平 heiwa 和 1
■ 和葉の気持ち 1 ■

いつごろからやったやろうか、あたしが平次の様子がなんやおかしいのに気付いたんは。


そやかて、今までと態度や言動が違うっていう理由やない。
ただ何となく・・・そう、ただ何となくそういう気がしてたっていう位のもんやった。


あの差出人の無い白い封筒が届くまでは・・・。



           平 heiwa 和



高校3年の夏休み。
夏休みいうんは名ばかりや、あたしら受験生にそんなもんあらへん。
あたしや平次の通う「改方学園」は関西でも1・2を争う私立の進学校、もちろんみんなが狙う大学のレベルも日本トップクラスや。
そやかて勉強ばかりやあらへん、スポーツ特待生もおれば、専門分野(演劇や美術)に飛び抜けた生徒もおる。
そんな自分の夢に一生懸命な生徒が集う、進学校のわりには自由な校風の学校や。
そやから夏休みの期間中も、毎日夏期講習いうもんはあるんやけど必須やない。
生徒自身が自分が出席したい講義に、自主的に参加する形や。


もちろん、あたしは毎日参加しとるよ!
平次と違ごうてな!
あいつは、一度も参加しとらん!


平次の第一希望は、日本最高峰の大学「東都大学」。
それやのにあのドアホ、余裕の顔してこの時期にも探偵活動に精を出してんやで・・・信じられへん・・・。
まぁ、全国模試でもつねに100番以内のあいつには今更必死こいて勉強も必要あらへんのやろうけど。
仮にも受験生なんやから、少しはそれらしくせいっちゅうねん。
なんや、がんばってるあたしがアホみたいやん。
あたしは、平次が工藤くんの影響で「東都大学」に行くって言うんはなんとなく分かっとった。
もちろん、工藤くんも「東都大学」や。
この間、蘭ちゃんとの電話で聞いたから知ってんねん。
しかも、工藤くんも飛び出して行くことが多くて、勉強そっちのけやて。
それ聞いて蘭ちゃんとお互いに、電話越しに大きな溜息をついて呆れたんや。
あたしも蘭ちゃんも決して成績悪い方やあらへんけど、平次らと同じ大学に行ける程の学力も無い。
同じ大学に行きたいけどそれは無理ちゅうもんや。
それは、あたしも蘭ちゃんも分かってる。
そやから、せめてあたし達が同じ大学に行こうちゅう話になってん。
それは横浜にある「横浜白綾国際大学」。
蘭ちゃんのやりたいこともあたしのやりたいことも、この学校なら出来るからや。
確かに「東都大学」よりはレベル的に落ちるけど、そう易々と入れるとこでもあらへん。
せやから、あたしは毎日夏期講習に参加してがんばってんねん。


そんな夏休みも無くなるころ、なんの前触れもなく例の白い封筒はあたしのところに届いたんや。


いつも通り夏期講習に参加して、いつも通り友達とちょっと息抜きのお茶をして家に帰ると差出人不明のあたし宛の白い封筒がポストに入っとった。
「なんやろ?」
あたしは頭に?印を飛ばしながらもその封筒を持って、玄関のカギを開け誰もいない家に「ただいま」の挨拶をする。
おかちゃんは、あたしが小さい頃に死んでしもてる。
今は、父娘の二人暮らしや。
しかも、おとうちゃんは不規則な仕事やしいつ帰ってこれるか分からへんから、家事全般はあたしの仕事やった。
取り合えずその封筒は鞄に入れ、その他の郵便物はキッチンのテーブルに置き、鞄を持って自分の部屋に入った。
封筒のことが気にならんでもなかったけど、今にも泣きそうな空に慌てて着替え、洗濯もんを取り込みに階段を駆け下りた。
取り入れた洗濯もんをたたみ所定の場所に入れる。
それから、夕飯の支度に取りかかるのが日課や。
結局自分の部屋に戻り一息ついたのは、お風呂から出てからやった。
ドライヤーで髪を乾かしながらふとさっきの封筒を思い出し、半乾きの髪のまま鞄からそれを取り出した。
「ほんま、何やろ?」
電気に透かしてみるとなんや四角いもんが入っているみたいや。
「宛名書きは印刷やし、ただのダイレクトメールなんかな?」
それにしては、差出人が無いのはおかしない?と思いながらはさみで丁寧に封を開けて、中身を取り出した。


「えっ!・・・        」





それは、あたしから声も思考回路も奪うんには十分なもんやった。





和葉の気持ち 2
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