新蘭の平和観察日記 −8月1日土曜日23−
武志さんの提案は私たちには、願ってもない申し出だった。
だって、
「だったら、馬で送って行こうか?」
だったんだもの。
馬って言葉は普通によく聞くけど、テレビなんかでもよく見るけど、実際に乗ることなんてほとんどないし。
だから私も和葉ちゃんも、大喜びでその申し出を受けたの。

でも私たちが想像してたのは、私と和葉ちゃんが馬に乗って、武志さんが手綱を引いてくれるモノ。
だけど実際は違って、車に乗ってた以上に真っ赤になるはめになちゃった。
そもそもの誤算は、二宮さんが乗馬が趣味ってことを知らなかったからなんだけど。
二宮さんてもしかして、いいお家のお坊ちゃまなのかしら?
確かに物腰は柔らかいし仕草も綺麗なんだけど、それを上回る程の軽いノリだから肝心な部分をついつい見落としそうになるのよね。
で、そうこうしてる間に武志さんと二宮さんが颯爽と馬に乗って、私たちの前に現れてしまったの。

「ほんまに乗ってる…」
「これくらい当然だよ」
「それはオレたちに対するイヤミか?」
「違うよ。オレ車の免許持ってないからさ」
「お前は幕末の人間か?!」

和葉ちゃんが尊敬の眼差しで二宮さんを見上げてる横で、大野さんが手綱を持って馬の顔を撫でてる。
どうやら大野さんも口で言うほど、馬に慣れてないことはないみたい。
本当にこの人たちって奥が深いっていうか、不思議な人たち。

「じゃぁ、二宮は和葉ちゃんを乗せて上げてくれ。俺は蘭ちゃんを乗せるから」

武志さんにそう言われて、必然的に私は武志さんに和葉ちゃんは二宮さんと同乗することになった。
だから武志さんの馬に近寄りながら、チラッと和葉ちゃんたちの方を見ると相変らず楽しそうにしてる。

あ〜あ、これでまた二宮さんと和葉ちゃんの親密度がUPしちゃうよね…

「さっ、蘭ちゃん乗って」
「あ、はい。よろしくお願いします」
逸れてた意識を戻していざ乗ろうとしても、どうしていいのか分からない。
すると武志さんがすっと腕をのばしてくれて、
「そこに左足を掛けて、右足で馬をまたぐようにして」
と言ってくれた。
「こうですか?」
「そうそう。ゆっくりね。馬は臆病だから、脅かさないように」
私が余りにも恐々してるから、松岡さんと松本さんが私の体を支えてくれたの。
「ありがとうございます」
「蘭ちゃん、様になってるよ」
「うんうん。どんな格好しても似合うなぁ〜」
「もう、何言ってるんですかぁ」
2人に煽てられて慌てていると、体の左右から私を挟みこむみたいに腕が現れたの。
「え?」
「蘭ちゃんはここを持ってるといいよ」
しかもそう耳元で囁かれて、びっくりするのと同時に体まで固まっちゃって頷けたのが不思議なぐらい。

私もつくづく自分で抜けてると思う。
だって武志さんの前に乗ったんだから、こうなることは想像出来たはずなのにこの状態になってやっと気付くなんて。
これって正に後ろから抱締められてる状態だよね。
そう思うと一気に顔に熱が集まった。
和葉ちゃんを見るとやっぱり私と同じ状態で、二宮さんの腕の中で………普通なんだけど?

なんで?どうして和葉ちゃん?

しかももう恋人同士かっていうくらい、満面の笑顔で2人は楽しそうにしてるの。
凄いよ和葉ちゃん。
もうここまで二宮さんのこと意識しないなんて、普段どれだけナチュラルに服部くんと接してるの?
きっと後ろから抱っこなんて当たり前なんだ。
そうなんだ。

いいなぁ…
私ももっと新一と…

「俺たちはこのままゆっくり行くから、大野たちは先に車で帰っててくれ」

意識がまたまた違うトコロに行っていた私を、余りに近い距離から聞こえる武志さんの声が引き戻した。
やっぱり近過ぎる。
だってだって武志さんの息が耳に………。
もう馬の上からの素晴らしい景色なんて、目に入って来ない。
ただもう恥ずかしくて、恥ずかしくて。

だからペンションまでの道のりも、確かに武志さんと色々お話したはずなんだけど、はっきりとは覚えてないのよね。
でも後ろから、和葉ちゃんと二宮さんの楽しそうな声が聞こえてたのは確かだけど。

ペンションに着くと何故か新一と服部くんが居て、大野さんたちと一緒に私たちを出迎えてくれた。

「お帰り、蘭」
「支えたるから降りて来いや、和葉」

新一も服部くんも笑顔でそう手を差し伸べてくれるんだけど、どこか怖い。

やっぱ怒ってるのかな?

そうだよね、勝手にみんなに着いていちゃったし、それに山菜料理のお店からは逃げ出しちゃったもの。
怒ってて、当然だよね。
って私が戸惑ってる間に、
「おおきに平次」
って和葉ちゃんは少し興奮した笑顔で服部くんの腕に捕まってるの。
しかも下からは服部くんに、馬の上からは二宮さんに支えられてる。
2人の間には火花が散ってるみたいに感じるけど、和葉ちゃんはいたって笑顔。

笑顔……そっか…
笑顔だよね!

この場のちょっとおかしな雰囲気を蹴散らすには、私たちが笑顔になるのが一番だよね。

そう思って、私も和葉ちゃんを見習って満面の笑顔を新一に向ける。
「ありがとう新一」
「気にすんなって」
「あ、蘭ちゃん。降りにくいようだから、俺が先に降りるよ」
私がもたもたしている間に、武志さんはひらりと先に降りてくれた。
その姿がこれまた様になってて、思わず見惚れてしまったの。
だから、
「蘭、ほらこっち」
ともう一度新一に手を差し伸べられて、私はやっと馬から降りることが出来た。





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馬の上でカップル座り?
しかも蘭ちゃんは意識してるけど、和葉ちゃんは無自覚しかもルンルン。
この差は、大きいと思います。(笑)
by phantom

「 花?あ、そうだね。だったら、そのお花そこに置いて 」



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