。

「ま、ええわ。これから約束の時間過ぎたら、必要以上待たへん事にするわ。」
「はっ!?」
「やからー、約束の時間から・・・そーやね、一時間過ぎたらもうアウトっちゅう事で。
 アンタは事件でも推理でも、好きな事しとったらええわ。
 アタシも好きにさせてもらうし。」
「ちょ・・・あの、和葉チャン? もしかして怒っとる?」
「あ・た・り・ま・え・やっ」

そうキッパリ宣言する和葉に、慌てた顔をしている平次。

そして翌日、あの貼り紙の店に1人向かった。
その店は和葉にとって、時給以上に最大の条件を満たしていた。
それは『急に時間が空いたとき、すぐに仕事出来る』という事。
その店とは・・・

「いらっしゃいませー。ポテトもご一緒にいかがですかー?」

とあるファーストフード店。
そこのバイトは若い人達ばかりで、とても楽しそうだ。
和葉はその輪の中に、あっという間に馴染んでいった。

順調にバイトに慣れていく和葉。
しかし決まった日時にも仕事をするので、平次と過ごす時間は減ってきていた。

あれから約2週間。
平次は部活と事件に追われ、和葉と約束する事もなく忙しく過ごしていた。
しかし朝は普段通り一緒に行ってたので、和葉の変化には気付いていない。

そんなある日。
久しぶりに事件に呼ばれる事もなく、顧問の都合で部活も休みになった平次は、
和葉に声をかけた。

「かーずーはー。帰んでー。」
「あれ、平次から声かけてくれるなん珍しいやん。
 でもゴメンなー。用事あるから先帰っててええよ。」
「あー、何があるんじゃ。買いモンなら付き合ったろか?」
「いらんー。内緒だし1人で平気や。じゃーなー。」

今まで理由も言われずに断られた事の無かった平次。
不審に思い「言えない用事」とやらを、あれこれ考えていると
ふと先日の和葉の爆弾発言が頭をよぎる。

「やからー、約束の時間から1時間過ぎたらもうアウトっちゅーことで。」
「アタシも好きにさせてもらうし。」

・・・・・「もうアウト」やら「好きにさせてもらう」などという物騒な言葉が
平次の頭の中をぐるぐる回っている。
忙しく、あまり相手をしてやれないにもかかわらず、なんだか楽しそうにしている和葉。
一番考えたくなくて心の奥底に押し込んでいた、
愛想つかされるかもしれない・・・という不安。
その可能性を考えると平次の背筋がスーッと寒くなった。

さすがにこの状況に危機感を覚え、和葉の後をつける事にした「西の高校生探偵」の
プライドは、実は十分傷ついていた。

和葉が振り返る事なく歩き続けるその後ろを、少し離れてコソコソつけている平次。
いつも通りの電車に乗り、急に下車したのは地元の3つ手前の駅。
先日待ち合わせをした、あの広場で向かった先は。

ファーストフード店。

店内に入っていった和葉の行動を、道路の向こう側の大きな看板の陰から
こっそり覗く平次。
腹が減っているのか・・・
トイレなのか・・・
今日、絶対にアソコのハンバーガーが食べたくなったとか・・・
あれこれ考えてみるが、どれもピンと来るものは無い。
イライラと不安が交互にやってくる平次。
看板から顔を出したりひっこめたり、その様子はかなり挙動不審だった。

ふと店内を見るとカウンターに、遠目からでも良く分かるほどの
可愛い少女が立っていた。
「あ・・・か、和葉・・・」
店の制服を着ているのを見て、やっとアルバイトと理解した平次。
しかし、自分に黙ってバイトを始めたのが気に入らないらしい。

「この服部平次サマを、これだけ悩ませるっちゅーのはエエ度胸じゃ。
連れ出して事情聴取したる!」
独り言とは思えないほどの大きな声で宣言する平次。

しかし・・・
再び店内を見ると、平次でさえ滅多に見られない
極上の笑顔で仕事をしている和葉がいた。
最近、自分にあの笑顔を向けられたのはいつだったのか
それすら平次は思い出すことが出来なかったのに、
以前、和葉に投げつけていた言葉は思い出してしまった。

「なーなー、平次。」
「あー?」
「今日ヒマやし、どっか連れてってーな。」
「フン、暇なんはオマエだけじゃ。
 オレは今日も明日も明後日も予定がつまっとる。
 オマエもたまには人様の為になる事でもしてみろっちゅーんや。」
「何や、それ。酷いやん!」
「まぁオレ様とは違って、オマエは人様の為に出来ることなんぞ
 ありゃせんわなー」
「・・・・・」

こんな酷い言葉を吐き捨てていた平次には、
あんなに楽しげに仕事をしている和葉を問い詰めることなど
もう出来なかった。
だんだんとうなだれていく平次。
くるりと背中を向けてとぼとぼと、その場を離れていった。
その背中は、ずいぶんと小さく見えた。

その後しばらくの間、なんとなく元気の無い様子の平次。

「へーじー、部活ないんやったら帰ろー。たまには買い物付き合ってーなー。」
「あー、まぁええけど。さっさと済ませろや。」
「わかってるて。やないと又事件や〜って置いてけぼりやん。」
「なっ、最近そんなん無いやろ? これでも少しは気ィつけとるんじゃ。」
「へー。今まで和葉ちゃんに酷い事しとったって、やーっと気付いて反省したん?
 いい心掛けやね。」

あれ以来、平次はかなりの努力をしてマメに連絡を入れていた。
愛想つかされるよりはいいと思ったようで、
遅刻やすっぽかしもほとんど無くなり、和葉の機嫌も上々だ。

「で、オマエ。買い物って何や?」
「平次もうすぐ誕生日やん。プレゼント、何がええの?」
「は? オレの??」
「うん、バイト代出たし選ばしたろ思って。ついでに最近元気ないみたいだし
 なんか奢ったる。奮発してあげるんやからね。感謝してや!」
「お、オマエまさかっ! オレのプレゼントの為に、あの店でバイトしてたんかっ?
 どんだけ心配してたと思っとるんじゃ! オレに反省までさせよって・・・」
「心配してくれとったんや〜。 あの平次クンがな〜。あれっ??
 あの店って・・・バイトしとるの知ってたん? アタシ言っとらんよな? なんで?」

しどろもどろになる平次。
楽しそうに追求する和葉。
その笑顔はバイト先で見せた、あの極上のものだった。
それを見た平次も、最高の笑顔を返した。

「よしっ、行くで!」

2人の距離がほんのちょっと変わったかもしれない、
新しい日常へ。ONE STEP



                              
終わり 





 
valuably top contens
ひろさまに書いて頂きました!
服部は危機感が無さ過ぎるんです!!怒!
こんなに可愛い和葉を何時間も待たせてどうする?!!
今回は和葉がしたのはバイトで良かったけど、ええ〜男と出会ったらどうするんだ?!!(どこぞにそんな話しあった気が・・・・)
しかも和葉ちゃん優しすぎ・・・・・そのバイト代でプレゼントなんて。
ここから新しい日常が始まるんですね!
ひろさま、と〜〜ても可愛いお話ありがとうございました・:*:・゚★o(´▽`*)/♪Thanks♪
by phantom