■ 11コメのオレンジ ■ |
和葉はコンビにの中で温かい飲み物を選びながら、外の様子が気になってしかたなかった。 ・・・・・・・・・・・さっき何も心配すること無いって・・・・思ったばっかやのに・・・・・・・・・・・ 隆史のバイクから降りるなり平次に駆け寄る翔子の姿は、嫌でも和葉の目に入ってしまったのだ。 「・・・・・・・やっと・・・してくれたのに・・・・・。」 2人にとって、あれが始めてのキスでは無い。 ファーストキスは付き合いだした日に済ませている。 だけど、平次はそれ以来和葉にキスをしてはいなかったのだ。 和葉自身も自分からしたこともなければ、求めたこともそんな素振りを見せたことも無い。 年上の自分がそんなことを望むのは、ふしだらな印象を平次に与えてしまいそうで恐かったのだ。 和葉だって年頃の女性である、”大好きな彼と”と色々想うのは当然なのに。 「和ねぇ。そんなに悩むくらいやったら全部買うたらええやん?」 からかう様に声を掛けたのは尚登だった。 「そやけど、和ねぇが飲めるんはここには午後ティとスープしかないで?」 とその両方を持ってみせたのは隆史。 「どっちにしよ?」 「腹持ちがええんはスープやで?」 「なおくん・・・・もうお腹空いたん?」 和葉は不思議そうに尚登を見上げた。 「ちゃうで和ねぇ。こいつ、昨日おばさん怒らしてしもて朝食抜きやったらしいで。」 隆史には、さっきまでの疲れた表情は微塵も無い。 「何やったん?」 「和ねぇ・・・。そのいかにもオレが何かやったって思ってる言い方おかしない?」 尚登もさっき平次に見せたシカトとは、まるで正反対。 「え?ちゃうん?」 「違わへん。」 「うっさいで、たか。オカンがオレの可愛ええ愛車にま〜た花柄のシール貼りよったんや。今日の為に、せっせと磨いてたのにやで?」 「おばちゃん好きやもんね。花柄。」 和葉はなぜか納得。 「そういう問題ちゃうやろ和ねぇ?男のバイクにピンクのチューリップって有得へんやんかぁ。」 「今度はチューリップやったんや。」 「この前は確かピンクのバラやったな。」 と和葉と隆史はさらに納得顔。 「や〜か〜ら〜そこ納得するとこちゃうて!」 「でも、そのシール剥がしてまたおばちゃん怒らしたんやろ?なおくん?」 「そうそう。せっかくおばさんが貼ってくれたモン無駄にするなや、なお。」 「うわっ!2人してオカンの味方するんや・・・・。」 尚登はガ〜ンって感じで両手を頭に当てて数歩下がった。 「ぷっ。なおくん大袈裟やで〜。」 和葉は可笑しそうに笑っている。 「あたしが何か買うて上げるから、元気出しや。」 「やった〜!和ねぇのオゴリや!」 尚登は復活が早い。 「和ねぇ、こいつ甘やかしたら付上がるだけやでぇ?」 「たかくんも何か食べる?」 「オレ、肉まん。」 「お前が一番ずっこいで!」 3人はやいやい言いながら、楽しそうにコンビニの店内を散策し始めた。 隆史と尚登が側にいて、和葉に淋しそうな顔をさせるはずがなかった。 2人は和葉が余計なことを考えなくてもいいように、次から次へと話題を変えて和葉を笑わせていった。 この2人、和葉のことを”和ねぇ”と呼んではいるが、実際は年下の女の子のように大切に接して来たのだ。 純粋に過保護度では、平次より遥かに上である。 だから和葉のどこか妹ぽっいところは、彼らが原因と言えないことも無かった。 2人にとって和葉は、誰よりも守るべき存在なのだから。 そう、誰よりも。 もちろん、その”誰よりも”には当然平次も含まれている。 コンビニの外では、そんな2人に綺麗に見捨てられた平次が翔子相手に悪戦苦闘していた。 「どうして?どうして呼び捨てなの?」 「そっ・・・・それは・・・・あれや・・・・。」 「な〜に?」 「か・・か・・かず・・かずねぇ・・・・・うっ//////。」 平次はなぜか1人で赤くなってしまった。 「?」 「和ねぇ言うんが恥ずかしいんじゃボケッ!////」 もう、やけくそで怒鳴っている。 「ぷっ。」 それなのに、翔子は可笑しくて堪らないといった感じで笑い出してしまった。 「あはは。服部くん可愛〜〜〜!!」 平次が睨んでも効き目無し。 「ごめ〜ん。ほんとは私、知ってるの〜。」 「はぁ〜?」 今度は何を言い出すのかと身構える。 「うふふ。あのね。一昨日のことなんだけどね。服部くんのお母さんから聞いたの。ふふ。」 「はぁ〜〜〜〜?!!!」 「私ね。ほんと言うとね。服部くんと遠山先生のこと疑ってたの。それで〜、思い切って服部くん家に電話したら服部くんのお母さんが出たの。」 平次の家に電話したのだから、それは当たり前である。 「だからね、がんばって服部くんのお母さんに色々聞いちゃった。」 「・・・・・・。」 平次の顔には、すでに数本の青筋が。 「服部くんは小さいころ、遠山先生のことを本当のお姉さんだと思ってたんでしょ?それが小学5年生の時にそうじゃないんだって分かって、寝込むほど落ち込んだんだよね。それから、遠山先生のことを”和ねぇ”じゃなくて”和葉”って呼ぶようになったんだってお母さん言ってたの。」 「・・・・・・。」 「他にもね、いっぱい教えてもらっちゃった服部くんのこと!坂本くんと高岡くんとは幼稚園のころからの親友だとか、探偵始めたのは中学のころからだとか、初恋は小学校の3年生だったとか、寝相がとっても悪いとか。ふふふ。」 「・・・・・・。」 平次は口の端がひくひくと引き攣っているみたいだ。 だが、翔子の話はまだ終わらない。 「服部くんのお母さんてとっても面白い人ね。そうそう、それからこんなことも教えてもらったの。”あの子一人っ子やろ。やから和葉ちゃんはあの子にとって唯一甘えられる存在なんよ。あれは、極度のシスコンやで。”だって。ほんとなの?」 と小首を傾げる翔子の声は、甘えるような笑いを含んだ響きだった。 「・・・・・・は・・・はは・・・・。」 平次の声は乾ききっている。 ・・・・・・・・・・・何考えてんねんあのオバハン・・・・・。 ・・・・・・・・・・・他人にベラベラベラベラいらんことしゃべくりおってボケが! ・・・・・・・・・・・しかも・・・・シ・・シスコンちゅうのは何やねん!大概にせぇやババァ!! 平次は普段から何を考えているか分からない母親に、心の中で盛大に悪態をついた。 しかし、翔子は平次の秘密を知っていることが嬉しいのか、ニコニコとご機嫌だ。 「お〜いへ〜ちゃん!ほれっ。」 しばらく握り拳をフルフルと震わせていた平次に、コンビニから出て来た尚登がポイッっとコーヒーを投げて寄こした。 そして、 「桂木は午後ティでええかぁ?」 とさり気なく手渡しながら、二人の間に自然と入り込んで行く。 「うん、ありがとう。高岡くんが買ってくれたの?」 「ちゃうで、和ねぇのオゴリや。」 「だったらお礼言わないとね。遠山先生は?」 3人は同時に、まだ、コンビニの中にいる和葉と隆史に振り返った。 視線の先では、隆史と和葉が楽しそうに何か話している。 そして。 隆史が食べている肉マンを、和葉が嬉しそうに一口貰っている姿だった。 |
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