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和葉が、指輪をしてきた。指輪と薬指いつものように俺の家にやってきた和葉。 いつものようにお互い違う雑誌を見ながらのんきに話していて、ふと、きらりと光ったものに目が留まる。 今までネックレスはしても、指輪はせぇへん和葉が、指輪をしていた。 シンプルな、銀色の指輪。 はめているのは、俺から見て、左側の薬指やった。 一瞬、目を疑った。 「どしたん?平次。」 自分を凝視されていることに気づいた和葉の呼びかけに、現実に引き戻される。 「あ?あぁ。和葉、お前珍しいやんけ、指輪なんて。」 俺の言うた言葉に、納得したような顔をする和葉。 「これ?もろてん、可愛いやろ?」 そう言って笑う和葉の頬が、薄く色づいた。 その様子に、胸の奥が焼け付いた。 イライラする。 「ほーぉ・・・。」 見知らぬ男が和葉に指輪を渡しているところを想像する。 ちょっと涙ぐんで受け取る和葉。 その様子は微笑ましいものであるはずなのに、ムカつきが起こる。 聞きたくない、考えたくないと思うのに、一番知りたくない事を聞こうとしてしまう。 「それは、好きな男か?」 そういわれた和葉は、少しびっくりしたような顔をする。 まるで、何で分かったんだと言わんばかりの表情に見える。 そして、いたずらを思いついたような顔をして、話しかけてくる。 「・・・そうや、て言うたらどうする?」 目の前が一瞬、まっ暗になった。 「お前みたいな女でも、相手にする男が居るんやな。」 ギシギシと軋む心に鞭打って、悪態をつく。 今更、俺の心を見透かされたくない。 「そうやで?知らんかったやろー。」 現に、和葉は笑顔で答える。 やめろ。 そんないい笑顔で、他の男の事を語ろうとするな。 心が冷たくなる。 「ええ人やで?ぶっきらぼうで、約束ドタキャンしたりするけど、根っこの部分はすごい優しいし。」 やめてくれ。 そんなはにかんだ顔で、他の男の事を褒めるな。 だんだんと、どす黒くなっていく心を止められなくなる。 しかし、無常にも和葉はトドメを刺した。 「それをな、彼が全部で表してくれんねん。」 糸が、切れた。 「平次?」 突然動き出した俺を不思議に思った和葉が、小首をかしげて名前を読んでくる。 そんな風に、そいつの名前も呼んだんか。 腕を引っ張り、自分に寄せてから、全体重をかけて和葉を捕まえる。 こんな風に、そいつに身を任せたんか。 逃げようとするのを押さえつけ、無理やり和葉の唇を貪る。 どんな風に、そいつはお前を愛したんや。 切れた糸は戻らず、和葉の抵抗も無視して、俺は・・・和葉の全てを奪った。 目が覚めると、何も身につけてない俺と、花びらを撒き散らしたような和葉の寝姿。 血の気が一気に引いた。 今まで、何よりも大切にしていたのに。 今まで、何があっても清らかであってほしかったのに。 一時の激情に任せて、汚してしまった。傷つけてしまった。 そんな気持ちがあるのに、和葉の指にはめてあるモノを見ると、また怒りがわいてきた。 見知らぬ誰かの勝利宣言に見えるそれを、俺は和葉の手から抜き取った。 ほんの少しの間だけでも、うたかた夢でも、俺はこいつを、俺だけのものにしたかった。 「ん・・・平次?おはよぉ・・・。」 寝ぼけた声を出して、俺に挨拶をしてくる和葉。 体に違和感を感じると、顔を真っ赤にして、俺をにらんできた。 当然の事や。 せやのにおれは、そんな姿も可愛いと思ってしまっている。 「平次。困るねん。」 そうやな、お前は、誰かのモンやもんな。 「普通に話してただけやのに、突然、あ、あんなこと・・・。」 驚いたんか? でも、お前が知らんかっただけで、俺は、ずっと・・・もうずっと前からこうしたいと思っててんで? 「こっちかて、心の準備があるんやで。せや、まず順序いうもんがあるやんか!」 せやから準備なんか、俺はずっと出来てたっちゅうねん。 そら、順序は踏み外したけど・・・て、うん? 「順序?」 「せや!こういうことする時は、先に「愛してる」とちゃうん?そうやのに平次、その・・・始めてから、愛してるって言うねんもん。」 とくとくと説教を始めるこいつに、俺は頭が混乱してきた。 「ま、待て、和葉。お前、反応おかしいぞ?」 「はぁ?」 「普通、ここは、俺がののしられるところちゃうんか?お前の事が好きや、ってだけで、他に男がいるお前を無理に抱いてんぞ?」 和葉の目が丸くなる。 そして、彼女は笑い出した。 「平次、他の男って、誰?」 「・・・お前、何言うてんねん。指輪の相手やんけ。」 「あの指輪、くれたんは園子ちゃんやで?蘭ちゃんと3人おそろいやねん。」 今度は俺の目が丸くなる番だ。 「そやかて、指輪の相手、好きな男やて」 「どうする?て聞いただけで、肯定も否定もしてへんよ。」 「えらい具体的に答えてた」 「そら、目の前に本人がいるんやもん、簡単に答えられるわ。」 「指輪、薬指にしてたやんけ!」 「平次、うち、右手にしてなかった?」 言われて、あ、と気づく。 確かに、和葉は「相手がいる」と言う意味の、左手の薬指にはつけていなかった。 「俺の早とちり・・・?」 「そう!」 元気に言われてしまい、俺はへナッと、気が抜けた。 和葉は笑いながら話す。 「園子ちゃんの言うたとおりに答えたら、こんなことになるんやもん、びっくりしたわ。」 茶髪のねーちゃんは和葉と毛利のねーちゃんとそろいの指輪を買って渡す時に、条件をつけたらしい。 それは 「右の薬指につけること」 「つけたら気になる人の前に行くこと」 「繰り出されるであろう質問には、決められたとおり に答えること」 の3つ。 中々くっつかない俺らと、工藤のところに対しての挑戦やったらしい。 「園子ちゃんが、これで奥手な彼氏さんとうまいこといったらしくて、試してみぃって・・・。平次が指輪のことに触れた時、計画思い出したら、なんか、照れてしもて・・・。」 赤くなったのは、そういうことか。 まんまと騙された。 思い切り引っかかった。 悔しい思いと共に、安心感がわいてきて、俺は和葉を抱きしめた。 「和葉。」 「何?」 「俺、まだお前の気持ち聞いてない。」 「え。」 「お前、俺のこと好きなんやろ?」 「なっ!」 否定しようとする和葉を、正面から見つめてやる。 『俺を騙してまで、気持ちを知りたかったんやろう?』というように。 「う・・・うん。」 「俺もやで。」 和葉が嬉しそうに顔を上げる。 こいつを幸せそうな笑顔に出来るのが自分だと言うことに、抑えきれない喜びが沸いてくる。 そっと、手の中の指輪を和葉の左手、薬指にはめてやる。 「平次?!」 「おまえ、両思いになってんから、ここでええやんけ。」 「せやけど・・・」 まさか、俺がこんな行動に出ると思っていなかった和葉は、顔を真っ赤にしている。 また嬉しくなって、耳元でそっと囁いてやる。 「今度、買いに行くか。」 「ほんま?」 一転して、笑顔が輝く和葉。 俺は、肯定の意味を含めて、和葉にキスをした。 夕暮れは、部屋をオレンジに染め上げていた。 後日、工藤と話しをしたら、あいつも思い切り引っかかったらしい。 しかも、「真剣に首輪と座敷牢を用意しようかと思った。」なんて話す工藤に、俺は乾いた笑いを返した。 ・・・事ある時は、その計画に便乗したい、と思ったことは、口が裂けてもいえないが。 end |