平 heiwa 和 2
■ 和葉の気持ち 2 ■

封筒の中身は、たった一枚の写真やった。


平次とあたしの知らない女の子が抱き合っている。


そう、一枚の写真。


その一枚の写真があたしの呼吸を止めようとしとった。
写真を伏せたいのに体が動いてくれへん。
目を反らしたいのに体が言うこと聞かへん。
息をするのも忘れとった体が、苦しそうに空気を吸い込んだんはあたしの意志とは関係なかった。
勝手にその場にしゃがみ込んだんも、あたしの意志とは関係あらへん。
そん時、頭にあったんは写真の中で愛おしそうに女の子を抱きしめている平次の姿だけやった。
ただそれだけ・・・。
あたしの心は、どこにもあらへんかった。


どのくらいの時間そうしてんやろ、あたしの体はエアコンの冷風にさらされてすっかり冷とうなっとった。
半乾きの髪はまるで、氷のように張り付いている。
さっきとは違う感覚で、体が動かへん。
ひとつだけ動いているもの、それはあたしの瞳から勝手に溢れ出している涙だけやった。
目を閉じて涙に意識を集中させる。
目から零れた涙は頬を伝い顎を伝いそして、滴となって落ちていく。
膝の上に落ちた滴は、ちりじりに散ってパジャマに小さな染みをつくっているばず。
まるで、あたしの心を形にしたようや。
ゆっくり、ゆっくり、意識を自分に取り戻す。


平次とあたしは幼馴染みや。
親同士が友人やから、もう記憶に無いくらいから知っとる。
学校もずっと一緒やった。
お互いの家も、もう数えきれん位に行き来しとるし。
そやけど・・・いいや、そやから幼馴染みなんや。


・・・・・・この距離は、やっぱ近すぎたんやな・・・・・・・・


自嘲する小さな笑みが浮かんだ。
それもまた、無意識やった。


あたしは物心ついたころから、ずっと平次を見とった。
いつからって、聞かれてもはっきりとは言えへん。
自分でも気付いたら平次だけを見とった。
それを恋だと気付いたんは・・・・。
「・・・・もう・・・ええ・・・やん・・・・今さら・・・やし・・・・・・・・・。」
思いが、無くした声を掠れたつぶやきとして取り戻してくれた。


あたしは、自分の顔の笑みが少し広がるのを自覚しとった。
涙もいつのまにか、落ちるのを止めとった。


平次があたしのことを何とも思って無いんは知っとったんやし。
あいつに幼馴染み以外の感情がないことを。
一緒にいても当たり前のそれは、たぶん兄妹に向けられるべき感情。
二人とも一人っ子やから兄妹がいてへん、そやから私がその代役。
「・・・・・・・・わかってたことやん・・・・・・・・・・。」
自分自身に言ってみる。
自分の言葉に心が傷つくことを、改めて知っただけやった。


ゆっくり瞳を開き、手の一部となってしまったかの様な写真に視線を戻す。
そして、あたしはさらにゆっくりゆっくりと立ち上がった。
写真から視線を逸らさずに。
頭の中は、何も考えずに。


白い封筒に写真を戻し、鍵の掛かる引き出しにしまう。
誰にも見つからないように。


そして、あたしはそのまま意識を手放した。






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