「 色喰夜会 」 第 六 話 | |
「これでちょう我慢せぇ」 「……」 裸のアタシに平次が着せてくれたのは、アタシのコートと平次のコート。 「ぁ…」 軽くて肌触りのええ素材やけど、直接素肌に触れるとその感触は少し硬い。 しかもアタシのコートの上に、平次のコートも掛けてくれててその重さで余計に乳首が刺激される。 「…ぁん」 「動くんは無理そうやな」 「そんなこと…な……あぁんっ」 平次がコートの上から、軽く胸の辺りを引掻いただけやのに。 「こんなんで感じとって、歩ける訳ないやろ」 「けど……」 「下着も付けてへんのや、歩いただけでオマエ蜜が滴るやろが」 「が…我慢するもん……」 平次に抱き付いて、その逞しい胸に顔を擦り付ける。 こんなトコロに独りで残されるんはいやや。 「髪も乾かさなあかんし、すぐに戻って来たるからええ子で待っとり」 濡れた髪を梳くように、平次の大きな手がアタシの頭を撫でてくれる。 こんなんだけでも、気持ちいい。 「ちっこいけどソファや」 軽々とアタシを抱き上げて、そっとその上に下ろしてくれる。 「ここでええ子にしとれ」 これ以上の我侭はあかんのやね… アタシは平次の首に回した腕を解かずに、 「ほんまにすぐ帰って来てな」 と平次の首をぺろっと舐めた。 「っ……」 動きの止まった平次を、もう一度味わってからゆっくりと腕を外す。 今はこれでええ子にするから… アタシの見上げた先に、平次の視線があるんが分かる。 それなのに見えないアタシの瞼を塞いで、 「眼ぇ閉じとれ……オレが帰って来るまで開けたらあかんで…」 そう言うて離れていってしもた。 平次の足音が遠ざかっていって、ドアが開く音がする。 「谷川……オマエまだ居ったんか?」 「あっ、服部。和葉さんの着替えなんやけどな、漣(れん)に頼んだから、すぐに持って来る思うで」 「誰やそれ?」 「お前なぁ…。俺の彼女や!この前お前にも紹介したやろが?」 「そうやったか?」 「そうや!まったく、ほんまにお前はオンナの名前覚えんヤツやなぁ」 「すまん。すまん」 ふふ…平次らしい。 昔っから、事件に関係ないオンナは皆『ネ〜チャン』やったもんね。 「まぁええわ。それから、和葉さん髪も乾かさなあかんやろからドライヤーも一緒に調達して来い言うといたわ」 「えらい気ぃきくやんけ」 「俺はお前と違うて誰にでも優しいんや」 「そうか?けどまぁ、おおきに。助かるわ」 「分かればええんや。それと、お前はいっぺん店に戻れや。横山が悲鳴上げとったで」 平次またあっこに戻るんや… あの鬱陶しいオンナがぎょうさん居るとこに… 平次はどうするんやろ?て思うて耳を澄ましたら、バタンてドアの閉まる音がした。 あぁ……平次が行ってしもた… 平次が帰って来てくれるまで、ここでええ子にしてなあかん。 アタシは気だるい体をソファに横たえて、腕の上に頭を乗せた。 このソファは篭に在る平次がアタシの為に用意してくれたモノより、寝心地も悪いし手触りもようない。 帰りたい… 「早うアタシを篭に戻して…」 平次の作ってくれたアタシの篭に帰りたい… 意識がまどろみ始めた時に、再びドアが開く音がした。 「平次?」 返事がないままドアが閉まって、足音が近付いて来る。 これは平次の足音やない。 「だれ?」 足音はアタシのすぐ前まで来て、止まった。 「ほんまに服部に言わんかったんやな」 「………」 「和葉はええ子やもんなぁ」 オトコの手があたしの頬を撫でて、そのまま髪を梳いていく。 気持ち悪い… 「なぁ、眼ぇ開けてぇな」 指で瞼を撫でて、甘えた声。 平次のためやて分かってても…気持ちワルイ… 「何で開けてくれへんねん?」 「平次が開けたらあかんて言う…ひゃ」 オトコが行き成りコートの襟元から手を入れて来て、胸を鷲掴みにした。 「どいつもこいつも服部!服部!服部!なんでそんなにアイツがええねん!」 「やって…ぁ…へ…平次は……ぁん…特別……やもん……んん」 「…………」 オトコの手は一瞬動くのを止めたけど、今度は乳首を弄り始めた。 「ぁぁぁ……はぁ…んん…」 「その特別な服部を独り占めしとる気分はどうや?」 「そん…なん……あん…」 「さぞええ気分なんやろなぁ〜。服部もこの眼で落としたんか?」 オトコが瞼を舐める。 「…ち…ちがう……んんん………へ…いじ…は……」 「幼馴染なんやてなぁ。ちっこい頃からアイツに仕込まれてたんやろ?」 「へいじは…はぁん……そんな…こと……ぁぁ……せぇへんぁああ」 「信じてやってもええで。そやから、眼ぇ開けや」 なんでこのオトコはアタシの眼に…… あ…… そう思うた瞬間頭の中に、アタシに巣食うてる鏡の記憶が流れ込んで来た。 あぁ……そうや…… 狂気に蝕まれた平次にはもう見えてへんから、忘れてた。 『これからあなた様は"邪魅の眼"によって、殿方をお好きな様に操れるのでございます』 あの時、あの妖怪は確かにそう言うた。 『オトコの本能を絡めとって、理性も何もかんも奪い去って、お前だけを狂おしい程に求めさせてまうんや』 平次もあの日、そう言うてアタシを壊した。 そうや……そうやわ……… 「ふふ…」 「何笑うてんのや?」 「なんも……ふふ」 オトコが戸惑っているのが、手に取るように分かる。 「なぁ、アタシの眼ぇ見たい?」 それからのオトコは、アタシの言うがままやった。 その後オトコの彼女いう女の人がアタシに服を着せてくれて髪も乾かしてくれたから、平次が迎えに来てくれた時にはいつでも篭に帰れる状態やった。 |