「 色喰夜会 」 第 五 話 | |
「服部くぅん!オーダーお願い!」 「こっちが先やって!」 静かやったホールに、またオンナ共の声が響く。 茶店風に椅子やテーブルを配置してあるとはいえ元々教室やから、換気のために細く窓を開けただけの今は、それでなくてもキンキンしたオンナ共の声が反響して煩い。 それでも表面上はにこやかに、テーブルの間を渡り歩いた。 「結婚してるて、ホンマやったんやね」 「せや。オレが惚れこんでな、親父さんに頭下げてやっと嫁に貰たんや」 「目が不自由やなんて大変やろ?満足に家事も出来ないんとちゃう?」 「そんなん、大した問題やないわ。オレは家政婦が欲しかったんとちゃうしな」 「服部君の奥さんやから、才色兼備のお嬢様やと思っとったんやけど……」 「容姿やら学歴やら家柄やら自慢しとるオンナはぎょうさん見てきたけどな、和葉以上に『ええオンナ』にはお目に掛かった事ないで?」 テーブルを移る度に繰り返される同じような遣り取りは、うんざりするがまあ仕方ない。 せやけど、オンナ共の媚びるような視線と仕草、眼ぇ見えへん和葉への嫉妬と優越感の籠った声音、言葉の端々に滲む見下した態度が、オレを苛立たせる。 「まあ、外野が何と言おうと和葉はオレの大事な恋女房やからな、和葉貶すヤツはイコールオレを貶すヤツ、和葉の敵はイコールオレの敵や」 学祭の茶店なんお遊びやし、今回はオレゆうエサがおるからとテーブルをぎちぎちに入れとるから、会話は筒抜けや。 それを利用して、オンナ共の下らない話に付き合いながら、真ん中辺りのテーブルできっぱりと宣言してやった。 勿論、言葉に含めた棘を包むために、人懐こいて評判の笑顔つきで。 オーダーを取り忘れとらんか確認するフリをしながらホールをぐるりと見渡すと、オンナ共の大半はこっそり視線を逸らした。 ごく一部、興味深そうにオレを見返して来るんは、学祭の話のネタに名前の売れとるオトコの顔でも見とこうて程度の連中やろ。 そいつらには正真正銘の笑顔をサービスして、和葉の様子を見ようとオーダー票を渡しにカウンターに戻った。 「ほい、コレ」 「サンキュ」 マスターの横山にオーダー票の束を渡して、和葉を座らせたテーブルに目を向ける。 せやけど、そこに和葉はおらへんかった。 「和葉?」 テーブルには、少しだけ口をつけた跡のあるティーカップと手も付けられないままのクッキーとケーキがあるし、椅子にはコートも掛けてあるのに、和葉の姿はない。 「なあ、ここに居ったオンナ知らんか?」 和葉を座らせてたテーブルの隣には、3人組のオンナが居る。 オレが来てからメンツは変わっとらんから、何かを見てたハズや。 そう思って声を掛けてみると、こそこそと話してたオンナ共が慌ててしなを作った。 「彼女なら、トイレに行きたいって言ってたから、案内してあげようと思って手を引いてあげたんだけど……」 「でも、あたしたちここは良くわからないから迷っちゃって」 「お店出た所で服部君と同じエプロンした人がいたから、お願いしたの」 「もうすぐ戻って来るんじゃないかな?」 「……おおきに」 本人たちは可愛えと思っとるらしいねっとりした口調で話すオンナ共にさらりと返して、もう一度ホールを見回す。 このオンナ共は、オレが和葉を連れて入って来た時からずっとイヤな視線を送って来とった連中やから話をそのまま鵜呑みには出来へんが、ここから連れ出したトコまでは間違いないやろう。 そういえば、谷川の姿も見えへん。 「横山!ちょおココ離れるから、後頼むで!」 カーテンの奥に引っ込んだ横山に声を投げて、そのまま茶店にしとる教室を飛び出した。 顔が売れとるゆうのは面倒が多いが、こんな時には役に立つ。 オレが連れて来たオンナやて事で和葉の顔を覚えとった人間もそれなりにいて、足取りを追うんはそう難しくはなかった。 和葉を連れてたんは、オンナが3人。 これは、間違いなくあの3人組やろ。 4人で何かを話しながら、今日は使われとらん隣の研究棟に入って行った。 情報はこれだけやったが、それだけで充分や。 学祭で賑やかな大学の中、そこだけ忘れられたようにひっそりと静まり返っている研究棟に駆け込むと、そこに和葉が居った。 「和葉っ!!」 「へい……じ…?」 研究棟の1階の中央にあるトイレの前、谷川に抱えられるようにして座り込んどる和葉が弱々しくオレに向かって手を伸ばす。 谷川から引っ手繰るようにして抱き寄せた和葉は、全身ずぶ濡れやった。 「和葉さん、女たちに騙されたんや」 「騙された?」 「俺、和葉さんが3人組の女と一緒に店出るの見て、どこ行くんか心配で後をつけたんや。そしたら、こっちの棟に入って行くし、女たちはすぐに出て来たんに和葉さんは居らへんし、こらおかしいて思て思い切って女子トイレ入って声掛けたら……」 「こうなってたんやな?」 「せや」 あのオンナ共の話と谷川の話と、どっちを信じるかて言えば谷川や。 和葉の眼ぇが見えへんのをいい事に陰湿な嫌がらせをして、何食わぬ顔でオレに媚びとったんやな。 その落とし前はキッチリ付けさせるとして、今は和葉の世話が先決や。 水の冷たさと、そこからくる痛みから変換された快楽とで震える和葉を抱き上げて、隣の部屋に入る。 学生の溜まり場にもなっとるらしいこの部屋は準備室のような扱いをしとるんか、棚には洗濯されたタオルが何枚か置いてあった。 「谷川!」 「な、何や?」 「オレのコート取って来てくれ!」 「あ、ああ」 何故かくっついて来た谷川を怒鳴りつけて追い出すと、和葉を机に座らせて濡れた服を脱がせた。 「谷川の言うとった事は、ホンマか?」 「……んっ」 洗っただけらしいタオルはゴワゴワしとって、冷たい水に酔っとる和葉には丁度ええ刺激になるらしい。 甘い声を零して、とろりとした眼ぇをオレに向けた。 「どうなんや?」 「ホンマやよ……」 髪、背中、腕、ハラ、足。 和葉が最も望んどるやろう場所をわざとはぐらかしたまま、刺激を与えへんようにそうっと水滴を拭う。 「へいじぃ……」 「褒美はまだやで?」 「アタシ、ええ子にしとったよ……」 「ホンマか?谷川に何かされたんとちゃうか?」 オレに説明しながらも、落ち着きなく目ぇを泳がせとった谷川。 ずぶ濡れのオンナを前にしてただ目のやり場に困ってただけなんか、それとも何や後ろ暗い事でもあるんか。 どっちとも取れる態度やったけど、和葉ははっきりと首を振った。 「何も。アタシ、ええ子にしとったよ……」 「ホンマか?」 「うん。せやから……」 「なら、駄賃やらなな」 「あっ……ん……」 「手ぇ後ろについて足広げろや。ちゃんと膝立ててな」 ゴワついたタオルで両の乳首を同時に強く擦りながら命じると、和葉は素直に股を開いて秘められているべきソノ部分をオレに晒す。 指を添えて広げてみても、そこは和葉自身が流した蜜で濡れそぼっとったが、オトコの残滓は見当たらなかった。 「ええ子や」 「ひゃっ……ああんっ!」 タオルを指に巻きつけて、オンナの快楽を引き出す蕾を柔らかく擦り上げる。 和葉は強い刺激を欲しがるが、それは今は与えてはやらない。 「軽くイッとき」 「あっ!んっ…んんっ!」 谷川はすぐに戻って来るやろから時間は掛けられへんが、冷たい水の痛みで昂ぶっとる和葉をイかせるんは簡単や。 背中に腕を回して抱き寄せて、声を押し込めるように唇を塞いで小さな舌を噛む。 物欲しそうにヒクつく中を無視して敏感な蕾からの快楽を送り込み続けると、和葉はふるりとカラダを震わせてあっさりと達した。 「褒美は篭に戻ってからや。それまで、ええ子にしとり」 「へいじ……は…?」 オレのモノを探して伸ばされた和葉の手を抑えて、エプロンとタオルでカラダを覆ってやる。 「今すぐにでも欲しいで?せやけど、ココでのオレは『優秀な学生』や。そう装わんとな」 「……うん」 「外でフリマやっとるサークルがあるから、適当に服見繕って着替えようや。それまでコート1枚でも我慢出来るな?」 「うん」 すぐにでも和葉を連れて帰りたいが、いくらタクシー使うゆうてもそのまま歩かせるワケにもいかへんし、素肌にコート1枚のままやったらさすがに風邪引かせてまう。 褒美をねだって篭に戻りたがる和葉にそう言い聞かせた時、谷川がオレと和葉のコートと荷物を持って戻って来た。 |