― 子供に戻って反省しなさい! シリーズB ―

■ クロって呼んで下さい ■
工藤家のリビングでは、笑顔の蘭、への字口の和葉、呆れ顔の新一、そして困惑の平次と様々な表情で無言の時を過ごしていた。
しかし、しその沈黙を破ったのはやっぱり蘭だった。
「でもね和葉ちゃん。こんなのでも中身は大人なんだから、お留守番くらいは出来るんじゃない?」
「そやけど・・・・やっぱあかんわぁ。いくら見た目こんもうても中身は平次なんやし。誰も面倒見れへんのやったら、大阪に帰ったらええやん。おばちゃんやったら、きっと、大喜びで世話してくれはるはずやし。なぁ?平次そうしぃや?」
和葉のその一言で少し青ざめていた平次の顔から、一気に血の気が引いていった。
今でも何かと世話を焼きたがる平次の母だ、いくら中身は大人の平次であっても、見た目お子様な平次を目の前にすると嬉々として世話を焼き捲くるに決っている。
きっと大量に子供服を購入して、着せ替え人形さながらに色々着せて楽しむだろう。
もしかしたらおもちゃまで買って来るかもしれないし、遊園地などに行きたがるかもしれない。
平次はそんなおぞましい光景を小さな頭をブンブン回して振り払うと、ガシッと和葉の服を掴んだ。
「おかんはアポトキシンのことなん知らへんのやで。どうやって説明すんねん?それにや、こんな姿みたら卒倒して倒れてまうかもしれへんやんけ。ほんで、扱けた拍子に打ち所悪うて、入院してまうかもしれへんで?そうやなくても、騒ぎ出して病院にでも連れてかれてみぃ、宮野のねぇちゃんや工藤にまで迷惑掛けてまうんやで?お前はそれでもええんか?」
怒涛の如く捲くし立て、その上、がんばってうるうるお目目などにも挑戦している。

・・・・・・・・・・・おかんのおもちゃになるなん冗談やないで・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・こうなったら何がなんでも和葉に面倒みさせたる・・・・・・・・・・・

「そう言われてみると、そうやんなぁ・・・」
「やろ?そやったら・・」
「そやけど、あたしはあかんで?」
立ち上がった和葉のスカートを掴んで縋る小さい平次に、和葉は冷たく言い放した。
「でもね、和葉ちゃん。最近何かと物騒でしょ?和葉ちゃんも変な男の人がいて恐いって言ってたじゃない?」
「そうやけど・・・」
「こんなのでも番犬くらいにはなると思うんだけど?」
蘭は”こんなの”と言うときに、平次の頭にペットでも撫でるみたいに手を置いた。
「黒い犬でも飼ったと思って、部屋に置いてみるのもいいんじゃないかな?」
平次にとっては非常に心外な理由だが、今は背に腹は換えられないらしい、ウンウンと大きく頷いているではないか。
「・・・・・・・・・・」
「そうだよ和葉ちゃん。人間だと思うから嫌なんだよ、黒いペットだと思えば気にならないだろう?」
自分に厄介ごとが回って来ないように、新一も一言沿える。
「ええで。俺、お前のペットになったるわ!」
「・・・・・・ペット?」
「そや!」
「・・・・・・犬?」
「猫でも・・ええで?」
「・・・・・・黒色の雑種。」
「雑種って・・・」
「・・・・・・・名前はクロ。」
「・・・・・・」
「・・・・・・・ポチでもええなぁ。」
「クロでええです・・・」

服部平次のプライドは、もうズタボロである。

「だったら決まりね!」
蘭が嬉しそうに両手を敲いた。

「クロ、お手。」
和葉が真面目な顔で、小さい平次に右手を差し出す。
「・・・・・・・」
小さい平次は心の中で大粒の涙を流しながら、和葉の手に自分の右手をグーにして乗せた。
「クロ、お座り。」
「・・・・・・・」
和葉の足元に、ちょこんと体育座り。
「クロ、ハウス。」
「・・・・・・・ってどこに帰ねん!!」
立ち上り歩き出してから振り返って、和葉にツッコミ。
「・・・・・・・躾けが出来てへん。」
「うっ・・・」
半眼の和葉にじと目で睨まれて固まった小さい平次は、首だけをギクシャク動かして蘭に救いを求めた。
が。
蘭は相変わらずの満面笑顔。
しかも、さっきよりさらに凄みが増しているようにも感じられる。
「くぅ〜〜・・・」
固まったまま更に引き攣った小さい平次から出た声は、正に子犬の鳴き声そのもの。

その様子を見ていた新一が、右手で顔を覆って大きな溜息を付いたとしても仕方が無いだろう。


何はともあれ、これにて小さい平次の飼い主は、なんとか和葉と相成りました。




ちゃんちゃん
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