ROUND AFTER 「 judgement 」 |
Winner×Loser 〜恋人は(黒)サンタクロース〜 12月26日。 遠山和葉は目が覚めるなり日付を見て、ホッとした。 時刻は朝の7時。 早くは無いが、遅すぎることもない時刻。 「良かった、何もなかった・・・。」 隣でぐっすりと寝ている恋人(半旦那)に目をやりながら、安心感はひとしおだった。 東京に引っ越してきて・・・いや、引っ越しさせられて4ヶ月。 平次の自分への愛情の強さは、止まるところを知らなかった。 それは、素直に嬉しい。 事件の次に、自分のことを考えてくれている。 しかし、愛されすぎるのも困りものだ。 何せ、平次の愛は直球ストレートなくせに、時々、歪で。 新米の刑事をびびらせて、手錠を借りて帰ってきた時はどうしようかと思った。 (何に使うのか、とかも聞かずに、そのまま工藤家に逃げ込んだので、あの二人がカタをつけてくれたが。) そんな溺愛者であり、少しずつ嗜好が怪しくなってきた平次と12月24日、25日を過ごす。 これは大きなピンチだった。 言わずと知れたクリスマス。 中学生以降、プレゼントをくれたことのない平次でも、さすがにどんな日かは分かっている。 クリスマス=サンタクロース。 今は百貨店でもコスプレの衣装を売っているような時代。 どんな事になるかは目に見えている。 下手をすれば、次の日、足腰が立たなくなってしまう。 26日には、蘭や園子とお正月の3カップル合同初詣についての第一回相談会を行う。 それに出席するためには、きちんと体力を残しておきたいと考えていたのだ。 12月23日、ちょうど大きな事件が発生したところで、平次は遠くへと行ってしまった。 帰ってきたのは25日、夜の11時。 かえってくるまではきちんと出迎えた和葉だが、平次がお風呂に入っている間に寝て、逃げたのだ。 恋人らしいクリスマスを過ごせないのは心苦しかったが、久々に会える友人達との約束をダメにはしたくないため、和葉は頑張ったのだ。 「今日はおでかけや!さっさと用事すましてしまお。」 気合いを入れて、ベッドから降りる。 いつものように、朝の仕事にとりかかるため、まず、ベッドから降り、タンスを開けた。 「・・・え?」 目に飛び込んできたのは、中に入っているものが何か、一瞬で分かるような小さな箱。 白い箱に赤いリボン、そっと、クリスマスカードが添えられている。 「・・・うそ?」 驚きながら箱を開ける。 中から出てきたのは、綺麗な指輪。 シンプルなシルバーのリングに、大きさの違う石がちょこんと2つ並んでいる。 「Merry Christmas!」 声に驚いて振り向くと、平次が起き上がっていた。 「平次?これ?」 「こないだ、見てたやろ?」 ふぁ・・・とあくびをしながら、平次は和葉の所へ来る。 「へ、平次、見てたん?」 「あーんなキラキラした目で、ガキみたいに張りついとったら、誰でも分かるわ。」 「が、ガキて・・・!」 怒ろうとする和葉の手から、ひょいっと箱を取り、指輪を外す。 「おい、手。」 「あ・・・。」 反射的に利き手を出した。 「・・・ちゃうやん。」 ぐいっと左手を引っ張ると、かなり強引に薬指へと指輪を滑らせた。 「お前にやる指輪は、これからもずっとここやからな。」 「・・・平次!」 浅黒い顔がまっ赤になるくらい照れるくせに、こんなに嬉しいことを言ってくれる平次。 泣きたくなるくらいに幸せだと、和葉は思った。 「待っててな、美味しいご飯作るから。」 喜びをかみしめながら、再びタンスの中を見ると・・・。 まともな服が一枚もない。 代わりに入っているのは、赤と白の帽子とワンピースが一着。 それのみ。 昨日の朝までは確かにあった、白いニットのワンピースや薄いパープルの上着はどこへ行ってしまったのか。 「・・・平次。うちの服は?」 「いやー、和葉がこんなに喜んでくれるとはなぁ。」 「平次。なぁ?」 「せやのに、お前からのプレゼントはどうなんやろなぁ?」 「平次!!」 「・・・プレゼント。」 「はぁ?」 「プレゼントくれたら、返したるわ。」 つまりは、クリスマスの仕切り直しだと。 「イベント好きのおまえのこっちゃから、ちゃんと楽しめるように衣装用意しといたったのにやなぁ。」 「楽しみたいのは平次や無いの!!」 「お、よぉ分かってるやないか。」 「服返してぇな!」 「せやから、プレゼントくれたら返すて。」 「プレゼントなら、平次用にライダージャケットとグローブ!!」 「お!それもええなぁ。せやけど。・・・もっとあまーいヤツ。今年は俺、ケーキも食べてないし・・・なぁ?」 じわじわとクローゼットに追い詰められて。 髪をひとすくい持ち上げられ、口付けられる。 平次はとても良い笑顔だが、その目が笑っていない。 和葉は後悔した。 「こないなるんやったら・・・つきあっといたら良かった。」 『ごめん、蘭ちゃん、園子ちゃん。』 心の中で謝りながら、和葉は諦めてキスを受けた。 結局、和葉が衣装で美味しく頂かれたのか。 それは、平次のみが知っている。 |