平 heiwa 和 4
■ 和葉の気持ち 4 ■

退院後は自己管理もあってか、あたしは体調を崩すこともなく毎日の日程を消化している。
朝起きておとうちゃんが居る日は二人分の朝食とお弁当をつくり、8時丁度に家を出るんや。
そうすると必ず、通学途中で平次に会う。
3年は部活もあらへんから、事件でも無い限り平次はこの時間帯に学校に向こうて歩いてるんや。
まぁたまに、汗だくで後から走ってくることもあるけどな。
そういう日は、たいがいおばちゃんがおらん日なんや。
「おはよう!」
あたしが声を掛けると平次は振り返って、
「おぅ、おはようさん。」
と眠そうな顔で笑ってくれる。
そのまま並んでいつものやりとりが始まるんや。
学校に近づくにつれて、友達が一人増え二人増え、校門を通るころには10人以上の団体様になってもうてるんもいつものことやし。
ひどい日なんか下級生もまざったりして、進路妨害甚だしかったりもするんやで。
平次の周りにはいっつも自然に人が集まってくる。
まぁ、わかるだけに文句もいえん。これも日課のひとつやしな。
「はぁ・・・。」
あたしは思わず大きな溜息をついたらしい、平次が方眉上げてツッコンできた。
「なんや〜和葉〜、朝っぱらからぶっさいくな面やのぉ〜。」
「うっさい!乙女の悩みは尽きんのや!」
「はぁ?オカメの悩み〜?」
「乙女や乙女!平次〜あんたの耳まだ寝てるみたいやからあたしが起したるわ。」
あたしは平次の耳を引っ張って口を近づけた。
「オバカ〜〜〜〜!!!!」
大音量で叫んで、仲の良い友人達と笑いながら先に校舎に入って行く。こんなんも日常や。

あたしはうまく出来てるやろか。

教室に入ってもHRが始まるまでは、全員受験生にもかかわらず賑やかなクラスやで。
そやけどやっぱし受験生、話題はどうしてもそっち方面になってくる。
「和葉〜〜、和葉はやっぱり横浜受けるん〜〜?」
あたしの前に座っている華月(かづき)がくるっと体ごと振り返っている。
「そやよ。」
「ふ〜〜〜ん。」
なんやその目。
「服部くん、東都大やもんな〜〜。」
あ〜〜やっぱりや。
「何言ってん。あいつなんか関係あらへんで〜。あたしは蘭ちゃんと約束したんやから。」
「蘭ちゃんて東の名探偵の彼女やろ。」
「そうや。やから男は関係あらへんで。」
「相変わらずやな〜和葉は。東の彼も東都大やろ。それやったら、東西名探偵コンビと東西彼女コンビの立派なセットやんか〜。」
ニヤニヤとあたしの机に頬杖ついて「どやっ!」って顔しとる。
確かに蘭ちゃんは工藤くんの彼女や、けど、あたしは平次の彼女やない。

ピッシ・・・・また少し・・・・ココロ・・・・が・・・・・コオル・・・・・

あたしは少し顔を赤らめて華月を睨み返すんや。これが、いつものあたしやから。
華月はまだ何か言いたそうやったけど、先生の登場でしぶしぶ前に向き直った。
そして、あたしは華月の背中をツンツン突いて振り向かせ、あっかんべ〜をしてみせる。
これも、いつものあたしのいつもの仕草。

いつものあたし。
そう、いつものあたしや。

頭の中で呪文の様に繰り返す。
あたし以外のすべての人に、いつものあたしでありますように。

平次に彼女がいることを誰も知らへん。
あたしの心が凍り始めていることも誰も知らへん。

そやから、この仮面はきっと剥がれることはあらへん。

あたしが壊れへん限り。

そんなあたしに、また、白い封筒が送られてきた。





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