― 非常識な幼馴染 シリーズD ―

■ 勝利祈願 ■
 
「ほな、今日の練習はこれで終いや。ちゃっちゃっと片付けせぇや。着替えたら、すぐ行くで」
「は〜い」とか「へいへい」とか皆それぞれに返事してから、動き始めた。

「どこ行くねん?」

かったるそうにタオルを首に掛けた服部や。
「そう言やぁお前昨日居らへんかったな。」
「で、何所に行くんや?」
ったく、少しは会話に乗れや。
「そこの神社に必勝祈願や。お前も来いや」
「はぁ?何で今更そんなんせなあかんねん?」
おいおい・・・
「明後日の試合は、地区予選なんやで?全国制覇ん為にも、皆の士気高める為にも行くやろ普通?」
「そうかぁ?」
何や?その不服そうな面は?
「俺はパスやな」
「何でや?」
お前のせいで、皆の動きが止まってしもたやないかい。
「御守りやったら持っとるし、今更神頼みなんかったるいわ」
「・・・・・・」
お前はそういうヤツやったな。

「服部先輩の御守りって、どこの神社のなんですか?」

オレが黙っとるのをええことに、1年がしゃしゃり出てきよった。
「あっ、オレも聞きたいっす!いっつも持ってはるから、気になってしもて」
お〜お〜、片付けさぼって集まって来よったで。
「これかぁ〜?」
服部もそんな1年坊主どもを特に気に留めることも無く、肌蹴とった胴着の中から御守りを引っ張り出した。
「ほんまに肌身離さず持ってはるんですね」
「よっぽど御利益が有るんすね〜」
「おれらも服部先輩に肖りたいっす!どこの神さんなんですか?」

お前ら・・・聞かん方がええぞ。

オレの諌める様な視線は、坊主共のキラキラお目目には歯が立たん。
服部は服部で、オレなん眼中に無いっちゅう感じやしな。
御守りの袋開けとるし。
「ここやで」と、

”和葉大明神”

と小っこい紙にデカデカと書かれた御札なんか何なんかよう分からんモン翳して見せとるし。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ほれみぃ、言わんこっちゃない。
て何も言うてへんけどな。
一年坊主どもは口をぽかんと開けて、固まってしもてる。
それを遠目に見とった2・3年も、あ〜またかと言わんばかりに溜め息零しとるし。
ここはやっぱりいつもん様に、オレがびしっと言わんとあかんのやな。
そう思うて口を開こうとしたら、

「皆お疲れ〜〜!」

と和葉大明神の声がした。
あっ、いや、遠山の声や。

「「「 和葉大明神さま!!! 」」」

何を思うたんか一年坊主どもは、オレと同じことを声に出して叫んどる。
しかも何気に”さま”付きや。

これには流石の遠山も驚いて、手に持っとった袋を前に付き出したまま後ずさっとるで。

「「「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏・・」」」

それやのに坊主どもは更に拝み初めてしもた。
しかも、その文句は明らかに間違うとる。

これはマズイんちゃうか?と遠山の方をちらっと見ると、案の定見る間にその顔が鬼の形相に変貌していってしもた。

「へ〜い〜じ〜〜〜〜!!」

遠山は叫ぶが早いか、持っとった袋を手を合わせて拝むポーズをしとる1年坊主のその手に引っ掛けて、えらい勢いで服部に突進して行った。

「ちょっと平次!どういうことなん?!何であたしが”大魔神”なん?!!」

しかもや。
”大明神”が何でか”大魔神”になっとるし。

「放さんかいボケッ!俺は何もしてへんわ!」
「そやったら何であたしが”お払い”されなあかんの?!!」

遠山のその声に周りで傍観しとった2.3年が思わず噴出してしもた。
そやけど遠山に”ギロッ”ちゅう音がしそうな眼光で睨まれて、皆一斉に無理やりそ知らぬ素振りや。
お前ら・・・
改方学園剣道部員たるもの、女子の一睨みでビビルなど言語道断やぞ。
と言いたいとこやが、この遠山は正直オレも怖い。
やから今日のところは許したるわ。

「そんなん日頃のおまえの行いが悪いんちゃうかぁ?」
「あんたに言われたないわ!」
「おっ、その顔なん正に”大魔神”やで〜」
「何やてぇ〜〜!!」

遠山は”てぇ〜”も言い終わらんうちに服部の足を払うた思うたら、そのまま投げ飛ばしてしもた。
剣道では負け知らず、全国にその名を轟かす服部をや。
まぁ、オレらからしてみたらこれも見慣れた光景で今更驚くことでもないが、1年坊主どもには信じられへん出来事やったんやろう。
見事に全員真っ青や。

「か・・和葉大魔神さま・・・」

それやのに、まだ言うか。
しかも何気に”大魔人”になってるで。
この状態で更に遠山の機嫌損ねてどうすんのや。
そう思うて遠山を恐る恐る見てみると、

「あんたらも今度念仏唱えたらどうなるか分かってるな?」

と服部に続いて案の定1年坊主まで威嚇しとる。
1年坊主どもはコクコクとロボットんように頷くんが精一杯みたいや。

ああ〜改方剣道部の威厳は木っ端微塵や・・・はぁ・・・

「遠山」
せめてオレだけでも威厳を保たねばと思うて、勇気を振り絞って声を出した。
まぁ、この時点で威厳もへったくれも無いけどな。
「何?」
猫目が更に釣り上がった状態で、視線をこっちに向けた遠山にやはり少し怯んでしまう。
「お、お前は何しに来たんや?」
この際、今までのことはスルーした方が懸命やろ。
すると遠山はあっちゅう感じで手をぽんっと叩いた。
ほんで、いそいそと1年坊主の手に掛けとった袋を取って、
「これアイスやから、皆で食べてな!」
と可愛らしい声でにっこり笑顔。

「「「「「 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 」」」」」

・・・・・・・こ・・・怖い・・・

何が怖いいうてやな、この変わり身の早さが怖い。
正に”大魔人”の変わり身、さっきまでのは何やったんや。
服部なん未だに、そこに転がったままやぞ。

オレらが放心しとる間に遠山は、何事も無かったかのような笑顔を振り撒いて去って行ってしもた。


結局この日、近くの神社への勝利祈願は行けず終いやった。


そやけど何でか地区予選では、1年坊主に至るまで部員全員が予選を突破した。
これは改方剣道部始まって以来の快挙や。

後日、道場の神棚に”和葉大明神”の御札が奉られたんは言うまでもないやろ。



遠山、恐るべし。





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