ROUND 1 「 Learn 」 |
大学入試が終わったあの日。 俺は、人生最大のミスを犯した。 東京で東都大学の試験を受け終わった次の日、俺が家へ帰ると、そこには和葉がいた。 長い年月一緒にいるおかげで、部屋の俺の布団で和葉が寝てることには、慣れてしまった。 男として、「それもどないやねん!」と言ってくる友達はぎょーさんいるけど、俺は、別に気にしてへんかった。 寝てる間にさっさと着替えて、起こそうかと思ったら、和葉がぼんやり、目を開けた。 「なんや、おまえ、起きたんか?」 焦点が定まっていない和葉の様子が、面白いと思った。 「おーい。」 手を、目の前でひらひら動かす。 ・・・・・・・・・・こいつ、誰が傍にいるんかわかってへんな。 そんなことを思っていたら、和葉が動いた。 寝ぼけながら、それでもまっすぐに、俺の顔まで手を伸ばしてきた和葉に、少し驚く。 次の和葉の言葉で、俺の動きは、固まりきってしまった。 「 」 へらっと笑って、ポツリとつぶやく和葉。 言うだけ言うと、和葉は再び、眠りにつき始めた。 俺の頬をかすって落ちていく和葉の指の動きにあわせて、痺れが走った。 猛ダッシュで、部屋から出た。 扉を閉めて、床にへたり込んだ。 耳が熱い。 鼓動が早い。 なんや、今の?! 夢と現実が混同したような様子。 なんて事を言いだすんや、あいつは。 そんなそぶり、無かったやんけ。 それとも、分からんように、ずっと俺のこと・・・ 嬉しいような、こそばゆい感情に支配されて、突然、水をかぶったかのように一気に冷静になる。 あいつは、さっき、言うてる相手がわかってたんやろうか。 あの様子は、かなり寝ぼけていた。 もしかすると、俺以外の誰かに言うてるつもりやったんかもしれん。 俺以外の、誰かに。 なぜか、怒りがふつふつ湧いてくる。 気分が悪い。 茶でも飲んで一息つこうと考え、立ち上がる。 窓ガラスに自分の顔が写った。 その顔は、泣きそうにも見えて、情けなさが募った。 ぼーっと、テレビをつけて茶をすする。 季節柄、バレンタインのネタが多い。 「去年は、あいつに貰ったんやなぁ・・・。」 ビターなチョコレートケーキ。 受け取った時は、なんも考えてなかったのに。 今から思うと、あれほど嬉しいものが無かったようにも感じる。 今年は、俺以外の男にあの笑顔でやるのだろうか、と考えてしまい、湯飲みを持つ手が震えてくる。 「なんで、俺がこんな悩まなあかんねん。」 『今考えたら、あれが、恋だったんですね。』 テレビから、突然聞こえてきた言葉に思考が奪われた。 落ち着いた雰囲気の女性が、コメントしている。 『一緒にいるのが楽しかったり、小さなことでドキドキしたり。気づいたら、止まらなくなっちゃって。』 笑顔で語る彼女の言う事を、自分に重ね合わせる。 和葉と一緒にいるのは・・・楽しい。 喧嘩しても、何があっても、あいつと一緒にいることで、気持ちが暖かくなる。 和葉の行動によって、俺は・・・ドキドキしてる。 あいつのさっきの行動みたいな無防備さとか。 良い事があったときの最高の笑顔とか。 その感情を、先ほどの女性の言葉に重ね合わせてみる。 それは、つまり。 服部平次は、遠山和葉に惚れているのだ、という事実に行き当たった。 「俺が・・・和葉に・・・?」 しかし、そう考えたら納得の行く事が多すぎる。 自覚してしまうと、想いが止まらない。 好きで、好きで、たまらなくて、今すぐ二階に上がって、抱きしめたくなる。 しかし、先ほど、和葉に好きな相手がいる事を知ってしまったところだ。 そういうわけにはいかない。 「・・・どないせぇっちゅーねん。」 『だからこそ頑張って、振り向かせるんですよ!』 タイミングよく、テレビから声がする。先ほどとは違う女性が言葉を続けた。 『勇気を出して、アタックして、他の人になんか目が行かないようにするんです!』 「勇気を出して、アタック・・・。」 今まででは、思いもよらなかったような言葉。 けれども今は、勇気の出てくる言葉。 「和葉を、振り向かせる。」 今、和葉が誰を好きでも関係ない。 自分が努力して、彼女を振り向かせれば良い。 瞬時に、彼女と過ごすばら色の未来を想像して、やる気が出てくる。 「・・・やったろやないか!」 こうして、俺のバトルが始まった。 ROUND 2 |