「 色喰夜会 」 第 十五 話 | |
マンションのエントランス前で待っとった覆面に乗り込むと、運転手の若い刑事の他に助手席と後部座席に中年の刑事が居った。 「わざわざすみまへんなぁ」 車が走り出してすぐに、後部座席に座っとる顔見知りの吉村警部補がおっとりとした話し方に似合いの柔和な笑みをオレに向けた。 「いや、コッチも色々世話んなっとるし、協力させてもらいますわ」 「そら助かります。学生てなると、私らには中々掴めへんとこがありますさかいなぁ」 そう言うと、吉村警部補は上着の内ポケットから写真とメモの束を取り出した。 写真は現場や遺体の状況を写したもので、メモはその詳細と聞き込みで得た情報やった。 「身元の判明が早かったんは、ガイ者の持ち物が残っとったからか……」 「ええ。遺体の傍にバッグが落ちとりましてな、携帯も財布も免許証も入ってまして、身元はすぐに特定出来ました。ほんで、服部はんからガイ者は3人で京大の学祭行くためにコッチに来とったて電話もろたんで宿泊先のホテル探しましてな、事情訊こうと思うとった時にカラダ切り取られた遺体見つけたて連絡が入って現場に行ったら、その有様やったんですわ」 最初のガイ者と同じように遺体の傍にはバッグが落ちとって、免許証から身元が、携帯に残った履歴や住所録から3人がツレやゆう事がわかったらしい。 「宿泊先のホテルも見つけましたんで、これから聞き込み行きます。現場はその後んなりますけど……」 「時間なら気にせんといて下さい。学祭も今日で終わったし明日は休みやさかい」 「すみまへんなぁ」 息子みたいな歳のオレにも腰の低い吉村警部補は、オレから戻された写真とメモを上着の内ポケットに戻しながら『あれです』と、シンプルな外観のビルを指差した。 あの3人のオンナ共が泊まっとったホテルは、駅前のビジネスホテルやった。 篭からここまで、車やったらそう遠くないんにそれなりの時間掛けたんは、写真やらメモやら会話やらを外部に漏らしたくなくて遠回りしとったからやろう。 1人目はともかく、2人が殺された事や遺体の一部が切り取られた事はまだマスコミには流しとらんようやから、それも当然の配慮やった。 3人の刑事たちに混じってホテルの従業員から訊き出したんは、あのオンナ共は同じ若いオトコに呼び出されたて事やった。 呼び出したんはオレと同じくらいの歳の若いオトコで、言葉からして生粋の京都人やないが関西圏の人間。 フロントの担当者がソイツを覚えとったんは、2日連続で同じような時間にホテルに来たからて事と、1人目ん時は狭いロビーで結構長い時間人待ち顔で入り口を眺めとったから。 ただ、顔見知りやったんか無理やり連れて行く風もなく、少し立ち話しただけでオンナはオトコの後をついて行ったらしい。 「京大の学祭に来とって、顔見知りと外出てなると、絞込みはしやすいかもしれまへんなぁ」 「せやけど、知り合いなら何でロビーで待っとったんやろ?」 「待ち合わせに早く来すぎたて事やろか」 吉村警部補が他の刑事たちと話しとるんを聞きながら、オレは頭の隅に投げ出しとった疑問がイヤな方向に蠢き始めたんを感じた。 殺されたんは、和葉に陰湿な嫌がらせをしたと思われるオンナ3人。 和葉に嫌がらせした3人組のオンナを目撃したんは、谷川。 その谷川は、嫌がらせがあった翌日から実家に呼び出された言うて茶店の自分の担当を抜けとるし、自分のオンナからの連絡を拒否しとる。 そして、夕方んなって出て来た谷川は、和葉と同じ匂いをさせとって毎日コートを変えとる。 篭ん中がエラい散らかっとったんは、1人目のオンナの遺体が見つかった昨日。 和葉がエレベーター前で寝とったんは、2人目と3人目のオンナの遺体が見つかった今日。 「……まさか」 あの3人を呼び出したんが谷川やて決まったワケやないが、否定する要素もない。 吉村警部補たちに言うて捜査してもらうんが一番なんやろうが、そうなれば和葉ん事を隠してはおけへん。 他の可能性を全部潰してからにするべきか、それとも警察の力使うて先に谷川押えるべきか……。 考えに沈み込んどったオレを、携帯の着メロが現実に引き戻した。 発信者は、谷川のオンナ。 「あ、ちょおすんません」 従業員からの聞き込みを終わらせようとしとる刑事たちに断って、少し離れた柱の影に行く。 通話ボタンを押すと、怯えたように震えるオンナの声がした。 そうや、このオンナ使えば警察通さんでも谷川押えられるし、情報も引き出せる。 ホテル従業員からのあの情報だけで警察が谷川に辿り付くには時間かかるやろから、それまでに白黒つけて、もし万が一黒なら和葉ん事が出ぇへんように外堀埋めたればええ。 現場に移動すると声掛けてくれた吉村警部補に学祭関係から聞き込みしてみるからと告げて、足早に谷川のオンナを待たせとる場所へと向かった。 指定したコーヒーショップの前で不安そうに立っとった谷川のオンナは、オレの姿を見つけるとほっとしたように頬を緩めた。 「急に呼び出してゴメンなさい」 「ええて。それより、ココでええか?」 「あ……あの、人の居らんトコが……」 コーヒーショップを指差すと、谷川のオンナは申し訳なさそうに首を振った。 「ほんなら、オレの懇意にしとるトコがあるから」 そう言ってオンナを連れて行ったんは、さっきのホテルとは駅を挟んで反対側にあるビジネスホテル。 このホテルの支配人の家で起こった殺害予告事件を未遂に終わらせた事からオレに色々と便宜を図ってくれるようになったから、事件の依頼やからて言えば何も疑う事なく部屋を用意してくれる。 従業員もそれを知っとるから、オレがオンナを連れ込んでも好奇の目を向ける事はない。 ましてや、谷川のオンナは怯えたような青い顔でオレに腰を支えられて歩いとるから、何か深刻な事件なんやろうと気遣ってくれとる。 オレにとっては、これ以上ない都合のええ場所やった。 「そんで、イヤなモンて何や?」 狭いシングルの部屋にある1つだけの椅子にオンナを座らせてやって、冷蔵庫から出した水をペットボトルから飾り気のないコップに注いでやる。 オレが椅子代わりにベッドに腰掛けると、オンナはようやく握り締めとったバッグから何かを取り出した。 オンナがオレに渡したんは、何の変哲もない大学ノート。 中を開くと、意味不明な単語の羅列と和葉の名前で埋め尽くされとった。 「これは……」 「保の字なんよ」 「谷川の?」 「今日もな、服部君の携帯で話した後に保から実家帰るからて電話が来て、それからまた連絡取れへんようになったから、心配んなって部屋に行ってみたん。私、保の部屋の合鍵持っとるから」 「ほんで?」 「部屋ん中はあんまり変わっとらんかったんやけど、ベッドの上にノートが乗っかっとったから何気なく見てみたら……」 「コレやったんやな?」 ぽつぽつと俯き加減に話しとったオンナは、1つ頷いて縋るような目をオレに向けた。 「私、恐なって、誰に相談したらええかわからんくて……」 「オレを頼ってくれたんやな」 「『手』とか『足』とか『血』とかそんな文字ばっかりバラバラに並んどるし、それ以上に『和葉』て服部君の奥さんの名前がいっぱいやし……」 「頼ってくれておおきに」 ベッドから下りてオンナの前に膝をつくと、震える手を握って青ざめた頬を温めるように撫でてやる。 「もう、心配いらんで。オレがちゃんと解決したるから」 気が緩んだのか、オンナがぽろぽろと涙を零した。 「心配いらん。オレに任せとき」 オンナを抱き寄せて、宥めるように髪を撫でながら耳元で囁く。 不安定になっとるオンナ揺さぶるにはこんな程度でも充分だが、和葉のためにも完全にコッチに引き込んだ方がええ。 昔のオレしか知らん連中には考えられへんやろが、あの『篭』を造ってから探偵や学生てゆう部分以外で『自分』の持つ能力を有効に使うて人を動かす術を覚えたから、このオンナを味方につけるんもそう難しくはないやろし。 「喉渇いたやろ?」 嗚咽が収まってきたオンナを少しだけカラダから離して、指で涙を拭ってやる。 そのまま手を伸ばしてテーブルの上のコップから温くなった水を口に含むと、震える唇に押し当てた。 「ん……っ」 驚いて固まるオンナの唇に舌を入れて水を流し込み、嚥下を促すように喉元を撫でる。 こくりと喉が動くのを掌に感じながら、舌先で歯列をなぞり戸惑う舌を擽った。 「……ん…んんっ」 片手を後頭部に回して頭を固定したまま、喉から項へと滑らせた手で髪を梳き耳たぶを優しく摩る。 そのまま頬から肩へのラインをなぞって、また髪を梳く。 宥めるようにそうっと優しく繰り返す愛撫に、オンナのカラダから力が抜けた。 「……っはぁ」 唇を舐め甘噛みしてやると、オンナは切なげなため息を零した。 「はっとり…く……」 「何も心配せんでええで。オレが守ったるから」 「……せやけど…」 「オレが漣を守ってやりたいんや。こんな健気な漣を放ってはおけん」 「けど……」 「漣のためやったら、指輪も外したる」 心にもない事を、真実のように真剣な声音でオンナの耳元に吹き込んでやる。 その間にも顔中にキスの雨を降らせて、背中を撫でる。 そっとセーターの下に手を滑り込ませた時には、オンナはオレの首に両手を回しとった。 「可愛えな、漣は」 「……んっ」 舌を絡ませるキスを繰り返しながら、服を脱がせていく。 オンナの手がオレのシャツに伸び、手探りでボタンを外した。 「あ……んんっ」 全裸にしたオンナをベッドに横たえ、唾液の伝う頬を舐めて、耳たぶを軽く噛む。 そのまま首筋に舌を這わせて鎖骨の窪みを擽り、肩に口付ける。 和葉よりもずっと小さな乳房をやわやわと揉み上げながら乳首を優しく唇で挟んで吸い上げ、もう片方の乳首を指の腹でくりくりと転がした。 「あっあんっ…んんっ……」 和葉なら、すぐにでも強い愛撫と痛みとを欲しがって縋り付いてくるが、このオンナが何を好むかわからん今は、ゆっくりと丹念に優しい愛撫を繰り返して反応を見なならん。 乳首を解放して胸の谷間から脇へと舌を滑らせると、オンナはもどかしそうにカラダを揺らした。 「オマエに気持ち良うなって欲しいんや、漣。ドコがええんか、教えてくれ」 「ああっ…あ…ふっ…」 それなりに経験しとるんか、オンナはオレの愛撫に敏感に反応した。 もう一度乳首を含んで軽く歯を立てて擽りながら、片手をカラダに沿って撫で下ろす。 その後を追うように鳩尾の辺りに唾液を擦り付けるように舐めて、腰にキスをした。 「ああんっ!あっ……あんっ」 「綺麗やで、漣」 太股を撫でて足を開かせて、和葉よりも濃い茂みを舌で撫で付ける。 「あっ……はっ…はっとりく……んんっ」 「ココ、好きやろ?」 「ああっ!あっ!は……はっと……ああんっ!!」 オンナのカラダなん和葉しか知らんが、ココはオンナに共通した快楽のポイントや。 溝に沿って両側からそうっと舐めて舌先で突付き、包み込むようにくるりと舌を動かして少しだけ押し付けてやる。 「はっ…はっとり……ああっ!あっ!」 刺激を求めるように腰を押し付けてくるオンナの快楽の蕾に軽く歯を当ててやると、ひくりとカラダが跳ねた。 「ああんっ!!や……あっ!」 「イヤなんか?」 「……あっ…」 「もっと?」 「……んんっ…あっ…あはっ…あっああんっ!!」 たらたらと蜜を滴らせて開きかけた口に舌を挿し込み、入り口を舐める。 じゅるじゅると音を立てて蜜を飲み込んでやると、堪りかねたのかオンナの手がオレの髪を掴んだ。 「あっやっ……あっあっ…はっ…はっと…やあんっ!!」 たっぷりと蜜を乗せた舌でまた蕾を包み、物欲しそうな口には指を入れてやる。 1本から慣らして2本3本と指を増やし、中の感じるポイントを探すように遊ばせると、ソコにヒットしたんか、オンナがカラダを震わせてくたりとベッドに沈んだ。 「あっ……」 「心配せんでも、ちゃんと使うたる。それとも、ナマがええか?漣のええようにしたるで?」 「……あ…」 「大事にしたりたいんや、漣」 最初からセックスに持ち込むつもりはなかったが、オンナを手懐けるための手段として使う事もあるかもしれんと、途中でゴムを手に入れておいた。 ナマが好きなオンナでも、オトコからゴム使うて言うてやると大事にされとると思うモンらしいし、オレの種を和葉以外のオンナに与えたない。 目の前でゴムのパッケージを開くと、オンナは小さく『ありがとぉ』と呟いた。 「やっぱり可愛えな、漣は」 「あ…ああっ……おっきぃ…」 オトコを受け入れようと待ち構えてヒクつく口に、オレのモノを当ててゆっくりと挿入する。 奥まで収めきった所で動きを止めて、慣らすように乳首を舐めた。 「ああん…ん……」 「痛ないか?」 「あ…大丈夫……んんふっ……お願い…」 「可愛えで、漣」 「ああっあっ……ああん!!あっ…はっと……はっとりく……ああっ!…あっ!!もっと!!」 入り口に引っ掛かるくらいまでゆるゆると引き抜き、ゆっくりと奥まで押し込んで軽く突き上げる。 それを繰り返すうちに、オンナが自ら腰を動かし始めた。 それに合わせて、強く早く腰を打ちつけると、オンナは髪を振り乱してヨガった。 「あああっ!あっあっああっ!ひゃあっ!!あああっ!!」 片腕でカラダを支えて、オレの腰に足を絡ませて腰を振るオンナの股に手を伸ばす。 蜜に濡れた蕾を指で挟んで擦ると、首に縋りついたオンナの爪がオレの肌に食い込んだ。 オレに傷をつけてもええんは、和葉だけや。 オンナの腕を振り解いて、その両手首を纏めて頭の上に縫い止める。 「あああっ!!ああっ!!ああああっ!!」 蕾を潰すように指を押し付けてぐりぐりと刺激する。 最奥に届くくらいに強く腰を打ちつけると、オンナは悲鳴みたいな嬌声を上げて果てた。 「あ……はっ……」 「良かったで、漣」 荒い息をつくオンナに触れるだけのキスをしてやって、自分の始末をつける。 カラダを離したオレに不満そうな顔を見せたオンナは、それが自分の汗を拭うタオルを取ってくるためだと気付いてうっとりと笑み崩れた。 「服部君……優しいんやね……」 「漣やからや」 「口も上手いなんて、知らんかった」 まんざらでもないんか、オンナは上機嫌で甘えるようにオレに手を伸ばした。 「何も心配いらんで、オレがちゃんと解決したる」 「うん」 「せやから、大学の外での谷川ん事教えてくれ」 「うん」 「それと……」 「それと、なに?」 甘えてくるオンナを優しく抱き締めて、時々キスをくれてやりながら谷川の事を話させる。 普段の谷川の事は勿論、家族構成やベッドでの事まで洗い浚い吐かせると、オンナに谷川の部屋を調べてくるように頼んだ。 最初は躊躇しとったオンナは、それでもオレの要求を呑んですぐにでも調べてくると言った。 いつまでも甘えたがるオンナを調査に行くからと柔らかく引き剥がして、シャワー浴びて服を調える。 「ああ、そうや。谷川の写真、あるか?」 「保の写真?写メでよければ、今持っとるよ?私と一緒に写っとるヤツやけど、ええ?」 オンナが携帯のメモリーを呼び出して、オレに向ける。 解像度のええ大き目の画面に、仲良く並んで笑う谷川とオンナが写っとった。 「その写メ、オレに送ってくれ」 「ええけど……」 「オマエの顔は誰にも見せへんて。可愛えオンナは大事に隠しとくモンやろ?」 悪戯っぽく笑ってやると、オンナもクスクスと声を殺して笑った。 「ほんなら、すぐにでも保んトコ行ってみる」 「頼りにしとるで、漣」 褒美に少しだけ深いキスをしてやってオンナと別れると、現場に行っとるやろう吉村警部補に電話を入れた。 |