「 色喰夜会 」 第 二十六 話 | |
「へぇじ……ひっく……ひっ……へぇじぃ……」 平次の後を追い掛けようとしたら、『部屋が汚れる』言うてそれすらさせて貰えなかった。 アタシずっと篭に居ったのに… 「ひっ…うぅぅ……っ…」 平次が言うた通りにずっと篭に居ったのに… ここから動くとこも出来なくて、そのまま泣くことしか出来へん。 「へぇじぃ…へいじぃ…」 お人形さんで遊んだだけで、こんなに平次を怒らせるとは思わなかった。 今でも何がこんなに平次を怒らせたのか分からない。 アタシにとってオトコはお人形さん。 そやけど、平次はそうやない。 平次は『オマエにとってオトコは人形なんやし、オレのモンも今オマエが跨っとる玩具と同じやったて事なんやろ』て言うたけど、違う。 平次とお人形さんを一緒にしたことなんない。 平次は平次。 オトコでもお人形でも、ましてや玩具なんかと同じやない。 「同じやないよ……へぇじ…」 涙が溢れて止まらない。 このまま… このまま平次に嫌われてしもたら… 「いやや……ひっく……そんなん…いやや……へぇじぃ…へぇじぃ!へぇじ!」 どんなに叫んでも、平次が来てくれる気配はまったくない。 「へぇじぃぃ!!へぇじぃ!!へぇ…げほっ…ごほっごほっ…ぇじぃ…」 喉がカラカラで上手に声が出ぇへん。 このままやったら平次に嫌われてまう… アタシは手探りでシャワーを探し、自分の蜜でべた付いている体を洗い流そうと蛇口を捻った。 温い温度のお湯は気持ちが悪かったけど、今はそんなこ言うてられへん。 「きれいに…綺麗にせんと……」 部屋を汚したら、また平次を怒らせてしまう。 ボディソープを直接手に取って、体中に擦り付けた。 「きれいに…もっとキレイニ…」 無我夢中で手、胸、腰、お尻、足、それから秘所に指を突っ込んで中まで綺麗にする。 敏感な場所に当たるとカラダは快感を伝えてくるけど、平次に嫌われたくない一心でソレを抑えつけた。 「汚れてたら平次に嫌われる…もっともっとキレイニ…」 腕の包帯も外したかったけど、どうやって解いたらいいのか分からないから仕方なくそのままその上を洗う。 充満していた蜜の匂いが消え、ボディソープの匂いだけになったのに気付いてやっと洗うのを止めた。 お湯が出しっぱなしになってたシャワーを体に向けて、ボディソープを洗い流す。 座ったままやと背中とかお尻とかが、上手く流せなくてアタシはシャワーを持ったまま立ち上がろうとした。 「あっ!」 そう思った時にはもう完全にバランスを崩しとって、アタシはそのまま前に傾いてしまう。 「あぁぁ!!」 その為に咄嗟に前に出した腕が、何か硬いモノに激突した。 「あああああああぁぁぁぁ!!」 激しい痛みが両腕を襲う。 それと同時に血の匂いが漂い始めた。 平次に怒られる! アタシがその瞬間最初に思うたことは、ソレやった。 「ああぁぁ……あぁ…」 そうは思うても、痛みがくれる悦びは大きくて自分では抑えることが出来無い。 「あぁああ…はぁ……ぁぁ…」 このままやったらまた怒せてまう… 快感に溺れそうになる気持ちの片隅で、アタシがアタシに必死で訴える。 「ぁぁ…あかん……あかん…の……」 呟いてみても、痛みに酔い痴れていく感覚は止まってはくれない。 このままソノ快感に浸りたい気持ちと、このままやったらあかんていう気持ちが鬩ぎ合って沸き起こるジレンマ。 「ぎゃぁああああああ!!やぁあああああああ!!」 堪らなくなって、喉から獣の様な音が出た。 「いつまでギャアギャァ騒いでんのや!ええ加減にせぇ!」 ああ…平次や… 平次がやっと戻って来てくれた。 「お前っちゅうヤツは…」 行き成り両腕を掴まれ、その勢いのまま引っ張り上げられる。 「どんだけオレを怒らせたら気ぃ済むんや」 冷たい声で言われる。 「ご…ごめんなさい……ごめんなさい…へいじ…」 平次を怒らせるようなことばっかりしてごめんなさい… 「お前の言葉なん信用出来ん」 「ごめん…へぇじ…ひっ……ぁ」 「オレに謝りながら、快感に浸ってんのか?」 アタシが小さく身震いしたら、平次の声が更に冷たくなった。 「ち…ちが……ああああ…」 両腕を包帯の上から強く掴まれて、出したくも無い声が零れてしまう。 「何が違うねん?ココもココもビンビンやんけ」 「あ!ああ!へ…へぃ」 乳首を摘まれた後、秘所を撫上げられられた。 「うっさい!お前の戯言なん聞きた無いんじゃ!」 今日始めて感情の篭った声を吐き出した平次は、アタシをまた乱暴に担ぎ上げた。 「ひっ…ごめんなさい…かんにん……へぇじぃ…っく…」 アタシは平次に担がれ、髪も体も濡れたままお風呂から運び出される。 「ごめんなさい…ごめんなさい…」 どんなに謝っても平次から返って来る言葉はない。 どうしたらええの… 今までこんなに平次を怒らせたことのないアタシは、もうどうしたらいいのか分からない。 「ごめ……きゃ!」 平次が歩くのを止めたと思ったら、再びアタシはベットの上に放り出された。 「あ…」 両腕の痛みに新たな痛みが加わって、起き上がろうとするアタシの邪魔をする。 「ぁあ…んん…」 無理矢理寝返りをうって体を折り曲げ、頭と膝を使って起き上がろうとしたけど上手くいかない。 ベットの上でアタシがどんなにもがいても、平次が近寄って来てくれる気配はない。 「へぇじぃ……へぇじぃ…へ…じぃ…」 アタシはもう動くことを諦め、両腕で胸を抱き締める様に膝を曲げ体を丸めた。 へぇじぃ… 血の匂いは止まらず、涙も更に溢れてきた。 ベットを汚してしまうと思っても、もうどうしていいのか分からなくて動けない。 動いてまた平次を怒らせたらと思うと、淋しくて辛くて動けない。 気付けば平次の気配はもうここにはなかった。 「ひっ…ひっく……へぇじへぇじぃへいじぃ…」 名前を呼んで泣き続けていると、平次の足音が今度ことアタシに近付いて来てくれた。 「へぇじぃ…」 呼んでも返事すらしてくれない。 しかも行き成り頭を持ち上げられ、 「飲めや」 と何かを口に無理矢理流し込まれた。 「ん…んん…ん…」 少し苦味のある液体は、それでも乾いていたアタシの喉に吸い込まれていく。 口に注がれるソレをすべて飲み干すと、平次はまたアタシを放置した。 言葉一つくれずに。 そして急速に襲って来た眠気に、アタシは泣きながら呑まれていった。 |