― 子供に戻って反省しなさい! シリーズD ―

■ ペットはペット ■
小さい平次は昨日、夕食を食べた後、クローゼットの中に押し込められてしまった。
渡されたのは、非常用の小さなペンライトだけ。
そんな物を渡されてもこれといって使い道も無いので、早々と寝ることにした。
体力的に疲れていたのと、いろいろとショックなことが立て続いて精神的にお疲れだったのだ。

翌日は美味しそうな匂いで目覚めた小さい平次は、目を開きましたが世界は真っ暗です。
それも当然といえば当然、何と言ってもクローゼットの中なのですから。
目をパチパチさせて、改めて自分の置かれている状況を確認。

・・・・・・・・・・・夢やなかったんか・・・・・・・・・・・

しょぼくれても現実から目を背けることは出来無いので、溜息一つ付いた後、思い切ってクローゼットのドアを開いた。
「あっ、クロおはよう!よう眠れた?」
笑顔の和葉が小さな座卓に朝食の用意をしながら、声を掛けてきた。
「・・・・・」
「どしたん?寝心地悪かったん?」
そんな問題では無いと思っても、ここは我慢した方が得策だろうと、小さい平次は首を小さく振ることで答えた。
「ほな、お風呂場に用意してあるから、早う顔洗ってきや。」
和葉は小さい平次に向ってそれだけ言い添えると、自分は再びキッチンで何やら準備をし始めた。
小さい平次は言われるがままに和葉の後ろを通って、お風呂場のドアを開ける。
目に飛び込んで来たのは、洗面器。
お風呂椅子に乗せられているわけでもなく、そのまま、お風呂場の床の真ん中にデンと置かれていたのだ。
軽く見回してみても石鹸もタオルもなく、ただ水の入った洗面器が有るだけ。
流石にタオルは必要だと思ったのだろう、小さい平次はお風呂場のドアから顔を出して、
「和葉〜〜!タオルはどこや〜〜?」
と言ってみた。
すると、
「タオルなん要らへんやん。犬はブルブル体振って水飛ばすんちゃうの?」
と即答されてしまったのだ。
「ええ〜加減にせぇや!俺は犬とちゃう!人間さまや!!」
我慢の限界、小さい平次は爆発した。
しかし小さいだけに迫力も小さい、威厳も小さい、大人な和葉から見れば、子供が拗ねている程度。
実際そうなのだから、仕方が無い。
「ふ〜ん・・・」
驚くことも無く、半眼で返されてしまった。
腰に手を当てて暫らく小さい平次を見下ろしていたが、何を思い付いたのか、そっと小さい平次の左頬に右手を添えた。
「ペットになってくれる言うたよね?」
突然、額がくっ付くくらいの距離で囁かれて、
「いう・・・いうたけど・・・」
小さい平次の威勢はどこへやら、返事にも吃る有様だ。
「ペットいうたら犬ちゃうん?」
「人間でも・・・ええやろ・・・が・・・」

・・・・・・・・・・顔!近い!近過ぎや!・・・・・・・・・・・

「人間のペット?」
「そ・・・そうや・・・別に・・・問題無い・・・やろが・・・」
小さい平次の声は段々トーンダウンしていった。
それ程、和葉の顔は近いのだ。
「それって・・・・・・て言うこと?」
肝心な部分だけ和葉は、小さい平次の耳に唇が当たる位置で甘く囁いた。
「へ?」
小さい平次はその姿勢のままで強直。
「そういうことやろ?ペットなんやから?」
和葉は小さい平次の頬を両手で包み、その耳たぶを軽く甘噛みする。

・・・・・・・・・・・あ・・・あい・・・あい・・・・・・・・・・・

一瞬にして小さい平次の脳裏には、禁断の目眩めく薔薇が飛び交う映像が上映され始めた。
あ〜んなことや、こ〜んなことが勝手にどんどん映像化されていく。
「ええの?あたしのおもちゃになりたいん?」
和葉の声まで、甘い響きを含んで伝わっているご様子。
「いじめてもええの?」

・・・・・・・・・・・い・・いじめて下さい・・・・・・・・・・・

真面目にそう思う小さい平次だった。
小さくなっても頭脳は大人、あっちの欲求はそれなりらしい。

が、

「やっぱあかんわ。それ犯罪やもん。」

と小さい平次の紫色の妄想は、さっきまでの雰囲気は何所へやら、あっけらかんとした和葉の声に掻き消されてしまう。
「ほら、ぼ〜としてへんとさっさと顔洗いや。」
更に和葉は何事もなかったかのように、再び、朝食の準備に戻っていってしまったではないか。


小さい平次が朝っぱらから、真っ白に燃え尽きたのは言うまでもない。




ちゃんちゃん
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