「 色喰夜会 」 第 ニ 話 | |
「あぁ…」 冷たい風に当たって、思わず声が出てしまう。 アタシが平次の篭から出して貰えるんは、何ヶ月ぶりなんやろう。 時間の感覚も、月日の感覚も篭ん中に居ったら曖昧で、季節さえも分からへん。 居心地のええ篭はアタシから色んなものを奪い去ったけど、今のアタシにはどうでもええこと。 水も餌も、平次が毎日与えてくれる。 着替えもお風呂も、平次が毎日やってくれる。 そして何より……アタシを可愛がってくれる。 「そんな声出すなや。ちっとは我慢せぇ」 肌を刺す風の冷たさが痛みとなってアタシに悦びを与えるんが分かってて、こんな胸元の開いた服を着せたんは平次自身やのに。 「あん…んん……」 しかもアタシが掴まっとる左腕で、硬くなり始めた乳首を刺激してくる。 「ええ子にしとったら、後で褒美やるわ」 「ほんま?」 「おお。そやから少しの間、普通にしとれ」 「うん…」 平次のご褒美とは、アタシに痛みと言う名の悦びとセックスから来る快楽を同時に与えてくれるということ。 考えただけでも、体が勝手に反応してまう。 やから今平次に我慢する言うたばかりやのに、自分から平次の腕に胸を擦り付けとった。 「お〜い!服部!こっちや!こっち!」 ご褒美のことで頭がいっぱいで、いつの間にか大学に着いとったらしゅうて、アタシの知らない男の声が平次を呼んだ。 「お〜谷川!遅れてすまんな」 「ほんまやで!お前…が……」 平次に谷川て呼ばれた人はアタシラの近くに駆け寄って来たはずやのに、急に黙り込んでしもた。 「紹介するわ。俺の嫁はんで和葉や。和葉、こいつは同じ法学部のやつで、谷川保(たにがわたもつ)いうお調子もんや」 「始めまして、服部和葉です」 アタシは平次の腕から自分の腕を外すと、その人が居るであろう方向に右手を伸ばした。 何も見えへんアタシには、こうするしかその人を確認することが出来へんから。 「え…」 「和葉は目が見えんのや」 アタシは違う方向に腕を伸ばしたみたいで、平次がそっと向きを直してくれた。 「ごめんなさい…」 そう言うて引っ込めようとしたアタシの手を、 「こ…こっちこそ、ごめん。俺、谷川保。服部とは入学当初から意気投合してて、よう一緒につるんで遊ばせて貰うてるんや」 と両手で握り締めた。 「あ…遊ぶ言うても、ツーリングとか飲みに行ったりとかで、女っ気はまったく無いから!」 「いつも平次がお世話になってます」 平次が向けてくれた方向に顔を移して、にっこりと笑ってみた。 そしたら、 「っ……」 息を呑むような音が聞こえて、アタシの前に居る男の視線を強く感じた。 「谷川!いつまで和葉の手ぇ掴んでる気や」 平次の声に、男が慌てて視線をずらしたのも分かった。 「あっ…」 男のそんな声がした思うたら、アタシは再び平次の腕の中に戻された。 「ほんで、オレらの店はどうなってんのや?」 「お…おお!そうや!お前が居てへんから、女共がぎょうさんたむろしよって困ってたんや」 「さよか」 「な〜に呑気な返事してんねん!他ん店ん奴らからも苦情が……あっ」 「アタシんことやったら、気にせんといて下さい。慣れてますから」 男が言い淀んだから、そう言うてみた。 やってええ子にしとったら、平次がご褒美くれるから。 「お前は先、戻っといてくれ。オレも和葉連れてすぐに行くさかい」 「分かった。他の奴らにもそう言うとく。ほなな、すぐ来いや!和葉さんもまた後で!」 そう言い残して、男の気配がアタシラの前から消えた。 「面白い人やね」 「何や?興味でも有るんか?」 「やって平次の友達やん」 「そや。オレの友人かもしれんが、オマエのや無い」 「それって焼餅?」 「忠告や。オレ以外の男に興味なん示すな。オマエはオレだけを見とったらええ」 「ええ子にしとったら、ほんまにご褒美くれる?」 「ああ、やるで」 平次の手がコートの中に入ってきた思うたら、アタシの乳首を服の上から強く摘んだ。 「あん……へいじ…」 「ええ子にしとれ。な?」 痛みを与えられながら、耳元で囁かれたら、もうアタシに抗う術はない。 「え…ええ子にするから……」 「帰ったら褒美やろ。分かっとる」 最後にもう一度強く捻って、平次の手はコートの中から離れていった。 「オマエを連れて来たんは、鬱陶しいオンナを黙らすためや」 「うん」 「そいつらに、オレらの関係をたっぷり見せ付けたるで」 「うん」 平次の手がアタシの腰に回されて、あたしの体は平次の体にぴったりと寄り添う。 今迄大学のどこに居ったんか分からへんけど、少し歩いただけで煩い女たちの悲鳴が聞こえ始めた。 |