「 狂気の宴 」 第 六 話 |
自分で眼を潰したあたしに平次は、「綺麗やで」て言うた。 痛くて痛くて痛くて唇噛み締めて必死で耐えてるあたしに、傷を心配する言葉一つ無く、平次は自分の欲望のままにあたしを犯した。 耐えられない痛みと、信じられない気持ちと、無常にも押し寄せて来る快楽。 それは、あたしを壊すんに十分なもんやった。 あたしは考える力をすべて奪い去られ、生まれて初めて味わう感覚に抗うことすら出来ずに飲み込まれてしもた。 あの瞳が無くなっても、平次は元には戻ってくれへん。 やったら、あたしは壊れるしかないやろ。 平次が病院に連れて行ってくれたときには、あたしの眼はもう手の施しようがなかったんや。 先生が「どうしてすぐに連れて来なかったんだ」と、平次に怒鳴っている声が聞こえた。 あたしは永遠に光を失った。 平次が連絡したんやろ、おとうちゃんと平次んとこのおじちゃんとおばちゃんがすぐに来た。 おとうちゃんは平次を攻め立て、おじちゃんとおばちゃんはあたしに謝り通しやった。 あたしが失明した理由は、 「あたしの不注意やったんよ。平次のせいや無い。あたしがコケテしもたから。」 これは平次が考えて、あたしに言わせている。 あたしらは山に散策に行って、あたしは斜面を踏み外し転がり落ちてしもたらしい。 実際にそれらしく診えるように、あたしの全身には大小いろんな傷や打撲がある。 これも平次が付けたものや。 平次は拾って来た枝や石で、あたしに傷を付けていった。 見えないあたしにひとつひとつ説明しながら、あたしを犯しながら痛みもくれた。 あたしはそれに酔いしれる。 抗うことを捨てた先には、言葉に出来無い程の喜びがあったんや。 病院を退院すると、あたしは服部家に連れて行かれた。 父子家庭のあたしん家では、何も出来無いあたしの面倒を看る人がおらんかららしい。 おばちゃんはそれこそ、あたしにまったく何もさせへんくらいに甲斐甲斐しく世話をしてくれた。 嬉しいんやけど、逆に平次がまったくあたしの側に来てくれへんようになってもうた。 あたしは1人、与えられた場所で座って過ごすことが多なった。 あれから、まだ、2週間と経ってへんのに。 体の疼きを止められへん。 平次があたしに与えてくれる、狂った快楽が欲しうてたまらへん。 あたしは熱くなる体が抑えられなくて、たまらんくなって自分で慰める。 「やっぱお前は強欲やな、和葉」 声がする方へ顔を向けるけど、もちろんその姿を見ることは出来へん。 「もうちょい待ってられへんのか」 楽しげな平次の声がする方へ両手を伸ばす。 「お前ん為に最高の義眼を作らせたで。明日ここに入れて貰え」 平次が包帯の上から、瞼を舐め上げた。 あたしの両腕は平次の首を捕まえる。 「ちょうだい・・・」 「そう、急かすなや」 「平次をちょうだい・・・」 「ええ子にしとったか?」 「平次が言うた通りここにずっと居ったよ。やから・・・」 「やったら、ご褒美やらんとな」 「あっ・・ああ・・」 平次の指がいきなりあたしの中に入って来る。 この痛みも、今では喜びでしかない。 「噛んだるから、舌出せや」 「ん・・」 言われた通りに舌を差し出す。 痛いくらいに噛まれる。これも嬉しい。 「おっちゃんを納得させたで。来月には結婚出来る」 もっと、もっとちょうだい。 「オレん大学の近くにマンションも見付けた。お前の篭や、間取りも内装も好きなようにせぇ」 もっと欲しい。 「最後の質問や、和葉。お前はオレと来たいんか?それとも逃げたいんか?どっちや?」 「平次をちょうだい」 「オレのもんやったら命のカケラまでお前にくれたる。やから、お前も全部寄こせ、体も心もなんもかんも全部や」 平次の狂った愛情があたしを満たす。 壊れてしまったあたしには、最高のご馳走や。 次の月、あたしたちは身内だけで式を挙げた。 大学を辞めるしかなかったあたしには、なんの問題もない。 今、あたしが暮らしてるんはセキュリティの確りした高級マンションや。 部屋数も多うて広うて設備も整っとるし、あたしが使い易いようにどこにも段差がのうて、スイッチや取っ手も大きめに作られとる。 家具も角が丸くなっとるもんがほとんどや。 日用品もすべて新しい。 平次が言うとったように、あたしの服やアクセサリー類まで高価で新しいもんばっかりや。 あたしには見えへんから、いつも平次が選んで着せてくれる。 ここは、あたしの篭。 ここは、平次があたしを閉じ込めておく為の場所。 ここで、あたしは平次に飼われとる。 やけど、平次が知らないことがある。 狂気に蝕まれた平次には、もう見えへんもの。 あの眼は、消えてしもたんやなかった。 あの眼は、自分の眼を失ったあたしに巣食うてしもうてたんや。 やから、ほら。 平次がくれたこの綺麗な義眼が、あたしに視せてくれるんよ。 あたしが本当に欲しいモノの姿を。 ――早う帰って来ぃや平次。 ――ここはあんたの篭でもあるんやから。 「狂気の宴」 完 |