― 子供に戻って反省しなさい! シリーズC ―

■ クロのお家 ■
和葉は蘭や新一の勧めもあって、とにかく一度小さい平次を自分の部屋に連れて帰ることにした。

あっ、そうそう、小さい平次の服や靴は新一の家にあったコナンが着ていた子供服からいくつか抜粋して持って来ました。
もちろん、今、小さい平次が着てる服も元はコナンの物です。
他に着る物がなかったのですから、似合うかどうかはここでは問題ではありません。

和葉は自分のアパートに辿り着いてドアの鍵を解除した後、すぐにはドアを開かなかった。
「どないしたんや和葉?」
小さい平次は、下から不思議そうに見上げている。
和葉は小さい平次を見下ろして諦めたように溜息を付くと、ゆっくりとドアを開いた。
小さい平次は興味深々で、和葉の腕の下からその中を覗き込む。
「こらっ!勝手に入ったらあかん!」
「何でやねん?」
とっとと中に入ろうとする小さい平次の首根っこを掴むと、和葉はもう一度外に出した。
「ちょっと片付けるから、そこで待っとって。」
そう言い残すと、小さい平次を外に残してさっさとドアを閉じてしまった。
その場に残された小さい平次は、ブツブツと口の中で文句を言いながら、改めて回りに目をやった。
表通りより2本奥に入っている為に、思った以上に静かで周りには住宅も多い。
しかも女性専用アパートなだけあって、建物もお洒落で綺麗だ。

和葉はこっちに出て来てすぐのころは大学の寮に住んでいたのだが、半年程してこのアパートに引っ越した。
なぜ突然引っ越したのか、その理由を平次は知らない。
一度聞いてみたが答えを逸らかされて、それ以来訊ねていなかったからだ。

「お待たせ。」
ぼ〜としていた小さい平次の頭上に、和葉の声が降って来た。
「おっ・・おお。」
小さい平次はいそいそと和葉が開いたドアの隙間から、初めて入るその部屋に足を踏み入れた。
そこは白が基調とされた、女の子らしい落着いた部屋だった。
小さい平次は、ドキドキで物珍しいそうに、キョロキョロと周りを見回している。
「あんたの定位置は、ここな。」
そんな小さい平次の視線を、和葉が示したその場所は釘付けにした。
「・・・・・ここ?」
「そう、ここ。」
そこはどこからどう見てもクローゼットの片隅で、しかもご丁寧にブランケットとクッション2つがすでに装備されている。
「ほんまに、ここか?」
「冗談抜きで、ほんまにここやで。」
「・・・・・・・」
小さい平次は腕組みをして小さい眉間に皺を寄せて、考え込んでいる様子。
「そやかて仕方無いやん。ここしか、無いんやから。」
和葉は改めて自分の部屋を見回しながら、そう付け足した。
ワンルームでロフトも無いこの部屋では、他に適当な場所が思い浮かばないのだろう。
「そこが嫌なんやったら、ベランダに犬小屋でも買う?」
この一言も小さい平次には、冗談で言っているようには聞こえなかった。
「・・・・・ここでええです。」
「やったら、そこ決定な。」
和葉はやっと笑顔でそう答えると、今度は冷蔵から徐に牛乳を取り出し、食器棚代わりにもしている本棚の一角からスープ皿も取り出した。
小さい平次は嫌な予感がしたが、取り合えず和葉の行動を確認することにしたようだ。
和葉は、スープ皿に牛乳を注いでいる。
そして、小さい平次の定位置にその牛乳の入ったお皿を置いた。
もちろん、直接床の上にである。
「・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・どこまでが冗談やねん?・・・・・・・・・・・

「はい。どうぞ。」
傍目には、和葉はどこまでも本気のように見える。
「このお皿、クロ専用にするから。」
「・・・・・せめて、コップにして下さい。」
小さい平次はこのまま黙っていると、いつまでたってもこの状況は打開されないと悟ったようだ。
「え?犬ってコップやと飲み辛いんとちゃうの?」
「・・・・・コップで十分です。」
和葉はしぶしぶとだが、牛乳をお皿からコップに移しかえた。
「それから、ご飯も人間用でお願いします。」
小さい平次はこれだけは先に言っておかないと、駄目だと思ったのだろう。
「そうなん?ドッグフード買うて来よう思うてたんやけど?」
「・・・・・・・」
小さい平次の予感は的中、黙っていたらカラコロと音のする硬い物体か、はたまた脂ぎった缶詰の中身がお皿に載って登場するところだったのだ。
「人間の食い物やったら、何でもええです。」
疲れきった小さい平次はコップの牛乳を受け取ると、自分の新しい定位置にちょこんと座って、そう呟いた。
「何でも・・・」
だから和葉の呟き返しにさえ、もう小さい平次には反論する気力も残っていなかった。

その為、その後出された夕飯がオムライスで、ケチャップでクマだかウサギだか判別し難い模様が描かれていたとしても無言で食べたに違いない。

小さな服部平次ことクロの、前途多難な1ヶ月はこうして幕を開けたのでした。




ちゃんちゃん
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