CROW 1 | ||
『なぁ、これだけで足りるかなぁ〜?』 『足りなきゃまたお・・・・・。』 ドンッ! 『あっごめん・・・・・・・・・・・・。』 「いえっ、あたしこそボ〜っとしとったから。かんにんしてな。」 とその女性はとても綺麗に微笑んだ。 『いっ・・・・いえっ、こちらこそ、すみませんでした。』 マンションの入り口で、彼女が見えなくなるまで見送る二人。 『あんなに可愛い子、オレ始めて見たよ。』 『僕も。』 『それより、早く行かないとっ。』 二人は慌てて、中に入っていった。 ここは、東京に来て3年間住んでいる服部平次の部屋。 今日は、平次の誕生日。 悪友達が無理やり、平次の誕生日を理由に飲み会を開いているのだった。 さっきの二人も参加して、数人の男女が大騒ぎをしている。 『そういやぁさぁ、さっきここの入り口でスゲ〜可愛い子とぶつかっちゃってさぁ。』 『お前わざと、ぶつかったんだろう?』 『違うよ!いやっ、それがさぁ、本当に超可愛いかったんだって。なっ。』 『そうそう、マジマジ。ここの住人かなぁ?』 「はぁ?俺、3年ここに住んどるけど、そんな可愛い子見たことないで。」 平次はビールを飲みながら、笑っている。 『で、そんなに可愛い子ってどんな感じなの?』 『え〜〜と、目は大きくて猫みたいで、色は雪のように白かったなぁ。』 『それで、髪はポニーテールの長いやつで、あんまり化粧してなかったのに唇がプルンってピンク色。』 誰も気付いていないが、平次の様子が変わった。 『芸能人でもちょっといないよなぁ。』 『うんうん。あっ、それに声も可愛かったなぁ。』 『平次の話し方に似てたな、あれも関西弁かなぁ。同じ関西弁でも、あんな可愛い子が話すと別モンって感じ。』 「それ、いつの話や!」 平次の大声に初めて、周りの悪友達も平次の様子がおかしいのに気が付いた。 『オレらが来たときだから、20分くらい前か・・・・・な・・・・・・。』 平次は悪友が話し終わらないうちに、部屋を飛び出して行った。 『なんだ、あいつ・・・・・。』 『さぁ、彼女?』 『え〜〜〜、だって服部くんには夏美がいるじゃない。』 『だったら、元カノ?』 『だけどよぉ、さっきのアイツの様子は普通じゃねぇぜ。』 悪友達は、始めてみる平次の様子に驚いていた。 部屋を飛び出して行った平次は、幼馴染の彼女のことを思い出していた。 ・・・・・・・絶対、和葉や。 平次は高校を卒業して以来、和葉に会っていなかった。 いや、会えなかったのだ。 東都大学の入試の日、東京で平次にはあることがあった。 そのせいで、東京に出て来てしまうまで和葉の顔がまともに見れず、したがって和葉ときちんと話すら出来なかった。 和葉は何か言いたそうだったが、まともに相手にしなかったのである。 東京の生活に慣れ初めたころ、どうしても解消出来ないイライラに悩まされ、ありえない事だが大阪が恋しいのかと思いバイクを取りに帰ったついでに1週間程いてみたのだが、イライラは一向に解消されなかった。 考えに考えた末の結論が、和葉がいないことだった。 まだ、半年とはいえ和葉とこんなに長い時間会っていないのは始めてのことだったのだ。 そこで初めて、和葉を探し始めた。 和葉が行っているであろう大学に彼女はいなかったのだ。 もちろん、携帯も繋がらない。 母親に聞いても知らなかった。 和葉の父親に聞ければいいのだが、忙しくて捕まらない。 蘭に聞いても本当に知らないようだった。 思い当たる最後の人物、和葉の一番の親友である木更津華月(きさらづかづき)に連絡した。 「木更津か?」 『久しぶりやな服部くん、元気しとった?』 「おお、相変わらずや。それより、和葉のことなんやけど・・・。」 『和葉のことやったら、教えられへんよ。』 「木更津?」 『今更やろ。今頃、和葉のこと聞いてどうすんの?』 「お前は和葉のいどころ知っとるんやな。」 『もちろん、知っとるよ。そやけど、服部くんにだけは教えられへんよ。アンタが東京に行くまでに、和葉何遍も話そうとしたはずやで。それをまったく相手にせいへんかったんは服部くん自身やろ。それやのに、何で今ごろそんなこと聞くん?』 「どうでも、ええやろが!和葉、どこにおるんや!」 『相変わらず自分勝手な男やな。なんと言われようが、言えへんもんは言えへん。多分、和葉のおじさんもあんたには教えてくれへんわ。』 「何でや!」 『そんなこと自分で考えや。まぁ、服部くんから連絡があったことだけは和葉に伝えといたるわ。』 そう言い残して、電話は一方的に切られた。 彼女の言う通り、和葉の父親も教えてはくれなかった。 探偵である平次がいくら探しても、それっきり和葉は見つからなかったのだ。 それからも、2年半、和葉に会えずじまいだった。 平次は彼女と呼べる女性を何度か作るが、結局、和葉の影が消せず長く続いたことはなかった。 今、付き合っている彼女もまだ、2ヶ月くらい。 マンションの回りを探すが、和葉らしき人影はすでになかった。 そのとき、携帯のメールが鳴った。 『元気そうやね。』 たったそれだけのメール。 差出人の名前も何もない。 それなのに、平次は和葉からだと思った。 急いで返信する。 『和葉 電話してこい』 平次はどうしても和葉に会いたかった。 『あかんよ。あたしも元気やから、心配せんでええよ。』 ・・・・・やっと、やっと、和葉から会いに来てくれたのに。 平次の誕生日と言うことは今日は和葉の誕生日でもある。 『和葉和葉和葉和葉和葉和葉和葉和葉さっさとせんかいボケッ』 このチャンスを逃すわけにはいかない。 しばらくして、やっと携帯が鳴る。 非通知。 「和葉!」 『まったく、久しぶりやのにボケッって何なん?』 言葉と裏腹に和葉の声は笑っている。 3年ぶりに聞く和葉の声だった。 「お前どこにおんのや!」 『相変わらずやね。』 「俺に会いに来たんやったら、ちゃんと顔見せていかんかい!」 『やって、友達ぎょうさん来てたやん。やから、ジャマしたら悪い思うて。』 「そんなん気にせんでもええ。戻って来い、和葉!」 『元気そうな声聞けただけでええよ。』 和葉の声の後ろから駅のアナウンスが聞こえている。 新幹線の到着を告げている。 「東京駅やな。今から行くからそこで待っとれ!ええな!待っとれよ!」 和葉の返事を聞く前に携帯を切る。 平次は部屋にもどり、バイクの鍵と自分のメット、そして3年間一度も使われていない和葉用のメットを持って再度飛び出していった。 いきなり平次に帰れと言われた悪友達は、 『なぁ、見たか今の?』 『ああ。あいつのと色違いの赤いメットやろ。』 『服部くんてバイクの後ろに人乗せたことないよね。』 『うん。夏美もそう言ってた。頼んでも絶対乗せてくれないって。』 といいながら帰っていった。 平次はこっちに来てから、誰もバイクの後ろに乗せなかったのだ。 |
||
|
||
|
||
|