なぁ、聞いて? アタシ…なんとナースになったんよ! 平次と一緒の大学で看護学部に通って、4年間勉強してやっ〜〜と働き始めてん。 ホンマはここやなしに、そのまま帝都大学系列の病院に行こうと思うてたんやけど、平次からアカンてキツク言われてしもうてん。 自分の決めた道…なんて言うたら大げさやけど、平次と一緒におると否でも怪我が絶えへんやん? 5年前もそうやった。 平次と工藤君がアタシらに内緒で事件追ってて暫らくなんも連絡ない思うてたら、ものスゴイ大怪我して帰ってきた事があってな。 病院で治療受けてる平次を見てて、アタシただ泣き喚くだけやった。 そんなアタシに優しく接してくれたのが、看護師さんやってん。 自分に差し伸べられた暖かい手と平次の傷をテキパキと処置をしてる姿に、思わずカッコいいと思うてな。 その姿につい自分を重ねてみたら……。 『平次の為に看護師になる』 そんな目標が勝手に自分の中に出来てしまった…我ながら単純かと思うわ。 最初、平次に相談したらメッチャ嫌な顔されて、落ち込む事も多々あったけど、蘭ちゃんとか園子ちゃんとか応援してくれてたから、アタシ頑張ってんで。 でも卒業間近になったころに、平次にその大学病院の就職の話をしたら、やっぱり即効アカン言われてしもうた。 そやけどアタシはもっと勉強したいんや!……と何度か説得しているうちに、平次が考え直してくれたのか(?)寝屋川の家から近い整形外科を紹介してくれてん。 アタシはそこで働く事になって……まぁ、家から近い場所やし、最近出来たキレイな個人病院で設備もしっかりしるし、大きな病院で勉強しようと思うてた当初の希望とはほど遠いけど、自分なりに頑張ればええだけの事やし、アタシは特に言う事はなかった。 それに先生もスタッフも、みんなメッチャええ人達やし、ここで学んでいこうと決めてん。 「遠山さーん。診療時間終了だし、そろそろ看板消してくれる?」 「はーい!………(って、まさかまた出るんちゃうやろね…)」 ただ…気になるのはこの時間になると出てくるんがおんねん。 お化けちゃうよ。 そろそろ…や。 「なんや…もう終わりなんか?」 なっ? 「もう平次!なんで毎日毎日…アタシ子供やないし、1人で帰れるもん……って、なにその怪我!ちょっと見せて!なにこの腕、血だらけやん!バイクで転んだん?!それとも…また事件なん?!」 「あ〜〜〜ホンマ騒がしいやっちゃなぁ。こんなんちょっと掠っただけや。……それより角先生は?」 「う、うん、今最後の患者さん見てるけど…でも本当にどないしたん?」 「どうしたもこうしたも和葉迎えに来ただけや。ついでに角先生に挨拶して行こう思うてな」 アタシは平次に近寄り、血を流す腕をそっと触った。 「痛い…?」 「……大丈夫や言うてるやろ?何遍言わすねん」 アタシはもう昔のように、平次の言葉を信じているだけの女の子だけやないんよ? 顔色、呼吸、血の量や皮膚の色、爪の色……一瞬で状態が分かってしまうんよ? 「ちょっと待っててな。今先生に言ってくるわ…」 「おぉ……あっ、美咲ちゃんと…由香ちゃん…やんな?和葉がいつも世話かけてるやろ。そやからこれ差し入れ〜」 (アホ…) 他のナースに愛想振りまく平次をみて、ちょっと安心したような、平次のヘラヘラした顔にイラつくような…。 「角先生。もう終わりにしょう思うたんですけど…ちょっと診て欲しい人がいるんですが…」 先生は振り向かずにパソコンの中に診療記録を打ち込んでいる最中だった。 「…あの…」 「そこに寝かせておいて。それと処置と縫合の準備をしてちょうだい。さっき警察から連絡があったから大体の事は分かってるわ。それと……」 「やっぱりあの血は…平次は事件であんな酷い怪我したんですね!」 アタシが平次の元へ急いで戻ろうとした時、先生が急に立ち上がって白衣を羽織った。 そして先生はジッとアタシを見据え、そして目線を逸らした。 「…遠山さん。準備が先よ。貴方の感情はすべてが終わってからにしてちょうだい」 感情が先に出てしまうアタシに、先生は時々冷たい視線でアタシを見る事があった。 普段は優しい先生やけど… アタシまだまだなんかなぁ。 平次を診察室に連れていき、上着を脱がせると右上腕から血が止めどなく溢れ出ていた。 思わず手を口に当ててしまう。 こんな怪我までしてやらなアカン事件やったん? もしかしたら死ぬかもしれへんかったんよ? なんで…なんで…。 涙が瞳に溜まって、平次がよう見えへん。 「…準備は出来た?……なに泣いてるの?泣くようなら邪魔だから出て行ってちょうだい」 「そんな!」 「和葉。先生のいうとおりや。外におれ」 「い…いやや!」 「…じゃあ泣かないでしっかりと傷を見なさい。貴方はプロなのよ?ちゃんとサポートしなさい!」 「…は、はい!」 アタシは急いで涙を拭ってから、大きく深呼吸をした。 その時…平次の顔が一瞬優しい表情をしたような気がした。 いままでは『平次が怪我をしたら…アタシが…』そんなこと思うてた。 何かの役に立ちたくて…ただそれだけで一生懸命に勉強してきたつもりやった。 でも実際はアタシはオロオロするだけで、昔と何も変わっていなかったんや。 平次は分かっていたんかな? そんなアタシの事……。 「大体ねぇ、この怪我ならこんな小さい病院じゃなくて大きな病院で診てもらったほうがいいんじゃない?」 「俺は先生の腕を信用しとんねん。多分、世界レベルの………イタ、イタタ!」 「そんな事いったって何も出ないわよ……こんな面倒臭い事もそうだけど、自分の体を大事にしない奴の面倒をみるなんて本当に真っ平ゴメンよ。だから今度からは別の病院に行ってちょうだい。……はい、終了!じゃあ、後は遠山さんに任せるわ」 「あ…あの!」 「もう大丈夫よ。しっかり包帯を巻いてあげれば終わりだから。そして彼にはきつくお灸を据えておくのね。……命がいくつあっても足りないって」 「俺はそう簡単に命を落さへんで」 「……じゃなくて、彼女の事をいってるのよ。命をすり減らして貴方の心配してくれているのよ。…大事にしなさい」 先生はそういい残すと、大きく背伸びをしながら診察室から出て行った。 「和葉…俺はこういう仕事してんねん」 「う…ん」 「これ以上の怪我なんてしょっちゅうや」 「…うん」 アタシは包帯を巻く手を止めた。 「ありがとう。アタシは大丈夫…大丈夫になってみせるから」 「……頑張りや」 「うん!」 平次の為になりたくて…この道を選んだ事を後悔したくない。 これからや…。 これからアタシはいろんな事を学んでいくんや。 一人前にはほど遠いけど、頑張って続けて行くから…。 見守っててな。 (完) |